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第一幕 十二話 第三の現場/ウェールズ・ミレニアム・センター

8/30 一部改稿しました!

 第三の現場はカーディフ・ベイにあるウェールズ・ミレニアム・センターだった。

 そして、鮮夜達が降り立つこの広場一帯はロアルド・ダールプラスと呼ばれている。

 ウェールズ・ミレニアム・センター、ロアルド・ダールプラスを含めたカーディフ・ベイは観光地として有名だ。

 しかし、ここもカルナは全く知らない場所だった。

 日本人にとってまだまだ馴染が薄いのだろう。

 ロアルド・ダールプラスは、作家であるロアルド・ダールからつけられている。

 彼はアイルランド・キングダム出身の小説家だ。

 彼の名を知らなくても彼の作品が映画化されているため、映画を見たことがある者はいるかもしれない。

 また、有名な映画の脚本も手掛けている。

 そんな彼にちなんで名づけられているため、この国の者には誇れる場所の1つだ。

 ロアルド・ダールプラスには巨大なモニュメントが天に向かってそそり立っている。

 そのモニュメントの前にカルナは立っていた。


「これすごいな! 銀色の石柱? まるでモノリスみたいだな」

「何してるの、カルナ?」


 カルナはモノリスの前に立って台座を足で踏み叩いていた。


「え、ほら。実はこのモノリスは秘密基地の目印でさ。この地下には秘密基地があって、ここはその隠された入り口なんじゃないかなって」


 アリアは声を上げて笑った。否定した笑い声ではない。

 カルナとの会話を楽しんでいると感じさせるものだった。


「でもカルナ、わたしたちだって秘密基地みたいなものに出入りしているでしょ?」

「あ、言われてみればそうだな」


 カルナはアリアの顔見て微笑んだ。


「なあ、ここはカーディフだけどその……。アリアは大丈夫か?」

「だいじょうぶって?」

「……ここは、君がかつての駆け抜けた大陸の一部。そして、君の最後は――」


 それ以上は口にできなかった。

 確かにアーサー・ペンドラゴンは騎士の王として誇り高く、勇ましい英雄として描かれている。

 しかし、その最期はあまりにも悲劇的だった。

 カルナは危惧していたのだ。

 アリアがアイルランド・キングダムに訪れるということはつまり、故国に戻ること。

 思い出したくもないことを思い出してしまう。

 アリアはカルナの表情を見て、自分の気持ちを考えてくれていることを感じ取った。


「カルナ。わたしはね、確かにこのウェールズという土地。ここから西にあるコーンウォールであの時代、多くの仲間を率いてブリテンのために戦ったわ。そして、カムランでわたしの息子。まぁ、お姉さまに利用されて生まれた子だったけど、モルドレッドと戦い、果てたわ。けど、それは――」


 振り返るアリア。

 彼女の背後には静かに波打つカーディフ・ベイ。

 太陽の光はまるで彼女の今を祝福しているかのように、暖かく注いでいる。

 柔和な笑みを浮かべてアリアはカルナの手を取り、自らの胸にそっと当てる。


「それは、あなたも言ってくれているように過去のこと。今のわたしはただのアリア。もう、アーサーと名乗らなくてもいい。そのままのわたしを受け入れてくれたあなたを信じているから」

「アリア……」

「でもやっぱり、少しは思い出すこともあるかな。そんなわたしを気遣ってくれたんだよね。ありがとう」

「俺は君と契約した時に誓った。君が幸せに過ごせるように。俺はこの世界を中から変える。そのために」


 ええ、とアリアはカルナの手をしっかりと握り、頷いた。


「あー、いい雰囲気のところ悪いんだけどな」


 ばつが悪そうにセタンタが二人のもとへやってきた。


「そろそろ、戻ってきてくれねぇか?」


 すまない、とカルナたちは繋いでいた手を放した。


「俺は構わないんだぜ。世界で最も強固な力は〝愛〟だからな。愛を育むお前たちはいいと思う」


 ただな、とセタンタは鮮夜の方を指差した。


「俺たちはこれでもインシデントの調査に来てるからな。愛を育み、かつての想いを馳せるのは、任務が終わってからの方がいいと思うぜ」


 じゃないと鮮夜にこれでもかっていうぐらい皮肉を言われるからな、とセタンタはカルナたちに話した。

 そうして、鮮夜が立っている場所に全員が集う。

 ウェールズ・ミレニアム・センターの目の前。ここも人通りの多い場所だった。


「ここだな」


 鮮夜が《EDITH9》からホログラムを映し出す。

 再び黒ローブの人物が現れて右手に本を出し、左手で男の子の頭に触れた瞬間、その子供は傾いだ空間に消え去ってしまった。


「クー。それにアリア。お前たちは感じるか?」

「今までの場所と同じだ。ここでも魔術の残滓が感じられる」

「ええ。でもやはり、わたしの扱うものでも、クー・フーリンの操る魔術とも違うわ」


 そうなると結論は必然的に至る。


「やっぱり、黒ローブが使っているのは黒魔術だな」


 セタンタの言葉に黒魔術か、と鮮夜は呟いた。

 魔術には国や文化の違いから様々な系統がある。

 セタンタはルーン魔術を操る。

 しかも現代の魔術士が再現したルーンではなく、セタンタは神秘の時代にあった始まりのルーンを使っていた。

 具現化したアリアは自身の内に流れる魔力を属性に変換させる魔術を扱う。

 黒魔術はそうした中でも一種、異様なものだった。


「俺はあまり魔術には詳しくないんだけど、黒魔術は人を消すことができるのか?」


 カルナの疑問にアリアは難しい顔をした。


「黒魔術に人を転移させられるようなものがあるなんて、わたしは知らないわ」

「俺もそっちは専門外だしな。ただ、できねぇことはねぇだろうな」

「黒魔術だと断定する理由はやっぱりあれか?」


 鮮夜が問う。

 だな、とセタンタが手を振りながら答える。


「男のガキだけをさらってるからだ」


 そう告げられてもカルナはいまいちピンと来ない様子。

 アリアが悲痛な面持ちでカルナの指に自分の指を絡ませた。


「黒魔術っていうのは〝贄〟が必要なんだよ」

「生贄。つまり、最悪の結末に繋がったってことか」


 鮮夜はくそっ、と吐き捨てる。

 彼の心には黒ローブへの憎しみが満ちていく。


「だが、男のガキだけっていうのは何故だ? 女でもいいのに」


 鮮夜の疑問にセタンタはウェールズ・ミレニアム・センターの壁にもたれかかる。

 どこまでも広がる青い空に浮かぶ雲を眺めながら、ある可能性を口にした。

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