第二幕 二十九話 The Battle of Cardiff/迫るヴィラン
「はあああああ!」
ジル=ド・モンモランシ・ラヴァルが放った黒い棘の奔流。
その攻撃を斬る――というよりは、燃やし薙ぎ払うと言った方がしっくりくるだろう。
カルナが《エクスカリバー・星炎》を振る度に、敵の魔術攻撃が燃えていく。
こちらを貫かんとする攻撃を次々に薙ぎ払っていき、雄叫びと共に最後の一閃を繰り出した。
「くっ、何という……」
魔術を放った隙に体勢を立て直して地面に着地していたジルが驚愕の声を上げた。
手を抜いたわけではない。
無理な体勢からの魔術行使だったが、十分相手を殺傷できるだけの威力を持たせていた。
にもかかわらず、相手こと皇カルナはその手に持つ赤き剣一本で魔術というエネルギアの塊を斬り祓ったのだ。
こんなことができる存在、ジルはかつて生きていた頃にはいなかったと思う。
焦りが滲むかと思いきや。
「なっ――」
カルナは思わず絶句した。
当然だ。
視線の先に佇む百年戦争の亡霊は口が裂けるのではないかというほど、笑っていたのだ。
「フフフフフ。素晴らしい。素晴らしいですよ!」
褒め言葉を言い放つと同時にジルが右手の書物からさらに魔術を発動させて、カルナへと撃つ。
「カルナ!」
カルナの耳に届いたのは絶対に聞き違えることなどない、最愛の彼女の声。
カルナは振り返ることなく走り出した。
眼前にはジルの撃った闇弾が迫ってきているのにだ。
「光よ、炎を纏え! 砕魔・光波煉閃!」
《エクスカリバー・星炎》の刃が淡い光を帯びていく。
袈裟に斬り、一つ目の闇弾を無効化し、すかさず剣を再度振りかぶり、今度は逆側から袈裟に斬る。
二つ目の闇弾を無効化した状態でカルナは剣を引く。
それは居合の構えに似ていた。
走る速度を上げて三つ目は他のものより大きな闇弾だった。
けれど、カルナは怯まない。
《星炎》の刃に炎が渦巻いていく。
力強く踏み込んで《星炎》を一閃した。
爆発の衝撃と音がロアルド・ダールプラスに響き渡る。
ここから敵に仕掛けようと足を踏み出そうとした時だった。
「――しまった!?」
「あなたはあの人間より魔術的要素がありますが、一つのことに気を取られ過ぎですよ!」
爆炎と煙の中から左手の剣を大きく振りかざし、今にもこちらを斬りつけようとする敵の姿がそこにはあった。