第三幕 四十八話 The Thought/鍛錬開始
視界が再び鮮夜たちの物語へと戻ると、既に次の日になっていた。
スーペリアーズ・マンションではドクターがアーティフィシャル・インテリジェンスである《JASMINE》と共にエティエンヌとジルの情報を集め、セタンタとミス・ファービュラスはそれぞれダブリンとカーディフの街を捜索しながら、ヴィランズたちを倒していた。
ヴィランズと言っても神秘の存在ではなく、悪しき人間なので二人は片手間で叩きのめした後、ポリスに引き渡すの繰り返し。
スプレッド・レイザーは宿敵であるグレイ・トロールとの戦いを終えて、彼をヴィランズ専用のプリズンにぶち込んできた帰りだったので、少し眠ると休息を取っている。
そうして、物語の主人公である鮮夜。
この物語は鮮夜の物語だから。
鮮夜は朝からカルナに鍛錬をつけていた。
「はあああああ!」
「くっ、がはっ!?」
《エクスカリバー・星炎》を《ナハト・ノエル》で巧みに受け流し、隙をついた蹴りでカルナを吹っ飛ばす。
まだ午前九時なのにカルナは既にボロボロの状態だ。
一体彼らは何時から鍛錬を始めていたのだろうかと気になってしまう。
「砕魔・墜閃ッ!」
起き上がろうとしていたカルナに空中から串刺しする一撃を放つ鮮夜。
鮮夜の気配。いや、殺気を感じ取ってカルナは横に転がるようにして凶刃をかわした。
「ハッ、無様だが死ぬよりはマシだな!」
「アリアのためだ。ただ、生きて彼女を救えれば何でもいい!」
カルナの想いを鮮夜は満足げな表情で聞いた。
それでも攻撃の手を休めることはない。
縦横無尽。
攻めて、攻めて、攻め続ける。
鮮夜の攻撃は最早人間業とは思えなかった。
「くそっ、お前本当に人間かよ。こんな」
「フッ、もちろんオレは頭のてっぺんから足の先まで百パーセント人間だ。まぁ、〝ただの人間〟ってわけじゃねぇけどな」
鮮夜が〝ただの人間〟という部分でエアクォーツの仕草をした。
決まりだ。
スーペリアーズではエアクォーツが流行っている。
もうそういうことにしておく。
「それってどういう意味だよ」
「人間だが……」
話している途中にもかかわらず、鮮夜はカルナに斬撃を仕掛ける。
慌てて《エクスカリバー・星炎》で受け止めて、二人は鍔迫り合いとなる。
「超人ってやつだな」
「……」
静寂が訪れた。
トレーニング・ルームに聞こえるのは《ナハト・ノエル》と《エクスカリバー・星炎》の刃と刃が擦れ合う音のみ。
それでは静寂ではないか。
とにかく、空気がシンとなったのだ。
「自分で超人って」
「確かに神現者や魔術士、異能者、妖みたいな奴らからしたら、オレは弱いかもしれない。けどな――」
カルナよりも先に一歩踏み込んで刀を薙ぎ払う。
後退したカルナに向かって《ナハト・ノエル》を突きつけるように構えた。
「オレは人間の中でなら最強だ」
驕りではない。
ただただ真実であり、そしてそれが鮮夜の自信に繋がっていた。
「人間の中で最強?」
そうだ。
鮮夜は確かに人間。
デイタだけで、能力だけで見るならカルナの方が圧倒的にアドバンテイジがあるだろう。
しかし、カルナがこれほどまでに苦戦するのは何故か。
それはひとえに。
「想いの違いだ」
「想いの違い……」
「オレには心魂に刻んだ想いがある。この想いは誰にも、何にも負けない。揺るがない。この想いを貫くためにオレは力をつけている」
「想いが力に」
「カルナ。お前の聖剣がアリアとお前の想いを結んで作り出したものなら、お前にだって譲れない、揺るがない想いはあるだろう」
もちろん、カルナにも心魂に刻んだ想いはある。
彼の全てはアリアのために。アリアと彼女が生きる世界のためにある。
「俺はアリアとアリアを取り巻く世界を守るために、この力を使うって心に決めている」
「いいんじぇねぇか。でもな、それだけじゃ弱いんだよ」
「弱い? 俺の想いが?」
ああ、と鮮夜は力強く頷いた。
「だからお前は、オレに勝てないんだよ」
《ナハト・ノエル》を一閃してカルナへと駆けだす鮮夜。
「カルナ! お前に想いをぶつける戦いを教えてやるよ!」
叫ぶ鮮夜は大きく跳躍して急降下しながらカルナに斬りかかった。