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第二幕 二十三話 The Each Time/ヒーローたちの日常

 そうして、それぞれが思い思いの時間を過ごした。


 スプレッド・レイザーは家帰り、ボロボロのコスチュームをどうしようか悩みながらも、新しい仲間カルナとアリアが加わったことをワイフに話す。

 そんなスプレッド・レイザーのことを誇らしく思うワイフだが、傷だらけのスプレッド・レイザーのことを心配する。

 スプレッド・レイザーは優しくワイフを抱きしめて安心させる。

 二人が心から愛し合っていることが伝わる光景だった。


 ◆


「そらぁっ!」

「フッ! そんなものわたしに通用しないぞ!」


 セタンタの《カサド・ドヴァッハ》による一閃を、桜花はまるで飛翔するように軽やかに上昇してかわす。

 いや、本当に飛んでいた。

 ここはスーペリアーズ・マンションにあるトレーニング・ルーム。

 倭国日本にある国立の体育館を二つ分足したほどの広さと天井がとても高い。

 桜花はいつの間にか露出度の高い服――違うな。

 レオタードのようなコスチュームに着替えていた。

 肩から指先までは素肌。

 脚は黒のブーツのみで太ももが露わになっていて、レオタード部分は胸元が大きく開いていて、ほとんど裸に近いかもしれない。

 そんな桜花が今、ルームの天井付近にまで飛翔。ではなく、浮遊していた。

 彼女はその血のように赤い瞳で地上にいるセタンタを一瞥する。

 赤紫色の髪をかき上げてにこりと微笑む。


「何か仕掛ける気だな、ありゃあ」


 地上から見上げるセタンタにも桜花の微笑みは届いていた。

 あの笑みが決してこちらに笑いかけているものではなく、戦いに酔いしれている感じのものであることをセタンタは知っている。

 思い出す。

 あの懐かしの日々を。

 彼女が雪渓桜花ではなく、女戦士オイフェだったころのこと。


「いくぞ、クー!」

「ああ! 来いっ!」


 二人は本当に楽しそうにトレーニングを行っていた。


 ◆


 カルナとアリアはドクターに案内された部屋で休んでいた。


「とんだ一日だったな。アリア、大丈夫か?」


 テイブルを挟んで向かい側に座る最愛の恋人に声をかける。

 紅茶が入ったカップの淵を指でなぞっていたアリアは、カルナの声に反応して顔を上げた。

 その表情は少し疲れを帯びていた。

 当然だろう。

 一日にしてはあまりにも濃密すぎた。


「ええ。わたしはカルナが傍にいてくれたから平気だよ」

「でも、鮮夜にはいろいろ言われたし。ジル=ド・レェには精神的にダメージを与えられただろ」


 そうだね、とアリアは頷く。


「鮮夜からあの話を指摘された時は驚いたよ。でも、わたしのやってことをどう感じるかは人それぞれだもの。鮮夜のような人がいてもおかしくない」


 それにとアリアは続ける。


「鮮夜はとても辛い過去を背負ってるみたいだし。そのことが正義の味方のような存在を嫌うことに繋がってるなら仕方ないわ」

「まったく君って人は本当に優しいんだな」


 アリアの手をそっと握るカルナ。

 カルナの温もりを確かめるようにアリアもしっかりと彼の手を握り返す。


「優しいと自分で思ってるわけじゃないけど、そう感じてくれるなら、それはきっとカルナのおかげよ」

「俺の?」

「うん。あなたの方が本当に優しいわ。どんな相手でもまずは対話で解決しようと心がけている。討たなければならないと決断したらその想いを揺るがさないだけの意思も持ってる。それがわたしに心の余裕を感じさせてくれるの」


 カルナのは特に意識してはいないけれど、と思う。

 真実そうなのだろう。

 だが、真に心優しい者というのは誰かに優しくしようと思っているのではなく、心が、体が自然と対応するのだ。

 カルナへ輝くような笑顔を見せるアリア。


「ありがとう、カルナ。わたしは平気よ。あなたがわたしと一緒にいてくれる限り」

「当り前さ。俺はアリアから離れたりしない。ずっと一緒にいるから。このインシデントを解決して、倭国日本に戻ってまたデイトしよう」


 うん、と弾むような声でアリアは答えた。

 二人はその後も他愛ない話で心を通わせていた。


 ◆


「JASMINE。エティエンヌたちが関与したと思われる事柄を神隠しと食い散らかし以外でも検索をかけてくれ」

《イエス。ドクター》


 ドクターは自分の部屋いっぱいにヴィジョンを展開させて、徹底的にエティエンヌたちのインシデントについて再度調査していた。

 右手にはドクターが独自に生み出したデバイスである《JASMINE》がある。

《JASMINE》はアーティフィシャル・インテリジェンスだ。

 故にドクターの言葉に答える形で次々に電子的作業を行っている。

 可愛らしい少女のような声だ。


「本当に不謹慎だけど、百年戦争の英雄たちと出会えるなんて!」


 最高だ、と怪我のことなど最早忘れているのだろう。

 ドクターは無邪気な少年のように楽しそうに調査を続けていた。


 ◆


 スーペリアーズのメンバーがそれぞれの場所で、思い思いの時間を過ごす。

 そんな中で鮮夜は闇夜に輝く星々に想いを告げる。


「かえで。オレはこの世界で生きているんだ。お前が生きろと言ったから。お前のもとに行きたいと、どれだけ考えたか。憎き仇を殺し、リヴェンジャーからアヴェンジャーになって、オレはあらゆる悪を討つ存在として今ここにいる」


 だけど足りない。

 自分には他の誰でもない。

 大切で最愛の恋人とまた触れ合いたい。

 言葉を交わしたい。


「奴らがジャンヌ・ダルクを復活させて、オレができなかったことをやるっていうなら、絶対に阻止してみせる。奴らは悪だ。悪の行うことなど容認できるわけがない」


 そして、自分だけがこんな思いをするのは不条理だ。

 だからこそ、奴らにも同じ思いをさせ続けてやる。

 強く、強く心に刻む鮮夜だった。


 こうして夜は更けていく。

 新たな日が訪れる。

 さぁ、ヴィランズを止めるために全力を尽くそう。

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