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第二幕 二十二話 I am the Avenger/ひと時の休息

「ジャンヌ・ダルクの魂を呼び戻すって」


 そんなことが可能なのかカルナは疑問に思った。

 しかし、セタンタの言った考えが正解ならば恐ろしいことになる。


「でも、ジャンヌ・ダルクは聖女なんでしょう? だったら」

「いや、アリア。真実はわからねぇだろ。ジャンヌ・ダルクは火刑にされたんだぜ? 生きたまま焼かれたんだ。自分が信じ守ってきた奴らに裏切られてな」


 ジャンヌ・ダルクは後世、聖処女として清廉潔白の存在のように語られている。

 けれど、本当にそうなのだろうか。

 言ってしまえば、ジャンヌ・ダルクはセタンタみたいな神秘の存在でも、スプレッド・レイザーのような異能持ちではない。

 彼女は神の御使いから神の啓示を伝えられ、神の望みを叶えるために戦った、ただの人間なのだから。

 きっと恨んだろう。

 憤りを覚えただろう。

 全てを復讐したいと願ったのではないか。

 そう、鮮夜は思った。


「エティエンヌとジルは、ジャンヌ・ダルクを復活させて、その上で何かを成そうとしているのかもしれない」


 でも、とドクターが手を叩く。

 全員の注目を一点に集める。


「今日はみんな疲れただろう。事件の調査が、まさかあんな強敵と戦うことになったのだからね」

「ま、俺たちは戦ってねぇけどな」


 セタンタが言う。


「今夜はゆっくり休むといい。エティエンヌたちのことはJASMINEに頼んで情報を精査してもらうよ」

「りょ~かい! なら、僕は家に帰るよ」


 みんなまたね、とスプレッド・レイザーは窓から外へと飛び出していった。


「ちょっと、ここ十階なのよ!」


 何も身につけずに(ボロボロのコスチュームは着ているが)十階から飛び降りたスプレッド・レイザーのことを心から心配して追いかけようとするアリア。


「大丈夫さ、アリア」

「でも、ドクター! いくらスプレッド・レイザーがヒーローだって言っても、このマンションの十階は普通の建物の倍はあるのよ?」

「そんなに言うなら、ほら」


 ドクターが《JASMINE》でマンションの外をヴィジョンとして空間に投影した。そこには右腕から高密度のレイザーを放ち、落下速度を極限まで抑えて着地したスプレッド・レイザーの姿があった。


「これでわかったろ? 僕らはスーペリアーズなんだってこと」

「す、すごいのね……」


 アリアが感嘆しているところにセタンタが声を上げた。


「じゃあ、俺もここらで戻るぜ」


 セタンタが一人で部屋を出ようとした時、桜花が彼の服の裾を掴んだ。


「ん? どうした、桜花?」

「クー、わたしに付き合え」

「はぁ? 何だ、ちょっと負けたからって俺に慰めてほしいのか?」


 からかうセタンタ。

 恥じらう桜花は違うと呟く。

 こういう年相応の少女らしさを見せるのはセタンタと話している時だけに思えた。


「油断した。今度はそうならないように鍛錬する」

「ああ。わかってる」


 わかってるなら、いちいちからかうようなことを言わないでほしい、と桜花は頬を膨らませる。


「わりぃわりぃ。お前のそういうの見ていて飽きねぇぜ」

「いいから、いくぞ」


 そう言って桜花は先に部屋を出る。

 セタンタもあとに続いてドアーの手前で振り返り。


「じゃ、またな。鮮夜」


 手を振るセタンタに鮮夜は、おう、と一言声を出した。


「俺たちはどうしようか?」

「そうね。ここに着いてすぐに調査に出たから何も考えてなかったわ」

「君たちには、まだ案内していなかったね。今から君たち部屋に案内しよう」

「ありがとうドクター。アリアもジル=ド・レェと会った時に、精神的な負担がかかったから休ませてあげたいんだ」


 何よりもまず自分のことを心配してくれるカルナにアリアは感謝する。

 本当にかつての自分の人生では考えなられないほどの愛情を彼から与えてもらっていることを実感していた。


「鮮夜はどうする?」


 ドクターの呼びかけに鮮夜は首を振った。


「オレはもう少しここにいる」

「そうか。なら、出る時はロックを頼むよ」


 わかったと頷いた。

 ドクターたちも部屋を出て行き、残されたのは鮮夜だけになった。


「JASMINE、ライト・オフ」


 鮮夜の声に応じて部屋の明かりが消えた。

 漆黒の闇ではなく月と星の明かりが差し込んでいた。

 窓を開けてバルコニーへと出る。

 手すりに寄りかかる鮮夜は思い返していた。

 あの獅子のようなヴィランのことを。


「今度こそ彼女を救う、か」


 あの言葉を聞いた時、鮮夜の心には他の誰にも持たない感情が芽生えていた。

 今は亡き最愛の女性を想う気持ち。

 それは自分と同じなのではないか。

 けれど、鮮夜にはできなかった。

 どんなに願ったことか。

 どんなにその考えを実行しようとしたか。


「でも、こんな神秘にまみれた世界になっても死者を甦らせることはできない」


 どんな形にしろ、エティエンヌたちがジャンヌ・ダルクを甦らせるのならば必ず阻止しなければならない。

 

「オレができなかったことを、お前たちにさせてたまるか」


 スーペリアーズのメンバーの行動原理と鮮夜の行動原理は異なる。

 なぜなら彼は――。


「オレはアヴェンジャーなんだからな」


 そうして鮮夜は闇夜に輝く星々を仰ぎ見た。

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