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第一幕 十一話 The Second Site/Cardiff Central

8/29 一部改稿しました。

 第二の現場は駅舎の上部に駅名が、英語とウェールズ語で書かれてあるのが印象的な、カーディフ中央駅だった。

 カーディフはウェールズ州最大の都市であり首都でもある。

 かつてユナイテッド・キングダムと呼ばれていたこの国が、アイルランド・キングダムと名を変えた現在でも、カーディフはヨーロッパで最も新しい首都であり続けていた。

 また、カーディフ中央駅はここからウェールズ各地だけでなく、イングランドのマンチェスター地方や、ロンドンにあるパディントン駅からのインターシティも延びている。


 カーディフは自然と文明が共存しつつも、まるで時がゆっくりと流れているかのように思える穏やかな街でもあるが、この駅は日夜、人の往来が頻繁にある。

 にもかかわらず、ここでも神隠しは起こっていた。


 鮮夜たちはそんなカーディフ中央駅構内にいた。


「クー、どこから感じる?」

「そうだなぁ……。あっちと、あっち。それに向こうもだな」


 そんなにあるのかよと、鮮夜は脱力感に襲われた。

 神隠しは駅構内で行われた。

 それも今のような仕事や娯楽のため多くの利用客がいる昼間の犯行だ。


「ここでも同じ黒ローブが男の子をさらっていたのか?」

「さらったというよりも消した、が一番しっくりくる表現だな」


 鮮夜はズボンのポケットからデバイスを取り出す。

 ドクターが使用していたものと同じ、見た目は手のひらサイズのガラス板のようなスマートフォンに似たデバイス《EDITH9》だ。


「EDITH、アクティヴ」


 音声で起動させて一度振ると《EDITH9》からホログラムが空間に投影された。

 ホログラムに直接触れて不要な情報をスライドさせて排除していく。


「これだ」


 目的のデータを見つけると掴んでカルナへと渡す。

 いとも簡単に鮮夜がやってみせたので、自分にもできると思っていたカルナだったが、差し出されているホログラムを掴むのに一苦労していた。


「カルナ、だいじょうぶ?」


 難しいものなのだろうと、アリアが落ち着いてやればできるとカルナを諭す。


「そうなんだけど、上手く持てなくて……」


 そんなカルナの仕草に鮮夜は苛立ったのか、こうするんだと、カルナの手を取ってホログラムを持たせた。

 言っておくが決して優しさからの行動ではない。

 けれど、カルナはそんなことを知る由もないのだろう。優しい心のカルナには。


「あ、ありがとう」


 だからこうして、お礼を言ってしまうのだった。

 いいから見ろと鮮夜は指で示す。

 カルナは受け取ったホログラムを再生する。

 アリアもカルナの隣に立って覗き込む。

 それとなく、カルナはアリアに見えやすいように腕を動かした。


「ありがと、カルナ」


 ああ、と頷くカルナ。

 礼など必要ない。アリアのためにしたことだった。

 けれど、そんな小さな気遣いに気づいてくれるアリアの気持ちが、カルナは嬉しかったのだろう。

 自然と微笑みが浮かぶ。


「イチャコラしてないで、さっさと確認してくれ。それとオレから離れすぎるとホログラムが消える。独立してるように見えるが、このデバイスから出ていることに違いないからな」


 というよりと、鮮夜は首を傾げる。


「お前らは倭国日本で退魔士なんだろ。だったらこの技術も普段から使ってるんじゃないのか?」


 鮮夜の言葉にカルナとアリエルは互いの顔を見合わせた後、首を横に振った。


「俺たちはこんな技術があるなんて、ドクターの説明で使われるまで知らなかったよ」

「わたしはそもそも科学技術そのものが魔法のように思えてしまうから」


 アリアことアリア・アーサー・ペンドラゴンが生きていた時代は、今よりも遙か昔だ。

 その頃はもちろん今のように科学技術が発展していたわけではない。

 科学よりも神秘が支配していた。

 それがいつしか逆転し、現在ではどちらも介在する世界になっている。

 しかし、カルナもアリアも退魔士として戦っているのならば当然知っていると鮮夜は思っていた。

 何故なら、彼は倭国日本で退魔士をやっていた頃、この技術を使っていたからだ。

 その技術が、現在スーペリアーズで仲間として一緒にいるドクターのものだということも教わっていた。

 たった1年。されど1年。

 自分がアイルランド・キングダムでスーペリアーズとして過ごすようになって、退魔士のやり方も変わったのだろうと勝手に納得することにした。


「オレの言った通り、消えたっていうのがしっくり来るだろ?」


 カルナとアリアがヴィジョンに視線を落とす。

 カーディフ中央駅のメインエントランスが映し出されていた。

 真昼の駅は大勢の人々でごった返している。

 これでは迷子の一人や二人は出てもおかしくはない。


「ねぇカルナ、これ……」


 アリアが指さす箇所に突然、黒ローブの人物が現れた。


「こいつ、一体どこから出てきたんだ」

「そいつが最初にいた場所があそこだ」


 鮮夜が視線で示した場所に立っていたのはセタンタだった。

 セタンタはニコッと笑ってこちらに手を振っている。

 その後、肩をすくめて首を振った。何も発見できなかったということだろう。


「黒ローブは突如現れてメインエントランスの中央にまで進んで行く。だがその間、誰もそいつのことを認識していないんだ」

「確かに目の前を通っても、まるでその場にいないようにみんな無視しているな」

 

 どういう仕組みなのだろうかと、カルナは眉をひそめた。


「恐らく魔術で視線をずらしてるんだ」


 戻って来たセタンタが言った。


「そんなことができるのか?」


 セタンタの説明に驚いたのは鮮夜だった。


「確かに魔術を使っているのならば大勢がいる場所でも犯行は可能ね」

「そう。〝女騎士王〟の言う通りだ」


 女騎士の箇所でセタンタはエアクオーツの仕草をした。

 これはスーペリアーズで流行っているのだろうか。

 まぁ、海外ではよくあることなのだろうが。


「エリンの光の御子。わたしはそんな風に呼ばれるの好きじゃないわ。今はただのアリアなんだから。あなただって〝駄犬〟って呼ばれたら嫌でしょ?」


 刹那、セタンタの肩が揺れた。


「テメェ、誰に向かって駄犬なんて言いやがる」


 大気が震える。形容としてではない。本当に震えていたのだ。

 行き交う一般人たちがざわつき、鮮夜たちのことを見る。

 さらに駅の床が軋むような音、というより悲鳴を上げていた。

 少しずつだが亀裂が生じていることに鮮夜は気づく。

 咄嗟にセタンタの肩を掴む。


「おい、クー! こんなところでマジになるな。駅をぶっ壊したりしたら、ドクターに何言われるかわからないぞ!」

「……チッ、それもそうだな」


 周囲の空気が元に戻っていく。

 セタンタの髪もさらっとした滑らかな髪質から、赤く硬い茨のようになりかかっていたが、元の状態になっていた。

 カルナとアリアはセタンタの迫力、そして威圧に潰される感覚を叩き込まれていて一歩も動けなかった。

 仕掛けたのはセタンタの方だというのにだ。

 一触即発。これが世界を守るヒーローチームと言えるのかわからない。


「と、とりあえず黒ローブが魔術を使っている可能性が高いこと。そして、昼も夜も人の多さも関係なく相手を消すことができるのもわかった」


 カルナが間を取り繕うように口を開いた。


「それがわかればいい。新しい情報としては、黒ローブは黒魔術以外の魔術も使えるってことだけか」


 消えた子供の足取りはいまだ不明のまま、鮮夜が行こうと言い、一向は次の現場へ。

 彼らが去った後、駅の天井からつるされていたシャンデリアが落下した。

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