幕間――V The Next is……/ロジャーは全て知っている
気がつくと再び視界に広がっていたのは、今では少し懐かしさを感じさせる、何千、何万――いや、数えきれない本に囲まれた館だった。
「おかえりなさい」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこには湯気が立ち昇るティーを優雅に飲む自称語り部の姿があった。
自称とつけると恐らく。
「ええ。正真正銘と切り返します」
フッ、と微笑みながらロジャーは返事をした。
ティー・カップをテイブルに置いて、こちらに手招きをする。
歩く度に床は軋みを上げる。
嫌な感じではなく、長い年月ここの本たちを見守ってきた想いが聞こえるような温かいもののように感じた。
「その表現はきっと、この図書館も喜ぶでしょう」
そうして、テイブルを挟んでロジャーの前に座る。
「あなたと、それにこれを見ている他の皆さんも、ついに彼女が奪われるところまで体験したということですね」
アリア=アーサー・ペンドラゴン。
彼女がヴィランであるジル=ド・モンモランシ・ラヴァルによってさらわれてしまった。
どうして彼女が連れていかれる必要があったのだろうか。
「おや、疑問に思うのですか? エティエンヌやジルが言っていたではないですか。彼女が――」
最適な器、か。
けれど、最適な器というのはどういうことなのだろうか。
ロジャーならば知っているのか。
「私ですか? 無論です」
言いながらロジャーは両手を広げ微笑む。
「私はこの記憶図書館にある全ての物語を記憶しています。故に、鮮夜たちの結末も知っている。ですがね、あなた方がここに訪れたのは偶然ではないと思っています。そして、鮮夜の物語が輝きを放った。だからこそ、私はあなた方に彼の物語を体験してもらっているのです」
つまり、ロジャーは知っていてもこの先のことを一切言うつもりはないのだろう。
「ネタバレは禁止、というやつですよ」
そんな軽いことなのか、と首を傾げながらも、あの後、鮮夜たちがどうなったのか気になる。
「それはもっともな感情ですな。けれど……」
ロジャーがティーをもう一口飲む。
とてもいい香りのティーだと思う。
「次の時にはあなた方にも用意しておきましょう。さて、鮮夜、カルナ、そしてアリアの三人がどうなったのか。その前に彼ら三人が魔術騎士であるジル=ド・モンモランシ・ラヴァルと美しいカーディフ・ベイで戦っていた時、他の者たちが何をしていたのかも是非、ご覧ください」
セタンタや桜花、スプレッド・レイザーにドクターのことだろう。
確かドクターは鮮夜たちを含む三組の戦いをスーペリアーズ・マンションからサポートしていたはず。
だが、鮮夜たちのもとにドクターの声は届いていなかった。
それにジルがカーディフ・ベイで暴れていたとなれば、もう一人の悪しき神現者であるエティエンヌ=ド・ヴィニョルもまた、暴れていたはずだ。
「その通りです。そして、あのラ・イールことエティエンヌ=ド・ヴィニョルとの戦いに赴いたのが、スーペリアーズでも一番の力を持ち、ヴィランズからは最も厄介な相手とされているクー・フーリン。そして転生体であり、念動力というエネルギアを利用する特殊な異能を持つ桜花です」
鮮夜たちが戦っていた裏でセタンタたちも。
セタンタは神現者で桜花はスーパーヒーロー。
そして敵、ヴィランであるエティエンヌは一度邂逅した際に、あれほどの力を持っていた。
想像すると何だか彼らより街の方が心配になってきた。
「それでは、その心配を解決するためにも次のシーンへと行きましょうか」
テイブルにはいつの間にか鮮夜たちの本が置かれていた。
今度は自分でページをめくるということか。
ロジャーは何もせず、ただティーを飲んでいた。
ページに手を触れる。
ドクン、と何かが流れてくるような感覚が体を駆け巡る。
これはそう。例えるなら、この物語の中で生きる全ての者の想いだ。
本から光が溢れ出し部屋に満ちていく。
ロジャーの微笑みが見えなくなると同時に、視点は再びアイルランド・キングダムへ。




