第三幕 四十九話 The Training/想いと想い
「砕魔・死傷裂斬!」
上空からの斬撃。
カルナが《エクスカリバー・星炎》で何とか受け流すが、すかさず鮮夜は上段へ振り抜く一撃を放つ。
「くっ、危なっ!」
紙一重でかわすことができたカルナだが、前髪の先端がかすったのか、目の前を自分の髪が舞っているのが見えた。
しかし、そんなことに気を取られている場合ではない。
まだ鮮夜の攻撃は終わっていない。
鮮夜はかわされた二撃目のことなど既に無視して、軸足をしっかりと地に着けて、回転斬りをカルナへと繰り出した。
《ナハト・ノエル》が蒼い軌跡を生みながらカルナに襲い掛かる。
「うおおおおおっ!」
退かない。
何故なら、自分が一分一秒でも早く強くなることができれば、それだけアリアを救うことへ繋がるのだから。
カルナの心には想いがある。
アリアを愛するという想いが。
《エクスカリバー・星炎》が赤い軌跡を生みながら鮮夜へと向かって行く。
二本の刀は勢いを抑えることもなく全力で同じタイミングでぶつかり合った。
衝撃が周囲に走る。
刀がぶつかり合っただけでこんな衝撃が生まれるなんて、鮮夜とカルナの力がとてつもないということが理解できる。
「フッ、そうだカルナ。戦いには想いが作用する。ただ敵だから。ただ悪だから打倒するのでは駄目だ。明確に何のために自分は戦うのか。その想いを刃に乗せろ!」
鮮夜は鍔迫り合った状態のまま蹴りを放ち、カルナを吹っ飛ばした。
蹴りが自分の体に当たるまでほんの一瞬。
気づいた時には脇を蹴られていた。
何て。
「……くっ、何て強いんだ」
「お前はまだ割り切れてないんだ」
「割り切れていないって何が」
「相手を殺すってことさ」
殺す。
殺害。
もちろん、カルナとて退魔士だ。
悪しき神秘の存在を討つことは今までにも行ってきた。
彼らは人の境界から外れた者。
それを人の理で裁くことはできない。
無理矢理それを行おうとする者たちもいるが、全く持って愚かだ。
だけど。
それでもカルナは優しい心の持ち主だ。
少しでも殺すという行為を回避できるのならそちらを選びたい。
その感情が心にある。
「そんな感情があるうちはオレに勝つなんて絶対に無理だ!」
まるで荒れ狂う鬼のように激しい斬撃を繰り出す鮮夜。
カルナは防戦一方になるしかない。
「そらそらぁっ! これじゃあ、アリアを救う前にお前はエティエンヌたちに殺されて、アリアも辱めを受けて死ぬだけだぞ!」
「――ッ!?」
カルナの眼の色が変わった。
無論、実際に色が変化したわけではない。
鮮夜の言葉がカルナの意識を変えたのだ。
「はあああああ!」
渾身の一刀で鮮夜の斬撃を弾くカルナ。
「チッ――。けど、こんなもんで!」
崩された体勢をすぐに立て直す。
鮮夜は《ナハト・ノエル》を逆手に持ち水平に構えて、右手をカルナに翳すように向けた。
「砕魔・繻木蓮!」
高速で相手との距離を詰め、乱撃で圧倒した後、順手に持ち替え袈裟に振り下ろす。
「何だと」
その攻撃をカルナが全て防ぎ切ったのだ。
「俺はアリアを救うんだ。アリアをそんな目には合わせない!」
先ほどまでのカルナとは違うことが、鮮夜には刃を通して伝わっていた。
だが、まだまだだ。
「だが、実際にアリアはヴィランズにさらわれ、ここにはいない!」
「わかってる! だから俺はこうして強くなるために鍛錬してるんだ!」
「足りない。まだ、こんなもんじゃアリアを救うことなんてできねぇぞ!」
斬るというよりも互いに刀を打ちつける形で斬撃を放ち合う鮮夜とカルナ。
幾度目かの攻撃で再度鍔ぜり合う。
「アリアはこの世界に再び生まれた。聖剣が使えなくなったのはきっと意味がある。だから、俺はアリアには普通の女の子としてこの時代では生きてほしいんだ!」
薙ぎ払う《エクスカリバー・星炎》からは炎の斬撃が放たれる。
「チィ、普通の女だと? だが、アリアは今も戦いに身を置いてるじゃねぇか!」
たとえ相手が炎を生み出したとしても圧倒的な手数の斬撃をもって撃ち払うのが鮮夜だ。
「くっ、アリアは俺のために一緒に戦ってくれている。だからこそ、俺は彼女が生きる世界が幸せであるように俺は戦うんだ!」
前に、前に、前に。
明らかにカルナの戦い方は今までと違っていた。
アリアがさらわれてしまって心には不安があるだろう。
愛する恋人が敵に捕まっているのだから当然だ。
けれど、ネガティヴな想いを込めていない。
ただ、アリアのために。
その想いがカルナを前進させていく。
鮮夜は小さく笑った。カルナには気づかれないように。
「砕魔・紫雲」
相手の武器を巻き込んで自身に引き寄せる。
崩した体に肘打ち、裏拳、回し蹴りの連続攻撃でカルナを地面に叩きつけた。
「がはっ!?」
カルナが痛みに目を閉じていた数瞬の間に鮮夜は《ナハト・ノエル》を突きつけた。
「……俺の負けか」
「いい感じにはなったじゃないか。これからだな。だが、オレには届かない」
「どうしてお前はそんなに強いんだ」
「言ったはずだ。オレには心魂に刻んだ確固たる想いがある」
鮮夜の想いは絶対に揺るがない。
かえでへの想い。
呪いのようでもあるが、彼女への想いがあるからこそ、今の鮮夜がいるのだから。
「想いをより強く刻めば、俺もお前みたいになれるか?」
鮮夜はしっかりとカルナの眼を見つめて頷く。
「ああ。お前が真にアリアを救うために想いを紡ぐのならな」
鮮夜の言葉を噛みしめるカルナ。
その表情に迷いは一切無かった。




