第一幕 十話 The First Site/Bute Park
8/28 一部改稿しました。
第一の現場はノースロード・カーディフにあるビュートパークだった。
広大な草原に聳え立つカーディフ城裏手の木々に囲まれ、ガーデンや大きな池もある自然豊かで穏やかな雰囲気に包まれた公園だ。
また、倭国日本人はあまり知らないかもしれないが、地元の人間にとっては『グラッファロ』という生き物のオブジェがあることで有名だ。
公園で事件が起こるなんてと思うかもしれないが、ビュートパークの場合は自然そのものが死角を生み出していた。
さらに、倭国日本とは比べ物にならないほど、セキュリティカメラが設置されているアイルランド・キングダムの中でも、自然を尊重しているためか公園にはほとんどカメラがなかった。
そして、こうした所謂ナショナルパークは自然を楽しみ、体験できる場所故に、入り組んだ道がいくつもある。
子供の頃、誰しも経験があるだろう。
自分だけの抜け道を見つけるということを。
大人では考えもしない場所が子供にとっては遊び場となり、同時に人目に触れない場所にもなっていた。
いくつもの要因が重なり、神隠しの犯行が目撃されることはその場にいない限り皆無に等しかったが、奇跡的にドクターが個人的に設置していた装置に、黒ローブの人物が映っていた場所がここだった。
「どうだ、クー?」
しゃがんで地面を観察しているセタンタに鮮夜が尋ねる。
セタンタは間違いないと頷いた。
「魔力の残滓がある。ここで魔術が使われたのは確かだ。ただ……」
「ただ何だ?」
セタンタはゆっくりと立ち上がりながら、眉間にしわを寄せて腕を組む。
「こいつは俺や桜花、そしてそこにいる騎士王が使うような魔術とは違うな」
「ええ、わたしもこの感覚には覚えがあるわ」
アリアも現代では魔術士となっている。セタンタ同様に魔術的反応を感知できるのだろう。
そんな二人に説明してくれと鮮夜が先を促した。
「こいつは戦闘に使う魔術じゃねぇ。基本的には儀式に使うものだろうな」
儀式に使う魔術と聞いて鮮夜が思いつくのは1つしかなかった。
「つまり、黒魔術ってことか?」
ご名答、とセタンタは指を鳴らした。
まずいと思ったのは鮮夜だけでなく、ここにいる全員だった。
表情に陰りが出ていることが、その証だ。
なぜなら、黒魔術は生贄を捧げることで成立する魔術だからだ。
脳裏に過るのは最悪の結末――。
「でも、まだそうと決まったわけじゃない。現場はここ以外にもあるんだろ?」
「ああ。だがカルナ、オレたちが調べるのは神隠しだけじゃない。喰い散らかしもだ。もし、神隠しの現場がここだけなら、消えてからの日数を考えれば最悪の結果もあり得るさ」
「たとえそうだとしても、俺は可能性を捨てたくはない。鮮夜、俺たちは子供たちを救うためにここにいるんだ。そんな俺たちが真っ先に諦めてどうするんだ」
言われなくても鮮夜とて理解している。
諦めているわけではない。
その可能性を考えたくない。考えたくないと思うと、余計に考えてしまうのが人の性というものだ。
「とにかく、次の現場へ行こうぜ。話はそれからだ」
セタンタの言葉を受けて4人は次の現場へと赴く。
そんな彼らの足取りは少し重たくなっていた。