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第一幕 十七話 獅子のような男/元凶二人目

9/30 一部改稿しました。

 一触即発。

 まさに、鮮夜とセタンタが黒ローブに攻撃を仕掛けようとした時だった。

 この状況に相応しくない電子音が響いた。

 あっけにとられる面々。

 一番驚いているのは、自分のポケットから音が聞こえている鮮夜だった。

 それでも、全員にらみ合ったまま動かない。

 鮮夜は右手だけを動かしてデバイス《EDITH9》を取り出してアクセプトと答える。

《EDITH9》に映し出されたのはスプレッドレイザーだった。


《鮮夜……! 気をつけて!》

「スプレッド。どうした。何があった?」


 画面に映っているスプレッドレイザーは、コスチュームがところどころ破れ、傷を負い、血を流し、腕を押さえながら苦痛に顔を歪めている。


《今は、そんなこといいから……。奴は、きっとそっちに――》

「奴? 奴って一体誰のことだ? おいっ!」


 そこで《EDITH9》の画面にノイズが走る。

 スプレッドレイザーの声が途切れ途切れになってしまって、よく聞き取れない。


《あ、つ……と、ても……。だか、ら……》


 最後まで言い切る前に通信が切れてしまった。


「今のは、何だったんだ?」


 セタンタが言う。


「わからねぇ。だが、ドクターたちに何かあったのは確かだろう」


 ダブリンにはスプレッドレイザーだけではない。

 ドクターに桜花までいるのだ。

 彼らがそう簡単に敗れるわけはない。

 だから、今は心配よりも目の前にいる黒ローブに意識を集中させることを第一に考える鮮夜。

『ナハト・ノエル』を構え直す。

 それが合図となり、セタンタも『カサド・ドヴァッハ』を強く握る。

 ここまで黒ローブが黙っていた理由は一つ。

 鮮夜の使っていた《EDITH9》が珍しかったからだ。

 どのように扱うのか実際に鮮夜を泳がせて見ていたというわけだ。

 しかし、最早それも必要ない、と思ったのだろう。

 黒ローブの纏う禍々しい何かが一層強くなった。


 ――来るか。


 そう思い、鮮夜の体に力が入る。

 いざ、激突するかと思われた刹那。


「何をしている」


 鮮夜たちでも黒ローブでもない。

 闇夜のカーディフの街に満ちる静寂を打ち破るように、重く、それでいて威厳のある声が聞こえてきた。


「誰だっ!」


 鮮夜は声のした方角へ視線を向ける。

 ヨーロッパ建築ではありふれた住居の屋上。

 そこに、風に揺れる柳のように佇む人影があった。

 月光によってシルエットしか見て取れないが、影が屋上から跳躍したのは理解できた。

 左手に持つ巨大な戦斧を住居のレンガで造られた壁に叩き込む。

 戦斧でレンガを砕いていきながら、影は黒ローブの隣に降り立った。


 波打つ小麦色の髪を振り乱しながら影――その男は猛獣のような瞳で鮮夜たちを貫く。


 鮮夜の倍はある体躯。

 総じて、その様はまるで獅子のように思えた。


 獅子のような男は鮮夜たちを一瞥した後、隣にいる黒ローブに話かける。


「ジル、遅いと思って様子を見に来てみれば、何だこれは?」


 ジルと呼ばれた黒ローブの男は開いていた分厚い古本を音を立てて閉じた。


「聞いてくだされ。彼らが収集の邪魔をしたのです。それに目撃されてしまった」

「贄の収穫をか?」


 そうです、とジルは頷く。

 獅子のような男はふん、と一言唸って鮮夜達へと視線を向けた。


 敵が増えた。

 それも確実に強いと断言できるほどの覇気を放つ敵だ。

 鮮夜がセタンタに声を上げる。


「クー、どうだ。今来たアイツ、やれると思うか?」

「あの黒魔術士だけならともかく、あの斧野郎は少し違うな」

「違うってのは?」

「どっちかって言えば俺に近い」


 セタンタに近いということは戦闘能力が途方もなく高いということになる。

 なるほど。そんな相手ならば、この場で対処するのは少し考えた方がいいかもしれない。

 しかし、それでも目の前にいる者たちは絶対的な悪なのだ。

 幼い子供をさらい、不特定多数の人間を無残に殺した。

 鮮夜にとってこの世全ての邪悪は排除すべきもの。

 悩む必要などない。

 鮮夜は一歩前に踏み出す。


「アンタたち、アンタたちこそ。元凶だな」


 獅子のような男が鮮夜を睨む。


「元凶、とはどういうことだ?」

「神隠しに、喰い散らかしの犯人ってことだ。そっちの黒ローブがガキをさらい、黒魔術の生贄に使って、アンタが大勢の人間を喰い殺したんだろ?」

「ほう。そこまでわかっているのか」


 エティエンヌ、と言葉を発したのはジルと呼ばれた黒ローブだった。


「この者たちはもしやあれではないのか?」

「……嗚呼、確かスーペリアーズとか言うヒーローの集まりか。それなら、ここに来る前に少し相手をしてやったのだがな」


 他にもいたのか、と獅子のような男――エティエンヌは吐き捨てるように言った。

 今のを聞いて鮮夜たちは、目の前の男が、スプレッドレイザーたちを襲ったと確信した。

 

「アンタたちは邪悪な存在。ここで討つ!」

「オイッ、鮮夜!」


 鮮夜が駆け出す。セタンタの制止を振り切って。

 エティエンヌは巨大な戦斧を石畳の地面に叩きつけた。

 石畳には亀裂が入り、大地を抉る衝撃が、あっという間に鮮夜たちのいる場所まで届き地面が勢いよく破壊される。


「く、くそっ!」


 瓦礫によって行く手を阻まれてしまった鮮夜たちにエティエンヌが口を開く。


「貴様らは俺たちの邪魔をするのか?」


 瓦礫を押しのけて鮮夜が吠える。


「アンタたちの目的に興味はない。だがな、邪悪である以上アンタたちを討つのが、オレの意思だ!」

「フンッ。俺たちを殺す、ということか。貴様らにとって邪悪かもしれないが、俺たちには貴様らこそが邪悪なのだ!」


 言い放つと同時にエティエンヌは戦斧の柄頭で地面を割る。

 目の前に浮かんだ瓦礫を戦斧で打ち、鮮夜へと放った。


 轟音を上げながら飛んでくる瓦礫。

 しかし、そんなことで鮮夜は怯みはしない。

 彼にはここまで戦い抜いてきた経験と、邪悪を根絶するという明確な想いがあるのだから。


 鮮夜は『ナハトノエル』で瓦礫を切り裂く。

 その対応に驚きを見せたエティエンヌは、すかさず吠えた。


「貴様らなどに俺たちの邪魔はさせない。今度こそ成し遂げてみせるのだッ!」

「テメェらが何を思ってるかなんざ、確かにどうでもいい。けど、何でガキをさらい、人間を殺すんだ?」


 セタンタが問う。

 これに応じたのはジルだ。


「あなた方に話したところで、私達の目的には何の支障もないので、いいでしょう。お話します」


 エティエンヌは黙っている。

 ジルは両手を挙げてから、大仰に頭を下げた。


「それでは、私達の時を越えた崇高なる目的! しかとその耳に刻んでくだされ。その後で、じっくり殺してあげましょう」


 まるで冥土への手向けだと宣言されているようだった。

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