幕間――III Villains Side/For My Lady
10/14 一部改稿しました。
鮮夜たちとの邂逅の後、エティエンヌとジルは転移を行い、彼らが拠点としている廃墟へと戻ってきた。
人工的な明かりなど何一つ無い暗闇の部屋には、すすり泣く声や助けを呼ぶ声がこだましていた。
何の声かは聞くまでもない。
彼らの起こしたインシデンツを考えれば、自ずとその正体は明らかだ。
「エティエンヌ。良かったのですか? あそこで彼らを殺しておかないと、後々面倒なのでは?」
「ジル。奴らに言った通り、何よりも優先されるのは彼女の救済だ。奴らが面倒なのは理解している。だが、奴らにかまけて彼女の救済が遅れては意味がない。そんなことになれば、一体何のために俺たちは蘇ったんだ」
ジルはエティエンヌの話を噛みしめて、ゆっくりと頷いた。
「それもそうですな」
前を歩いていたエティエンヌが足を止め、ジルへと振り向く。
「ところでジル。生贄の方は十分なのか? 奴らに邪魔をされたのだろう」
「問題はないですよ。質より量に変更しましたが、数ならば御覧の通りです」
泣き声、嗚咽、助けてほしいという懇願の声が部屋に響く。
それをまるで、クラシックの名曲を聴いているかのように、ジルは酔いしれた表情で聞いていた。
しかし、とジルは口を開いた。
「〝器の問題〟がまだあります」
エティエンヌが唸る。
「それについてはダブリンを探し回ったが駄目だった。さっきの奴らの仲間らしき者とも戦ったが、期待外れだった」
けれど、とエティエンヌが付け足す。
心から探し求めたものに出会ったのだ、と突然喜び出したのだ。
「随分とごきげんですね。器がなかったら、私たちの目的は果たせないと言うのに」
すまない。そうエティエンヌは言って安心するがいい、とジルに断言した。
「奴らの中に見つけたんだ。お前は気づかなかったのか?」
「それは?」
「奴らの中に一人いた。あの女だ」
ジルは口に指を当ててうーん、と少し考えた後、ああ、と気づいた。
「あの女ですか。確かに美しかったですねぇ。とても嬲りたい衝動をそそられるほどに。しかも魔術の素養もあるようでした」
「俺の眼に狂いはない。あれこそ完璧な器だ。あの女を手中に収めれば、必ず彼女を……。ジル、あれを手に入れる必要がある」
「フフッ。それなら、奴らの相手をするのは思ったよりも早そうですね」
ああ、と頷くエティエンヌ。
「待っていてくれ。俺たちが必ず、今度こそ君を救ってみせるから」
どこまでも、どこまでも。
高く、高く伸びている空間。
天井がまるで見えない。
エティエンヌは遙か彼方。
かつて信じた彼女のことを想い、そんな言葉を紡いだ。