第二幕 三十九話 Battle of Ruluton/戦う理由
「貴様ッ……!」
エティエンヌが必死に自動販売機攻撃の威力を止めようとしている背後から、冷ややかで突き刺さるような声を発したのは、今やミス・ファービュラスというよりも、影の国の女戦士オイフェとしての人格が表面化していると言っても過言ではない、雪渓桜花だった
彼女は両手に自身の想いを念に変換し、これでもかというぐらい込めていた。
とてもじゃないが、今のエティエンヌに防ぐ手段などない。
引き絞った両手を体の前で打ち鳴らすことで爆発的なエネルギアを生み出し、一気にヴィランへと放出する。
「サイ・フォトン!」
ミス・ファービュラスの強烈なエネルギア砲撃をエティエンヌは背中にまともに食らって叫びを上げた。
「グオオオオオオ!」
刹那、砲撃は大爆発して煙がエティエンヌを飲み込んだ。
「気を抜くなよ、桜花!」
「わかってる!」
セタンタと桜花の二人は戦闘態勢を崩さず様子を窺う。
煙が晴れていく。
そこで桜花が見たのは信じられない光景だった。
「そんな。これでもなの」
「本当に元人間なのかよ」
薄くなりつつある煙の中に影が映る。
風に靡く波打つ髪。
煙の中でも禍々しい光を放つ獣の瞳。
その姿が野獣を思わせた。
大戦斧を一閃して煙を払うエティエンヌ。
「元、人間か。確かに俺のことなど何も。何も伝わっていない。彼女を救えなかったことだけは伝わっているようだが」
かつて、ジャンヌ・ダルクが火刑にされると決定した時。
彼女の仲間たちは彼女を救うためにヴィエ・マルシェ広場に駆けつけようとした。
けれど、エティエンヌ=ド・ヴィニョルを含むジャンヌの騎士たちが彼女もとへたどり着くことはできなかった。
彼女が生きているうちには。
そのことが伝わっていて何が伝わっていないと言うのだろうか。
ここにいるのはエティエンヌ=ド・ヴィニョル本人。
だからこそ、本人だけが知る真実があるということなのか。
「そんな話、どうでもいい。俺はアンタという邪悪を討つだけだ」
構えるセタンタに呼応するように、ミス・ファービュラスも念を込める。
「邪悪……。この俺を邪悪と言うのか。ならば、問おう。エリンの光の御子よ。貴様は何のためにこの時代で、スーパーヒーローなどというものになって戦っているのだ?」
唐突に告げられた質問にセタンタはうーん、と考える。
まぁ、考えるまでもない。
彼の戦う目的は既に決まっている。
それをヴィランに話すべきことなのかどうかを考えていただけだ。
「俺の戦う目的だぁ? そんなもん決まってる。俺は俺の想いに従って戦っているだけだ」
「貴様の想い? それは一体何だ」
「愛だ」
はぁ、とため息を吐いたのは果たしてヴィランであるエティエンヌのものか。それともミス・ファービュラスものか。
セタンタが愛と告げた瞬間に激闘の舞台に静寂が訪れたのは確かだ。
その静寂を破ったのはエティエンヌ。
「愛だと? 愛する者のためになのか? あそこの女か?」
ミス・ファービュラスを指差すエティエンヌにセタンタはまさか、と首を振った。
「アイツは……腐れ縁ってやつだ。残念ながら、この時代でまだ俺が添い遂げようと思う女には巡り合ってねぇ。でもな、再び生を受けた。なら、この時代で生きていくしかねぇ。生きていくってことは、愛がなくちゃいけねぇだろ?」
当然のようにセタンタは話す。
余程意外な答えだったのか。エティエンヌが声を上げて笑った。
「クッ、フフフハハハハハッ! 愛か。ということは、この世界に貴様が添い遂げる女がいるかもしれないから守っていると言うのか」
「ま、そういうことになるな。愛する女と一緒にいる。楽しいことをして、体を重ね、心も結ぶ」
「それでいいのか? アルスターのために戦っていた貴様が」
「勘違いしてもらっちゃ困るんだが。確かに俺はアルスターのために戦っていたが、あれも厳密に言えばアルスターにエマーがいたからだ」
エマーとは、セタンタがその生涯で心から愛したたった一人の女性のことだ。
彼はモリガン、スカーサハ、ウルタハ、オイフェなど数々の女性と関係を持ったり、好意を寄せられたと言われている。
実際、オイフェに至ってはセタンタの息子まで産んでいる。
けれど、セタンタが心から愛していたのはエマーただ一人だった。
影の国に行ったのもひとえにエマーのためにだ。
「そりゃ、王にもいろいろ良くしてもらったりしていたから、恩返しはしたいと思っていた。けど、本当のところはエマーを守る。エマーが生きる国を、世界をな」
「ならば、俺と同じじゃないか」
「何?」
「俺とて彼女のためにこの時代で行動しているだけだ。それを貴様は邪悪だと言うのか!」
吠えるエティエンヌ。
自分とセタンタの何が違うのか。
同じ想いを持つなら邪魔をするなと。
「同じじゃねぇよ」
「だから、どこがだ」
「アンタのは俺の目的をも脅かすからだ」
「……つまり、彼女を救済することが貴様の邪魔になるからか」
「俺のもそうだが、他の連中にとってもな。宇宙のどっか端っこでやってくれるなら全然構わねぇけど。ここでは駄目だ。俺の女がいるかもしれねぇからな」
「ふざけるな……。ふざけるなよ。クー・フーリン!」
エティエンヌを取り巻く空気が、威圧が重々しいものへと変化していく。
「クー! 相手を怒らせてどうする!」
「いいんだよ。俺も気に入らねぇからな」
まったくと言いながら、ミス・ファービュラスは浮上して空中からブラストを放つ。
けれど、悉くエティエンヌの大戦斧に掻き消された。
「クー・フーリン。貴様とは相いれないとわかった」
「こっちは初めからだけどな」
「俺の邪魔をするならば、貴様も同様に壊すまでだ」
「いいぜ。そろそろ決着つけようじゃねぇか。ラ・イールさんよ!」
「いくぞ。クー・フーリン!」
「おうよ!」
セタンタは《カサド・ドヴァッハ》を構え、エティエンヌは大戦斧を構えて、二人はほぼ同時に大地を蹴り、一瞬で間合いを詰めて、刃をぶつけ合った。




