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第二幕 三十話 The Battle of Cardiff/アリアの魔術

「キエエエエエッ!」


 振り下ろされる凶刃。

 それは確実にカルナを捕らえようとしていた。

《エクスカリバー・星炎》で防ごうと試みるがどう考えても一歩足りない。

 その一歩の足りなさで死ぬ。


「風よ光の壁となって!」

「クッ――!?」


 ジルの凶刃はカルナのまさに鼻先で淡い緑色に輝く壁によって阻まれた。

 大きな音と共に弾かれたジルがよろける。

 さらにアリアは攻撃を仕掛ける。


「光はここに一条の矢となり駆ける!」


 先ほどはカルナを救うために技名を省いた。

 名はこの世界。いや、ユニヴァースにとって重要なファクターだ。

 あらゆるものに名を与えることによって、概念を確立させる。

 魔術であろうと、鮮夜やカルナの扱う剣技であろうと同じこと。

 カルナを。自分にとって大切な恋人を守るためにアリアは防御魔術をすぐ発動させた。

 ジルがただ剣を振り下ろそうとしていたことを彼女は見抜いていたのだ。

 アリアはかの騎士王。

 たとえ、二〇三六年に具現化し、《エクスカリバー》が使えなくとも彼女が培った経験が廃れることはないのだから。

 しかし、今度は違う。

 ジルの攻撃を弾き、敵は大きく隙を作った。

 この好機を逃しはしない。

 倒せはしなくても少しでもカルナから遠ざけるために。

 アリアは詠唱しながら右手を自分の左胸から右胸へとスライドさせるように触れた。

 無論、ただ自分の胸を触ったのではない。

 カルナがアリアの左胸から彼女の想いと自分の想いを結び合って《エクスカリバー》を形作り引き抜いたように、アリアの体の中には明確に力の源とされる核が存在しているのだ。

 故に彼女が詠唱しながら胸に触れて繰り出す魔術は強力な一撃となる。


「ホウリィ・ラダー!」


 光速で一直線に飛んで行く光の矢。

 ジルはアリアの魔術に対して、自らも魔術を行使する。

 書物のページを捲り翳す。

 魔術陣が形成され三重の円環が彼を守る。


「わたしをあまくみないで」


 真剣でも可愛らしい顔に笑みが浮かぶ。


「私にはこの書があります。女の魔術ごときに……」


 ジルの言葉は次第に小さくなっていった。

 光の矢は敵の魔術に触れる直前で急上昇していったのだ。

 どんどん上昇していき空高くまでいくと弾けた。

 矢は粒子となり、粒子一つ一つから光柱が地上で驚きに身を固くしているジル目掛けて降り注ぐ。


「なんとっ!」


 後方へ跳ぶ。

 鮮夜もまた驚愕していた。

 これがアーサー・ペンドラゴン。いや、アリアの戦い方なのかと。

 そして。

 

「ジル=ド・レェの奴、魔術士の割に機敏に動けるな」


 ただ、カルナとアリアに敵をあてがったわけではない。

 鮮夜は常に敵を討つために思考を巡らせている。

 彼は血清よって超人的な身体能力を持っていようとも人間。

 悪しき神秘の存在と戦うためには確実に仕留められる方法を見極める必要があるのだ。

 ジル=ド・モンモランシ・ラヴァル。

 ジャンヌ・ダルクが火刑で殺された後、精神を病み、黒魔術に手を染めた。

 黒魔術のために多くの子供。特に男の子を好んでさらい生贄とした。

 けれど、ジルはそもそも騎士。

 戦場で戦っていた。


「侮れねぇってことだな」


 鮮夜が敵の分析をしている間も光柱はジルを浄化しようと降り注いでいた。

 石造りの地面が一瞬で焦げるほどの威力。

 直撃すればたとえ〝マティリアライズ・ミィス〟によって具現化された存在でもただでは済まない。

 アリアもまたそうなのだから。


「グッ、グガアアアア!」


 紙一重でかわし続けていたジルだが、ついに光柱が敵を捉えた。


「集まって!」


 翳した手を強く握る。

 それが合図となり、残っていた光柱が全てジルに直撃する。


「ギゲアアアア……!!」


 光は収束し爆発する。

 煙が美しいカーディフ・ベイの空に舞い上がっていった。


「アリア!」

「カルナ!」


 カルナはアリアへ。

 アリアはカルナへと駆け寄っていく。

 二人は互いの温もりを確かめるように手を握り合った。


「だいじょうぶ?」

「ああ。何とかね。さっきのは本当に危なかったよ。アリアのおかげで助かった」


 微笑むカルナの表情を見てアリアはほっと安心した。


「もう、心配したんだからね」

「ごめんよ」

「カルナはエクスカリバーを使うと感情が高ぶるから」

「そうだな。それに……」


 カルナは最愛の彼女の手を握ったまま、ジルが倒れているはずであろう煙がのぼる場所を見る。


「アイツはアリアの心に負のイメージを突きつけた。許せなかったんだ」

「ありがとう。アーサー・ペンドラゴンとして生きていたあの頃とは違って、わたしは本当に一人の女として愛される喜びを感じているわ」


 でも、とアリアはカルナに体を寄せて上目遣いに顔を近づけた。


「わたしだって、カルナを守りたいし、カルナに怪我してほしくないんだから。無茶しないでね」

「ああ、わかっ――」


 そこでさらなる爆音がカーディフ・ベイに響き渡った。


「何だっ!?」

「フフフハハハハハッ!」

「そんな、あれをまともに受けて立っていられるなんて」


 驚愕するアリア。

 彼女はカルナを守るためジルを討つつもりで魔術を放った。

 故に、その一撃は重い。

 なのに、敵は未だほぼ無傷と言っていいほどの状態だったのだ。


「ずっと、考えていましたよ。エクスカリバーに、そして、アーサー・ペンドラゴン。そういうことですか」


 睨むジル。その瞳はアリアに向かう。

 アリアは背筋に寒気を感じた。


「だから、エティエンヌはあなたが最適だと言ったわけですか」

「最適? 何の話だ」

「こちらのことです。でも、良かったです。エティエンヌの方ではなく、私の方にあなたがやってきてくれて」


 禍々しい雰囲気を纏っているのに、その表情はとても嬉しいそうだった。


「彼の方だったら、即殺されていたでしょう。ですが、やはり鮮度というものがありますからね。生きたままがベストでしょう」

「一体、お前は何の話をしているんだ!」

「あなたには関係――がはぁっ」


 ドン、と鈍い音がした。


「き、貴様ぁ……」

「のろのろしゃべってくれてありがとよ。おかげでアンタを仕留めることができたぜ」


 カルナたちと話しをしていて気を取られていたジルに対して、鮮夜は《ナハト・ノエル》で背後から奇襲を仕掛けたのだった。

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