幕間――IV The First Act End/Next to……
10/16 一部改稿しました。
舞台は再び暗転し、視点は不思議な図書館へと戻る。
どこまでもゴシック感あふれる内装が蝋燭の仄かな明かりで照らされ、果てしない本棚で囲まれた部屋に拍手が木霊していた。
スポットライトの下に姿を現したのは自称語り部のロジャーだった。
「自称とはいかがなものですかね? あなたも、そしてこれを読んでいるみなさんも、私が鮮夜達の世界へ案内しているのですから。れっきとしたストーリーテラーですよ」
まぁ、そう言われれば、そうかもしれないと思う。
「今回は私の予定通り、みなさんは再びこの記憶図書館に戻ってきてくれました」
何だか機嫌の良いロジャーだ。
やはり、前回とは違って予定調和だと嬉しいのだろう。
ロジャーはもちろんです、と答えた。
「さて、鮮夜達の物語は元凶も現れ、ここで第一幕は終了となります。そして、ここまでご覧いただいて、みなさんもお気づきかと思いますが、これは〝オリジン〟の物語ではありません」
テーブルにあった紅茶を手に取り一口飲む。
あまり聞き慣れないが、オリジンの物語とはどういう意味だろう。
「おや、そうなのですか?」
ロジャーがこちらの考えに割り込んでくる。
そうだった。彼は第四の壁のを破壊できるのだから、そんなことも可能なのか。
「オリジンとは原点、起源という意味です。この物語のタイトルを今一度ご覧ください。《THE SUPERIORS ~PASS POINT~》とあります。パスポイント、とは通過点と言う意味です。そう、これは鮮夜達が経験した数々の戦い。その数多ある物語の一つなのです」
故に、鮮夜は既にリヴェンジャーからアヴェンジャーになり、個々人で戦っていたヒーローたちがチームを組み、スーペリアーズが結成されていたりするわけか。
「この記憶図書館には宇宙。つまり、ユニヴァースに広がる全ての物語が記憶されています。地球以外の物語も当然。そんな中で、今回みなさんがご覧いただいているのは、一つのフラグメントにすぎません。彼らがどのようにしてスーペリアーズを結成したのか。結成前に個々人でどのような戦いをしていたのか、鮮夜の過去に何があったのか、という物語ももちろんありますが、それらが語られることは今回ありません」
舞台の上で演説をしているかのように話していたロジャーが、突如足を止めて盛大に両手を振り上げる。
「今回語られるのは、あくまで彼らの前に現れたエティエンヌ=ド・ヴィニョルと、ジル=ド・モンモランシ・ラヴァルとの決戦についてのみなのです!」
そうしてロジャーは華麗にターンし、革靴は木でできた床の上で音を鳴らす。
「エティエンヌ=ド・ヴィニョルと、ジル=ド・モンモランシ・ラヴァルとは、また大物が出てきましたね」
馴染みのない者でもラ・イールや青髭ぐらいの言葉は聞いたことがあるかもしれない。
学校の授業でも出てくるだろう。彼らは百年戦争であのジャンヌ・ダルクと共に戦った騎士だ。
「フランスを救うために戦った誉れある騎士だったはずの二人。けれど、鮮夜達の前に現れた彼らは完全に……」
ああ。とても尊敬できるような騎士とは思えなかった。
何しろ、神隠しと喰い散らかしを行った犯人なのだから。
彼らは何を求めているのだろうか。
彼女を救済すると言った。そして――。
「アリア・アーサー・ペンドラゴンを器として。そうも言っていましたね」
ロジャーは階段の手すりを滑るようにして降り、軽やかにステップを踏んで小さくお辞儀をする。
「私は全てを知っています。この記憶図書館を管理していますからね。けれど、鮮夜の人生を。彼が駆け抜けた軌跡を貴方達自身で体験してほしいのです。彼の想いを――」
兼定鮮夜。
スーペリアーズの中で異能を持たず、ただの人間でありながら、異彩を放つ彼をロジャーは強く推す。
しかし、この物語で主人公らしき者と言えば――。
「皇カルナ、ですか?」
うーん、これ苦手だな。こちらの考えが筒抜けだ。
ロジャーは的確に言い当ててくる。
「確かにカルナは心優しく正義感も強いです」
しかし、とロジャーは人差し指を左右に振った。
「この物語の主人公はカルナでも、ましてやアリアでもありません。そう、憎しみに心を満たし、邪悪は全て排除する。正義の味方などではなく、ただ悪を許せないと強く想う鮮夜の戦いを見てほしいのです」
ロジャーの言葉は静かながらも強い意思を感じさせるものだった。
「それでは、これにて第一幕は終了でございます。物語は第二幕へと進み、鮮夜たちスーペリアーズとエティエンヌたちが本格的に衝突します。しかし、彼らの戦いは力のぶつかり合いだけではありません」
ロジャーは天を仰ぎ、スポットライトは彼だけを照らす。
「さぁ、彼らの物語の続き。その瞳でしかと確かめてください」
ロジャーの手の中で開かれた本のページがめくられる。
光が溢れ、視界は再び彼らのもとへと戻る。