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第一幕 十五話 元凶/黒いローブの魔術士

9/9 一部改稿しました。

 デバイス《EDITH9》でドクターに連絡を取ろうとした矢先、静寂に包まれた闇夜の住宅街に突如、悲鳴が響き渡った。

 一斉に声がした方へ顔を向ける。

 そんな中、鮮夜だけが既に走り出していた。


「待て、鮮夜!」

「止めるなクー!」


 わかっている、と眼で合図を送るセタンタ。

 その反応を見て、鮮夜はすぐに理解した。

 セタンタが何かを掴んだということを。


「アリア、アンタも感じたか?」


 セタンタの問いにアリアは頷く。


「ええ。今、この街で黒魔術が使用されたわ」

「それ本当か?」

「うんカルナ。この嫌な感じ。間違いないわ」


 鮮夜がセタンタのもとへ戻って来た。


「どっちだ?」


 あっちだ、とセタンタを先頭に鮮夜たちは走る。

 あれほど大きな悲鳴があったというのに外には誰も出てこない。

 恐らく、この街の人々は気づいているのだ。

 今、出て行けば確実に自分たちの子供まで被害を受けてしまうということを。

 自分たちだけが助かればそれでいいのか。

 何故、そうも身勝手でいられるんだ。

 そんな感情を鮮夜は抱きつつも、先を急ぐ。

 鮮夜たち4人は入り組んだ路地を何度も曲がって行く。

 およそ、一般人には出すことのできない速さで。

 故に、曲がり切れずに壁を蹴って無理やり方向を変えたりもしていた。

 その最中、鮮夜は思った。

 どんどん人気のない方へと進んでいると。


「止まれ」


 セタンタが腕を出して全員を静止させる。


「ここか?」

「ああ。ここを曲がればいるはずだ」

「だったら止まってる暇なんてねぇ。カルナ、アリア。お前たちはオレとクーの後ろで敵の出方を伺ってろ」


 カルナとアリアもこれは実戦。

 そして、ここはアイルランド・キングダム。

 自分たちが日々、悪と戦っている倭国日本とは環境も、敵の在り方も違う。

 あれだけチームとして不安定だと思わせていても、やはりプロだ。

 二人はすぐさま、わかったと頷いて、鮮夜とセタンタの背後へと回る。


「いくぜ、クー」

「おうよ!」


 路地を曲がった刹那、鮮夜は眼を見開いた。

 鮮夜の視界に入ったのは、月明かりに照らされた黒いローブの人物が幼い男の子を消し去る瞬間だった。


「た、たすけ……」


 涙を流し、恐怖に怯えながらも必死にこちらへと、その小さな手を伸ばしていたが、男の子の声は無情にもそこで終わる。

 鮮夜が左手に刀の柄のようなものを取り出す。

 今にも突っ込む勢いだがセタンタに待て、と止めるられる。


「まずは探りだ」

「チッ、わかった」


 鮮夜は敵との間合いを十分に取りながらも一歩前に出る。

 

「アンタが神隠しの犯人だな」


 鮮夜の声に反応して黒ローブはゆっくりと、体ごとこちらへ振り向いた。

 フッドで顔がよく見えない。

 そもそも場所的にも月明かりしか頼りにできないのだから。


「神隠し……はて、一体何のことですかな?」


 湿った風が吹き付ける。

 路地がまるで一種の異界であるかのような感覚を鮮夜たちは肌で感じた。


「とぼけるな。こっちはアンタがガキを消し去った現場を見て回ってきたんだ」

「おや、何故、私がしたことがわかったのですか? あれを見られていた。そういうことですか? おかしいですね。隠匿の魔術を施していたはずですが」

「こっちには魔術なんて通用しない天才が一人いるんでね」


 セタンタが口を挟む。


「俺もこの時代に具現化された時は驚いたもんさ。インターネットやらセキュリティカメラとかな」


 無論、そんなもので魔術による隠匿を看破できるはずもない。

 全てはドクターによって生み出された技術のおかげだ。

 黒ローブが揺れる。


「嗚呼、そういうことですか。そう言えば忠告されていましたね。この時代は科学が発展していると」


 まったく、と黒ローブはため息をついた。


「未だ勝手がわかりませんが……目撃されてしまっては、あなた方には消えていただくしかありませんな」


 刹那――。

 周囲の空気が張り詰める。

 月明かりに照らされていた路地が、次第に暗くなってきている気がした。

 嫌な汗が流れる。

 いつもなら皮肉を言うであろう鮮夜ですら押し黙るほどに。


「ヘッ、いきなり俺たちを始末するってか? 穏やかじゃねぇな」


 セタンタは、そんな禍々しい圧迫感をものともしないで話す。

 夜の闇にもはっきりと映える紅い獣のような瞳で黒ローブを睨む。


「ほほう。恐れを抱きながらも、いい反応です。どうやら貴方たちは私が危険な存在であるということを察しているようですな」


 蒼黒い光が黒ローブの右手を包む。

 光が一際大きく膨れ上がり弾けると、黒ローブの右手に分厚く古い本が現れた。

 鮮夜たちは瞬時に警戒を強める。

 黒ローブが手に持つ本が武器であるかはわからない。

 だが、確実に何かを成すために召喚したことは間違いないのだ。


「フッフフ……。さて、あなた方は私の目的には関係がありませんので、ここで嬲り殺してあげましょう」


 フッドの下から覗く黒ローブの口元には卑しい歪んだ微笑みが浮かんでいた。

 まずは誰から、と敵は鮮夜たちを吟味している。

 鮮夜はいつでも敵からの攻撃を迎え撃てるように、あくまでも敵を見据えたまま、セタンタと小声でこの後、どのように行動するか意思疎通を図る。

 その時、鮮夜は背後から気がかりな声を耳にした。


「いや……いやっ!」


 アリアがカルナに抱き着く。

 しっかり、とカルナはアリアを優しく抱きしめる。

 大丈夫だと落ち着かせながら、カルナ自身もアリアの取り乱している様子に驚いていた。

 鮮夜は後ろを気にしつつも、黒ローブから視線を逸らさない。

 いや、逸らせないでいた。

 目の前にいる敵はこちらをどう汚して殺そうと考えているか、まるで隠そうとはせず、今まで感じたことのない肌に粘りつくような威圧を押し付けてきていた。

 まるで、この状況を危機ではなく、嬉々としているかのように……。

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