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第八幕 百八十八話 The Shield/心臓を守るは誰の光

「穿て。貫け。奴の存在を抉り潰せ! ゲイ・ボルグッ!」


 両手で持った呪いの槍。ありったけの魔力を刃だけでなく、槍全体に纏わせて禍々しい輝きを放ちながら、セタンタはオイフェの左胸。心臓へと突きたてる。


「ぐっ、あああああああああああああああああ――ッ!?」

「オイフェええええええええええええええええっ!」


 抉る。敵の心臓を。全ては最愛の息子の仇を討つために。

 雪渓桜花を救うという目的もセタンタの心にはもちろんある。

 だが、それ以上に我慢できなかったのだ。この女がいることが。

 桜花とオイフェは違う。だからセタンタは桜花とは普通に接してきた。割り切れる。それが戦士である。

 しかし今、目の前にいて苦しみ喘いでいるのは桜花ではなくオイフェ。

 好きだった。嫌いではなかった。

 たとえ、始まりはスカーサハの命であったとしても。

 オイフェと体を重ねる度に好きになり、恋をして、語らい合い、共に修練した日々。

 セタンタにとって影の国で生きた大切な思い出だ。

 ――あの日、コンラと戦うことになるまでは。


「許せない。許せねぇんだ……。あの子には何の悪もなかったというのに!」

「……がっ。わ、わたしは、私は……あああああああああああああああ!」


 鮮血と共に光がオイフェの心臓から溢れ出す。

《ゲイ・ボルグ》による魔力の輝きが漏れているのかと思われたのだが違う。これは。


「オイフェ。テメェ、心臓に念動力を纏わせているのか」

「……い、いや。あぅっ。かはっ……これは、私ではな、い……」

「なに? じゃあ何だって言うんだこれは」


《ゲイ・ボルグ》が進まない。

 穂先がオイフェの胸に刺さっているのだが、セタンタは呪いの槍でオイフェの体を貫くために全力で突き立てた。なのに、敵の肉体は貫かれていない。

 何故か。その正体はオイフェの心臓が念動力によって保護されているからだ。

 念動力とルーン・オガムを組み合わせて遠距離攻撃、両腕に纏わせての接近戦ができるのは十分考えられることだ。

 けれど、体の内側。心臓にまで纏わすことができるとはさすがのセタンタも思いもしなかった。

 故にセタンタは正直に感嘆の想いをオイフェに伝えた。

 だが、呪いの槍で刺され痛みに喘いでいるオイフェの口から出た言葉は、彼女自身もこの事態は予測していなかったということ。

 ならば自動的に念動力がオイフェの危機を感じ取って発動したのか。オイフェの言動からはそれも違うのだろう。


「フ、フフフ……。まさか、お前が私を守るとはな。桜花……」

「何だと?」


 オイフェの口から聞こえたのは、オイフェに侵された雪渓桜花の名前だった。

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