第二幕 二十八話 The Battle of Cardiff/カルナのエクスカリバー
「おおおおおお!」
「禍々しき闇よ……。喰らいなさい!」
《ナハト・ノエル》を構え、敵を斬るために全力疾走していた鮮夜の眼前に、突如黒い波が襲い掛かって来た。
「チッ――!」
走る足を急停止させて右腕を真横に向けた。
「アンカー!」
右腕から射出されたアンカーはウェールズ=ミレニアム・センターの壁面に突き刺さる。
抜けないことを確認して鮮夜はアンカーを一気に引き寄せる。
巨大なウェールズ=ミレニアム・センターが引き寄せられるわけもない。
代わりに鮮夜が建物に向かって物凄い速さで飛んで行く。
ジルの攻撃である黒い波をかわして、両足を振り上げて壁につける。
一秒も経たず壁からアンカーを外すと同時にウェールズ=ミレニアム・センターの壁を思い切り蹴り飛ばす。
血清によって限界まで引き上げられた鮮夜の身体能力は彼の思い描く通りの反応をしてくれる。
ジルの斜め上から弾丸のように急降下していく鮮夜。
「砕魔・墜閃回蛇ッ!」
落下速度を加味した斬撃を敵に浴びせる。
しかし、ジルが左手に持つ剣でその攻撃を流れるように受け流したのだ。
「同じ手は通じないと何度――」
「フッ、あまいなっ!」
受け流された《ナハト・ノエル》の刃が地面に着く前に、鮮夜はすばやく体を捻り、遠心力を利用した高速回転斬りを敵の胴体目掛けて叩き込む。
「くっ、ぐおおおおお!」
「オオオオオオオオオ!」
鮮夜が全力を込める。
踏みしめる足がコンクリートの地面にじりじりと食い込んでいく。
それほどまでに二人の力は強かった。
けれど。
「吹っ飛べ!」
斬ることが目的ではなかったのだ。
目の前にいるこの敵。ヴィランを〝二人のもと〟へ飛ばせばいいのだから。
「がはっ!」
ジルは宙を舞う。
何とかして体勢を立て直そうとするが、そんな彼の視界に入ったのは自分が飛ばされている先に佇んでいるカルナとアリアだった。
「さぁ、テメェらの力。見せてもらうぜ」
鮮夜が呟いたのをカルナとアリアは気づかないが、タイミングはばっちりだった。
「アリア。俺は君を心から愛してるよ」
「わたしも、カルナ。あなたを心から愛しているわ。この想いは永久に……」
「永遠に……」
そして二人は全く同時に詞を紡いだ。
「「結ばれ合う!!」」
カルナはアリアの背中を支えるように左手を添える。
対するアリアはカルナを信頼しているのだろう。全身を預けている感じだ。
そして、カルナはアリアの豊かで形の良い胸を自らの右手で力強く握った。
「んぁ……!」
力任せではない。
優しく、それでいて安心するようにアリアは思った。
「いくよ、アリア」
「あぅ、ん! いいよ、カルナ」
微笑み合う二人。
そこはまさに二人きりの。二人だけの世界と化していた。
すると、カルナの右手がアリアの左胸に沈んでいく。
アリアの柔らかい胸に手が張り付くという感じではなく、文字通り胸の中に入っていくのだ。
アリアの胸。カルナの手が入っていく箇所からは神々しい光が溢れていた。
「んっ、ぅあ!」
悶えるアリア。
何だかその姿は普段の清楚な彼女とは違ったギャップがあり、艶やかにも思えた。
しかし、アリアの体に手を沈ませていくカルナの表情は真剣そのものだ。
ある程度まで進ませると沈んでいく手の動きが止まった。
「わたしの想いとカルナの想いが」
「一つになるっ!」
叫ぶと同時にカルナはアリアの胸から右手を思いきり天高く伸ばすように引き抜いた。
「んぁあああ! はぁ、はぁ……」
よほど消耗したのだろう。
崩れるアリアをしっかりと抱きしめるカルナ。
そんな彼の右手には燃えるような赤い刃と輝くように白い峰をした直刀が握られていた。
「エクスカリバー・星炎!」
一連の光景を見ていた鮮夜は思わず声を漏らした。
「あれが、カルナが扱うエクスカリバー」
最愛の恋人を抱きしめながら、鮮夜によって吹っ飛ばされ向かって来る敵を見据えるカルナ。
「カルナ、もう平気だから」
「大丈夫か?」
うん、と頷くアリア。
「だから、あの敵を討って!」
「任せろっ!」
赤いエクスカリバーを構えてカルナはジルへと駆けていく。
「フン、この程度で私が――。アマネス・ブラッド!」
黒く濁った血のような色をした闇がジルの前に出現する。
「キエエエエエ!」
その闇を剣で叩き切ると無数の棘となり、カルナ目掛けて一直線に飛んで行く。
まずい、と鮮夜は思った。
力を見たかったが、さすがにこの攻撃は予想以上だった。
けれど、カルナの表情には微塵も焦りはなかった。
敵へ向かって行く中で、彼は刀を引いて刃に想いを込める。
想いは力の波動となり、カルナのイメージを具現化させる。
刃に纏うは炎。
撃ち放つは星。
「砕魔・流炎!」
エクスカリバー・星炎を薙ぎ払うと炎の斬撃が衝撃波となってジルの攻撃とぶつかり合った。




