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幕間――II 語り部再び/インシデントI 神隠し

8/25 一部改稿しました。

 そして舞台は暗転し、視点は再びこの場所へと戻る。


「んー、このティーはとてもいい香りだ。さすがは古のロンドンから取って来たかいがある」


 そこで、こちらの気配に気づいたのだろう。

 シルクハットにテイルコート姿で、この物語の語り部と自称しているロジャーがこちらへ振り向く。

 今はシルクハットはテーブルの上に置いているようだが。


「おや、これはこれは。あなたでしたか。どうしてここに?」


 こちらに対して語り掛ける時、ロジャーの口調は丁寧なものに変わる。

 一人でいる時にまで敬語を使うわけではないようだ。


「上の説明の通りですよ。私一人だけと思っていたのですが……。予定よりも早いお戻りですな。おかしい。まだ彼らの物語を体験している途中のはず――」


 物語は鮮夜たちがスーペリアーズ・マンションを出発するまで進んだ。

 彼らはいよいよ本格的にインシデントの解決に乗り出す。

 そのために、まずは――。


「嗚呼、そういうことですか。つまり、あなたはインシデントについて知っておきたいのですね?」


 こちらが説明しているのに、またこれだ。


「忘れたのですか? 私には第四の壁を越える異能があることを。あなたとそして、この状況を見ている多くの人々についても認識していますよ。あなたたちはただ、鮮夜の物語を体験していればよいのです」


 そういうわけにもいかない。

 鮮夜たちをより理解するためにも、彼らが向き合うインシデントのことを知らなくてはならない。


「ふむ、それもまた然り。いいでしょう。ならば、彼らが立ち向かうインシデントについては私が説明しましょう」


 ここで一つ気がかりが。何故ロジャーはインシデントのことを知っているのだろう。

 こちらは一言もまだ話していないのに。


「ここは私の世界でもありますから。あなた方に体験いただいている物語について、既に知っているのですよ」


 つまり、物語の結末を知っているということか。なら――。


「いえいえ、それはいけません。ネタバレというのは物語において最も忌避すべき事柄なのですから」


 では、とロジャーはテーブルにティーカップを置いて、シルクハットをくるりと回してから頭に乗せた。

 パチン、と白い手袋をはめた手で指を鳴らすと、どこからかスポットライトのような明るい白い光が彼を照らした。

 上を見ても光が伸びているだけで発生源はわからなかった。

 まさに、ロジャーは舞台上の役者のようだ。


「お褒めいただきありがとうございます。それでは、みなさんが気になっているインシデント。鮮夜たちの時間軸では二つの……いえ、厳密には三つか、四つほどのインシデントがアイルランド・キングダムで起こっていますが、内二つは鮮夜たちとは別のヒーローたちが対処しているので、今回の物語とは全く関係ありません。なので、除外しましょう」


 ライトが消える。

 何も見えなくなり、背後からスイッチの入る音がして振り返る。

 いつの間にか移動していたロジャーがスポットライトの下にいた。


「兼定鮮夜たちが対応するインシデントは二つです。一つは〝神隠し〟。もう一つは〝喰い散らかし〟です」


 まずは神隠しから、とロジャーは語り始める。


「みなさんは、神隠しというものをどのような現象だと認識していますか?」


 神隠し。

 鮮夜やカルナの故郷である倭国日本では割とポピュラーな言葉。

 現象自体は稀だが。


 神隠しとはある日突然、人が何の痕跡もなく忽然と姿を消してしまう現象のことだ。

 二〇三六年という科学技術が飛躍的に発展している時代。

おまけに宇宙一の頭脳を持つドクター・グレゴリーがいるにもかかわらず、アイルランド・キングダムでは神隠しが起こっていた。


「そうです。目撃者もいない。警察機構も、そしてヒーローたちが捜しても証拠すら出てこない。文字通り、神によって隠されたかのように子供が消えていたのです。しかも、何故か男の子のみが消えています」


 インシデントは三週間前に始まった。

 現在に至るまで既に五十人以上の男の子が消えている。


「なのですが……。あなたも、それにみなさんも、お気づきになりませんか?」


 一体何を言っているのか。

 ロジャーは人差し指を立て、左右に揺らしながらコツコツと図書館内を歩きながら話を続ける。

 ロジャーが移動するとスポットライトまで移動しているように感じる。


「神隠し、という言葉は上の方の地の文にもあったように、倭国日本ではポピュラーな言葉ですが、ヨーロッパでは違います。みなさんは、ヨーロッパにも神隠しに似た現象があることを知っているでしょうか? それは〝取り替え子〟。つまりチェンジリングです」


 チェンジリングとはヨーロッパでは有名な伝承だ。

 人間の夫婦に子どもが生まれる。

 ある日、妖精、エルフ、或いはトロールなどによって、ひそかに人間の子供と彼らの子供が入れ替えられているのだ。

 妖精たちは人間に自分たちの子供をある程度の年齢にまで育てさせ、ある日突然、再び自分たちの子供と人間の子供を元に戻す。

 人間は妖精の子を自分の子供だと認識して大切に育てるが、妖精たちは人間の子を死なないようにしても面倒を見ることはしない。

 よって、ある日人間たちの夫婦は絶望する。

 見た目だけが成長して、中身は赤ん坊のままの子供に。

 そうした子供たちは往々にして、妖精に取り替えられてしまったと言われる。


「けれど、今回のインシデントはチェンジリングではなく、一方的に消えるのみ。故に神隠しの方がしっくりくるということでした。何のために男の子のみが消えているのかは一切不明。鮮夜やドクターが個人的に調査していましたが、明確なものはありませんでした」


 だが、ドクターは宇宙一の頭脳を異星人。

 彼の天才的な知能と技術で三週間という時間を経てようやく証拠を見つけたのだ。


「ドクターがデバイス《JASMINE》で見せたヴィジョン。あれはドクターにしか投影できないもの。現に、同じ場所にあるセキュリティカメラにはあの黒ローブの人物は映っていないのです」


 故にドクターはこのインシデントには魔術的要素が関係してきているのだと推測した。


「神隠しは主に、アイルランド・キングダム第二の都市であるカーディフで起きていることがわかりました」


 神隠しには謎の黒ローブの人物が関わってきている。

 そして、恐らくは魔術士である可能性が高い。


「けれど今回は、もう一つのインシデントが同時に起こっているのです」


 再びロジャーが指を鳴らすと舞台は暗転した。

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