第二幕 三十七話 The Battle of Ruluton/エティエンヌの力
「グオオオオオオ……!!!!」
紫色の光に包まれてエティエンヌ=ド・ヴィニョルは吹き飛ぶ。
モールの巨大ガラスをぶち破り、光線はモールを突き抜けていた。
最早、お前の方が悪いだろうと思わせんばかりの威力だ。
目の前に降り立ったミス・ファービュラスにセタンタは笑顔を見せる。
しかし、彼女は。
「私の活躍のためによく立ち回ってくれた」
「ちょっ、おまっ、その言い方はねぇだろー」
フフッ、と微笑むミス・ファービュラス。
セタンタが立ち上がる。
「あの技出すためにどれだけ時間かかってるんだよ」
「仕方ないだろう。サイ・ブラスターには膨大な念を込めないといけないんだから」
そうかい、とセタンタは視線をヴィランが消えたモールへと向けた。
大穴が空いたモール。
セタンタは《カサド・ドヴァッハ》をクルクル回す。
「おし、じゃあ追撃といきますか」
「まさか、あれを受けて生きていると思ってるのか?」
「お前は感じねぇのか? この圧し潰してくるような想いを」
なんのことかとミス・ファービュラスが思っているとモールから爆音が轟く。
「来るぜ」
構えるセタンタとミス・ファービュラス。
大穴の中からエティエンヌが出てくる。
着ているアーマーに傷はあるが彼自身は別段負傷している様子はない。
「そんな、どうして……!?」
驚くミス・ファービュラス。
当然だろう。だって彼女は。
「あれだけの念を込めたのに、鎧を汚した程度だなんて」
「桜花」
言ってセタンタは彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「な、なに。もう、クー!」
恥じらうミス・ファービュラスに対してニカッと笑うセタンタ。
「今はミス・ファービュラスなのに桜花に戻ってるみたいだ」
「あっ、私……」
「別に俺にとってはオイフェになられるよりはお前でいてくれる方が命の心配をしなくて助かるんだけどな」
その言葉にミス・ファービュラスこと雪渓桜花は自らの頬をパチンと叩いた。
「フッ、いい顔だ」
「ありがと、クー。おかげで――」
ミス・ファービュラスの顔は既に戦士に戻っていた。
「おまえを囮にして込めた念だった。それをあれだけのダメージで済んでいたことに戸惑ったみたいだ」
「ま、戦士つってもお前は桜花だからな。そこがオイフェとの違いで、強さでもあるんじゃねぇか」
前髪をかき上げるミス・ファービュラス。
「褒めても何もやらないからな。おまえの女にもならない」
「って、誰もそんなこと言ってねぇだろうが! 俺はまだ今生で添い遂げる奴を見つけてねぇし」
そんな二人はまるで仲の良いカップルにも見えなくはなかったが、ヴィランが動く。
たった一度の跳躍でこちらにまでやって来た。
エティエンヌは何か面白いのか不敵な笑みを浮かべていた。
「やはり、エリンの光の御子は尋常じゃない。それに、そっちの女もな」
「そりゃどうも。けど、こっちにしてみれば、アンタの方が化け物なんだがな」
「これでも彼女を守る騎士だからな」
「そうかい。なら……」
《カサド・ドヴァッハ》を構え腰を落とすセタンタ。
狙いを定め飛びかかる前の獣のように。
「ここでその首、獲らせてもらおうかッ!」
駆け出すセタンタ。
その後ろからミス・ファービュラスがブラスターを放つ。
《カサド・ドヴァッハ》を横に出して刃にブラスターを受ける。
すると、みるみるうちに刃にブラスターの光が帯びていくのだ。
「サイ・ウラド!」
セタンタとミス・ファービュラスの協技だ。
通常の剣よりも既に刀身が長いのだが、さらにそこから紫光の刃が伸びる。
逆手に持った恐れを叩き込む槍剣を薙ぎ払った。
「こちらは外れだ。ならば、ジルの方か……」
迫る斬撃を前にしてエティエンヌが何やら呟いていた。
「だが、それならば、この時代でどこまで通用するのか貴様で試させてもらうぞ。クー・フーリン!」
怖気づくどころかセタンタの攻撃に対してエティエンヌは突っ込んだのだ。
「面白れぇ。受けられるもんなら、受けてみやがれ!」
紫光の刃がエティエンヌを襲う。
けれど、敵は大戦斧で攻撃を真っ向から受け止めたのだ。
「ぐぅううううああああああ!」
「おおおおおおおおおおおお!」
戦士と武人の叫びがルルトンの街に木霊する。
「私を忘れてもらっては困るぞ。獅子よ」
「くっ!?」
握る拳に紫の念が収束していく。
「サイ・ストレイト!」
側面からの攻撃。
ヴィランはセタンタの攻撃で身動きが取れない。
だからこそ打った。
それなのに。
「な、に!?」
「女。俺をなめるなよ!」
「くあっ!?」
左手一本。それも素手でエティエンヌがミス・ファービュラスの攻撃を受け止めたのだ。
打たれた右拳を掴んでそのまま投げ飛ばした。
「こんなもの!」
「チッ」
鍔迫り合っていたセタンタの斬撃を受け流す。
紫光の刃が地面に触れた瞬間、衝撃で爆風が起こる。
追い風を利用してエティエンヌが大戦斧を突き出した。
「ぐっ、おおおおおお!」
「無駄だ。エリンの光の御子!」
そのまま大戦斧で《カサド・ドヴァッハ》の刃を絡めとって、セタンタを持ち上げたのだ。
これにはさすがのセタンタも余裕がなくなる。
そして、エティエンヌがセタンタを石の大地に叩きつけた。
「がはっ!?」
「ぐらああああ!」
回転して遠心力をつけてセタンタを投げ飛ばす。
今度はセタンタがモールの中へと叩き込まれた。
「どうだ! この俺に打倒できないものなどない!」
戦闘を見ていた野次馬たちの顔に恐怖が一層濃く広がっていた。
クー・フーリンとミス・ファービュラスは今やこの時代でヒーローなのだ。
スーペリアーズ二人が敗れた。
それは一つの絶望を示していたのだ。