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第二幕 三十二話 The Battle End/連れ去られたアリア

「ぐあああああああああ!!」

「今のは――カルナ! どうしたの! カルナッ!」


 アリアは敵の魔術によって四方を高い壁に囲われていた。

 視界は黒い泥のような蠢く壁で遮られていたため、音だけが頼りだった。

 顔を上げる。

 頭上だけは塞がれていなかったので、遮断された外界の音が聞こえるのだ。

 その時、聞こえたのは一番聞きたくないもの。

 愛する恋人の苦痛に倒れる叫び声。

 騎士としての直感からアリアはカルナが敵の攻撃に倒れたと認識する。

 倒れたカルナのもとへすぐさま駆けつけようと思うアリア。


「もう! どうして!」


 魔術を壁に向かって放つ。

 しかし、壁に弾かれるのではなく、彼女の放った魔術は悉く蠢く壁に飲み込まれていったのだ。


「えっ――?」


 突如、アリアを取り囲んでいた泥の壁が滝のように崩れて飛沫を立てながら消え去った。

 視界が広がり、遠くに最愛の恋人が倒れているのを発見する。


「カルナ!」


 微塵の迷いもなく走り出そうとしたアリアの行く手を阻む者。ジル=ド・モンモランシ・ラヴァルがそこにいた。


「どいて! あなたにかまってる暇なんて無いの!」


 詠唱破棄。

 ただ自らの想いを魔術に乗せて放った一撃はジルの一閃で霧散する。


「はっ!」


 アリアは走りながら次々に魔術を撃つ。

 だが、敵であるジル=ド・モンモランシ・ラヴァルがアリアと並走しつつ左手の剣で全ての魔術を斬り払っていく。


「なら、これでどう!」


 胸の前で両手を握る。

 祈りを捧げるように。

 アリアの手が光に包まれる。

 舞うようにターンして両手を包んでいた光を地面に叩きつけた。


「ほう。これは少々厄介ですね」


 アリアから放たれた魔術の脅威を瞬時にジルは理解する。

 騎士の時代、彼は作戦を立てることや状況を読むことに長けていた。

 そして、今や魔術士。

 魔術についても読むことができるのだろう。


「しかし、こちらもかの騎士王が相手とわかれば手加減などしません!」


 刃の添うように詠唱しながら右手を滑らしていく。

 先端に進むにつれて白銀の刃は闇色に染まっていった。


「光の花道を黒き闇で飲み込みましょう!」


 地を這うようにジルへ向かって行くアリアの魔術。

 対抗するためジルは闇色に変化した剣を地面に突き刺した。

 突き刺さった場所を起点としてアリアへと走る魔術。

 二つの魔術は激突し爆発が起こる。

 最早ここは観光地とは思えない程、激戦の地と化していた。


「今のうちに。カルナ!」


 そもそも、今のアリアにはジル=ド・モンモランシ・ラヴァルを討とうという考えは二の次だ。

 カルナが無事なのか。それを確かめることが第一なのだから。


「黒き闇よ、狂乱の獣となりなさい!」


 書物から再び泥が飛び、地面に触れると同時に異形へと変貌する。

 十匹。

 カルナとの道を遮る形でアリアを狙う。


「どうして、わたしの邪魔をするの! わたしはカルナのところへ行かなくちゃいけないの!」

「それについては、そうですね。私たちにあなたが必要だからですよ。アーサー・ペンドラゴン」

「……わたしが、必要?」


 困惑するアリア。

 確かに先ほどからジルは自分を狙っているような言葉を発していた。

 しかし、自分に何があるというのだろうか。


「ふざ、ける、な……」

「カルナ!」


 アリアが声がした方へ顔を向ける。

 ダメージでボロボロの体を《エクスカリバー・星炎》を支えにして何とか立ち上がるカルナの姿がそこにはあった。


「アリアには、絶対に危害をくわえさせない……!」


 はぁ、とジルがため息を一つついた。


「言ったはずです。あなたには用がないとね」

「カルナに攻撃なんてさせない」

「いいでしょう。これでも私は騎士。いや、今では魔術騎士ですか。あなたが私たちのもとへ自ら来るというのならば、これ以上彼らや街への攻撃を止めましょう」


 どうしますか、とジルが肩をすくめる。

 けれど、そんなことに同意するはずもない。


「信じられるか。それに、アリアが行くって前提なのが気に入らない。お前はここで捕まえる」


 何も。何もなかった。

 言葉を紡ぐことも。ため息をつくこともなく、ジルは魔術陣が浮かんだ書物をカルナの方へと翳した。

 まるで流れ作業を行う機械のように。

 それが合図だったのだろう。

 アリアの前に立ちはだかっていた異形たちが球体に姿を変えて、カルナを三百六十度から襲い掛かった。


「ぐっ、がはっ!」

 

 最後の一撃が腹部に直撃して崩れ落ちたカルナ。


「フッ、これで邪魔者はいなくなりましたね。では、私と共に来てくれますか?」


 アリアは凛とした表情に怒りを抱えてジルに断言した。


「あなたたちのもとへなんていかない。そして、わたしはカルナを助け――」


 そこでアリアの言葉が途絶えた。

 ほんの瞬きの間にジルが目の前に移動していたのだ。

 書物を翳された途端、意識が遠のくのを感じた。


「くっ、あ、アリア……!」


 ここまでダメージを受けて喋ることも辛いはずなのに、カルナはアリアへ届かない手を伸ばす。


「全く、こちらが手を抜いているとわかるでしょうに。ですが、安心してください。彼女のことは私たちが丁重にもてなしますので。貴重な器なのですから」

「カ、ルナ……」


 意識を失い後ろへ倒れていくアリア。

 地面に着く直前、空間が揺らぎまるで地面の中へ吸い込まれるようにして消えた。


「そ、そんな」

「楽しかったですよ。まだまだ戦いたいところですが、目的を優先させる必要がありますので、私もこれで失礼します」

「ま、待て!」


 カルナの叫びも虚しくヴィラン。ジル=ド・モンモランシ・ラヴァルもまた、揺らいだ空間の中に消えてしまった。


「……あ、ああ……」


 体の痛みなど吹き飛んでしまった。

 ただただ、驚愕するカルナ。

 こんな現実があるのかと。


「アリアああああああああああ!」


 最愛の彼女を想う叫びが、カーディフ・ベイに木霊した。

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