第一幕 十三話 The Sunset/不条理な世界
9/2 一部改稿しました。
「それが、黒ローブの野郎にとっての制約なんじゃねぇのか?」
鮮夜はセタンタから告げられた言葉について考えを巡らせる。
「男のガキに絞ることで黒魔術の精度を上げてるってことか?」
「ああ。黒魔術は贄と術者の質に左右される部分が多いらしい。術者が優れていても贄が不足ならダメだろうし、その逆もまた然りだ」
「こんなことが許されるなんて――っ!」
鮮夜とセタンタが話してる横で、カルナが憤りを露わにしていた。
その気持ちはここにいる誰もが理解できる。
黒ローブが本当に黒魔術の使い手ならば、さらわれた者たちの末路はきっと――。
誰しも想像したくはなかった。
ここに来る間、何度もよぎっていたことだ。
そして、何度も否定してきた。
沈黙を打ち破ったのはセタンタだった。
「ま、次で終いなんだろ? 悲しむよりも、さらわれてまだ生きているガキ共を救うために黒ローブを追いつめることに集中しようぜ」
なっ、とウインクするセタンタ。
鮮夜はセタンタの状況を一瞬で好転させるような、その性格に感謝した。
自分にはこういう時にかける言葉を知っていたとしても、かけようとは思わない。
鮮夜の想いはただ1人。今は亡き、かつて愛した1人の女性にしか捧げられないのだから。
暗い気持ちを吹き飛ばしてもらえたのは鮮夜だけではなかった。
カルナもまた、悲観的な想いを心から排除する。
そうして、俯いていた顔を前へ向けて歩いて行く。
彼の瞳には今まで見たこともない光景が広がっていた。
海と陸を隔てている手すりに手を置く。
目の前に広がるのはカーディフ・ベイのサンセットだ。
「アリア。見てよ。夕日が沈む」
「ええ。なんて綺麗なのかしら」
まるで鏡のように穏やかな海は、夕日を反射させて、煌めきを生み出していた。
そんな中で二人は自然と手を握っていた。
「あの時と同じ景色ではないけれど、同じ国の夕日かな?」
「うん、カルナ。でもね、あの時のわたしにとって、海は見て楽しめるものじゃなかったの。海は敵が侵入してくる場所の1つ。だから、用心することはあっても想いを馳せることはなかったわ」
「そう、だったのか。ごめんな」
ううん、とアリアは首を横に振った。
「今はあなたが隣にいる。あなたがわたしを支えてくれている。こんな感情、想いを抱くことは当時なかったもの。こうして海に沈む夕日を見て綺麗だって思えるのもカルナのおかげだよ」
「アリアがそう思ってくれるならいいんだ」
そんな2人の会話を少し離れた位置から鮮夜とセタンタは眺めていた。
「いい雰囲気じゃねぇか。どうしてお前はアイツらに突っかかるんだ。あれか? 2人が幸せそうなのが妬ましいってか?」
冗談半分にセタンタは言う。
鮮夜はセタンタの方を見てはぁ、とため息をついた。
「お前だって駄犬って言われた時、キレたくせに」
「あれは……仕方ねぇだろ? 俺はああいう呼び方は気に入らねぇんだ」
お互いさまだと思いながらも、鮮夜は話を続ける。
「クー、オレがあの2人を見て、リア充爆発しろとでも思っていると本気で考えてるのか?」
「違うのか?」
「オレをそこらの馬鹿と一緒にするな。他人の幸せな光景を見て爆発しろなんて思うのは屑だ。他者を妬み、自分を蔑んでるだけじゃねぇか。幸せになれていないのはテメェのせいだろうに」
「辛辣だな。でもま、確かにお前の言う通りさ」
クーも同意するように頷いた。
「なら、どうしてアイツらに厳しいんだよ」
「アイツらというよりは、アイツだ」
鮮夜の指差す先をセタンタは目で追う。
アーサー・ペンドラゴンであるアリアかと思いきや、鮮夜が示していたのは隣に立つカルナだった。
「カルナか。良い奴だと俺は思うけどな」
ま、気に入りはしないがな、とセタンタは付け足した。
自分が認める存在は限られると。
セタンタに認めてもらうことなどハードルがかなり高いだろう。
「俺も良い奴だとは思う。でも、それだけだ。アリアは聖剣が使えないと言っても魔術が使え、そしてクー。アンタと同じように戦乱を駆け抜けた者だ。でもカルナは違う。アイツは……」
「優しい、か」
「そうだ。アイツの心には優しさがある。誰もが話せばわかるというように。だけど、そんなことはありえない。この世界には確かに邪悪は存在して、それは排除しなくてはならない。何をしてもだ」
〝マティリアライズ・ミィス〟によって変貌する以前から、世界には神秘の存在はいて、悪しき神秘の存在が人間を、他の善良な神秘の存在を傷つけていた。
それだけじゃない。世界がこのような状態になっても人間の中には未だに悪事を行う者がいる。
邪悪は決して消えはしない。
それが鮮夜には許せなかった。
「そこらへんは、ドクターやスプレッドとも意見が分かれるからな」
「それでもオレやアンタはやり続ける。何故なら、オレたちはそういう世界で生きているからだ」
「奴らは人の境界から外れている者、だからな」
邪悪は必ず排除する。それが鮮夜やセタンタのやり方だ。
この世界は神秘が介在するようになっても、社会は人間中心に回っている。
罪を犯した者は法による裁きを。
しかし、それが神秘の存在にも当てはまるのか。
ドクターやスプレッドレイザーはヴィランを捕まえれば刑務所へと連行させる。
無論、裁判の結果、ヴィランズは刑務所から出ることはできない。
だが、それだけだ。
戦いの時代に生きていたセタンタやアリアは、敵は排除するものという認識がある。
そうでなければ、大切な者を守れないからだ。
鮮夜も過去の出来事から邪悪な者は全て排除すると決めている。
けれど、カルナの言動を聞いているとカルナは信じているのだ。
人は変わる。話をすれば必ず理解できると。
相手が人間ならば構わない。
いくらでも対話するといい。それが如何に無意味なことだとしても。
それこそ、カルナ自身の勝手なのだから。
しかし、問題は人間ではない存在に対しても、それを行おうと考えているふしがあるところだ。
それが続いてくのならば、カルナは自分たちにとって障害にしかならない。
「なら、どうするんだ?」
「どうもしないさ。その内、嫌でもアイツは気づくだろう」
そう。
この世界がどれほど不条理であるのかを――。




