第二幕 三十三話 The Duet/クー・フーリンとミス・ファービュラス
「鮮夜! 鮮夜! ……ジーザス」
ヴィジョンに話し続けていたドクターだが、ノイズが返って来るだけで鮮夜たちからの反応は無かった。
「どうして何だ。みんなはカーディフ・ベイに着いたはず。そこから交信が途絶えた」
《JASMINE》とドクターは誰もいないはずの三百六十度ヴィジョンが投影されている部屋で呼びかける。
ドクター、と可愛らしい女の子の声が答えた。
そう。ここに至るまでに何度か登場しているドクターのデバイスの《JASMINE》はアーティフィシャル・インテリジェンスだ。
それも並大抵のものではない。
何せ、宇宙一の頭脳を持つ異星人であるドクターのサイドキックなのだから。
「ふむ……。JASMINEの解析能力を駆使しても鮮夜たちのことはわからないか。これは一体」
《ドクター。これは恐らく、魔術が関連していると思うの》
「ああ。そうだね。こんなことなら、もっと魔術や魔法について学んでおくべきだった」
髪の毛をくしゃくしゃにかき乱しながらドクターは最善を考える。
そこで、《JASMINE》が告げた。
《ドクター。鮮夜たちを信じようよ》
「信じる?」
《うん。これまでもドクターと鮮夜たちはたくさんの危ない状況にあってきたでしょ。科学が効かないこともあった。でも、鮮夜たちを信じて戦って乗り越えてきたじゃない!》
「……ああ。確かにその通りだ。イェス! ありがとうJASMINE! 今回のヴィランズは少し特殊だったから、余計な心配が僕の感覚を鈍らせたのかもしれない。よし、心配だけど、ここは鮮夜たちを信じて、クーたちに連絡を取ってみよう!」
《うん!》
そうしてドクターはセタンタたちの状況を確かめる。
これが何故、鮮夜たちにドクターの助言が届かなかったのか。
その答えだ。
ジル=ド・モンモランシ・ラヴァルはカーディフ・ベイ一帯に魔術を施した。
いかにドクターと言えども知りもしない魔術には対抗策を講じていなかったのだ。
信じるとしたが、ドクターが鮮夜たちに起こった悲劇を知るのは少し後になる。
◆
鮮夜たちがジル=ド・モンモランシ・ラヴァルと戦っていた頃、クー・フーリンことセタンタと、ミス・ファービュラスこと桜花はアイルランド・キングダムのアイルランド大陸にあるルルトンと呼ばれる街に向かっていた。
ルルトンはスーペリアーズ・マンションのあるダブリンからおよそ三十キロ離れた場所にある。
ダブリンほどではないが、最近開発が進み、近代化してきている都市である。
「ちょっと、おい。桜花!」
ビルや百貨店などの屋上から飛び、次の建物の屋上に着地する。
そのまま走り屋上の淵まで来るとまた大きく跳躍する。
ほとんど空を飛んでいると言っても過言ではないだろう。
そんなセタンタがさらに上空を見上げてパートナーの名を叫ぶ。
何と空を優雅に泳ぐように飛行している桜花が、彼の視界にいたのだ。
セタンタの声に気づき、桜花が降下してきた。
走り跳ぶセタンタの横で勝ち誇ったような笑みをする。
「どうしたんだ、クー?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。お前、自分だけ飛んでずるいんだよ」
「……そういうお前こそ、飛んでいるじゃないか」
「俺のは飛んでるってより、落ちてるって言う方がしっくりくるだろうが」
確かに、と桜花が頷いた。
「でも、これが私の異能だからな」
「へいへい。そうですよ。無いものねだりってわけだ」
すねた風な口振りでセタンタは答える。
それを見た桜花がセタンタの背後に回る。
「ん? おっ、おお!?」
「仕方ない。特別だぞ」
そう言って桜花はセタンタの両手を握って空高く舞い上がる。
「おおー! こりゃ気持ちいいぜ!」
「まったく。子供かおまえは」
「こんな光景、あの頃には考えられなかったな」
「そうだな。でも、私たちが今なすべきことは一刻も早くヴィランのいる場所に行くことだ」
「ったく、ムードがねぇな」
けれど、セタンタも事の重大さを理解している。
真剣な表情に切り替えて。
「おし、桜花。全速力で頼むぜ!」
「私に命令するな」
そうして神現者と転生体という形で再び巡り合った二人は共にヴィラン討伐のためにルルトンへと急ぐ。




