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風花守護騎士団・下

 世を救うものとして、花の騎士はなるほど尊い存在かもしれない。しかし、多くの“英雄”と呼ばれる者達は偉業を成し遂げた末に英雄と呼ばれるようになったのだ。

 重ねて言えば、いかに凄まじい功績を残したヒトであろうと、生前は親しい者にただのヒトとしての姿を見せていたのだろうと言うこと。


 盲目的に信じてもよい存在など、それこそ天使達や神獣といった不老不死であり特異なる力を持ったヒトならざる超常の存在であろう。シャルロッテだけでなく、他の花の騎士ですら該当はしない。


 シャルロッテがマロンを守るという約束をした、という事の始まりを踏まえればマロンに非は無い。しかし第三者の側面から見たフォー・ストームの言葉に、はたして守られること以外に方法は無かったのだろうかとマロンは考え始めた。

 俯いて深い思考に入って行く魔法使いの姿を見て、フォー・ストームは満足したように頷き、自身が祝福を与えた花の騎士へと向き直った。


「シャルロッテ・フロル!!」

「…………」

「守る力が欲しいか!」

「はい」


 覇気の籠った堂々とした声音。本来のフォー・ストームらしい、自分の存在を周囲に知らしめる大声であった。泣いて落ち込んでいたシャルロッテでは小さな声での返事だったが、フォー・ストームは満足そうに頷き(透明で小さいためわかりにくいが)、少女の頭を優しく一度だけ撫でると、森の上空へと高く飛び上がった。


「ヒトは破壊するだけでは存在できぬ! 守り、育み、施しをも与えた者が最終的には残って来た! “破壊”の権能の象徴たる腕を持ちし黒花獣が長よ! 貴様は“守る”者達によって滅ぼされるであろう!!」


 士遷富山やエキドナにも届くかと思う程の途轍もない声量。空気を支配下におく天使ならではの芸であろう。不思議と真下という最もうるさく感じるであろう位置にいるシャルロッテ達には、単なる馬鹿でかい声に聞こえるが、オベロン以下幽霊達はあまりのうるささに顔を顰めたり耳を塞いだりしていた。

 まるで世界中に向けて伝えているような天使の言葉は、あたかも予言のようにこれからの出来事を示していた。


 ☆


「急に幽霊達の動きが止まったと思ったら、この声……」

「フォー・ストーム様……?」


 立ち止まって動かなくなった幽霊達を最初は警戒していたものの、攻撃しても動かないと察して殲滅行動を取っていたゼルレイシエルとアリサの二人は、遠くから聞こえて来た声に攻撃の手を止めた。

 聞き覚えのある声で、あまりにも自信たっぷりな声音は忘れられないほど特徴的であった。


「どうしてあの方が……シャルロッテに何かあったのか……!?」

「アリサ、声のする方に向かいましょう!」

「そうだな! シャルロッテ……マロン……無事でいろよ……」


 ☆


「あのクソガキ何をやらかしやがった!!」

「気持ちはわかるが、走りにくいからって行く先の木を切り倒していくんじゃねぇよ!!」


 古龍の脚力を使って、馬鹿でかい声の聞こえた方向へと真っ直ぐに駆けていくマオウ。アルマスですら全力でも追いつけないほどの速度を出せるものの、小回りが利かないため目の前の木をハルバードで斬り倒したりふっ飛ばしたりしながら、猪突猛進といった様子で走っていた。

 アルマスはそんなマオウの行為を怒りつつも、全身を獣化させてマオウを追いかけている。そうでもしないと置いて行かれてしまうのだ。


(まったく一番遠いところに配置されてんのが……くそっ)


 アルマスは内心毒づきながら、倒れてくる木をサッと潜り抜けて速度を維持したまま走り続ける。持久力に優れた狼という動物であることに感謝しつつ、ただ黙々とマオウの背を追う。


 ☆


「レオン兄、ほんとに行かなくて良いの!?」

「どうせアリサ達が向かうだろうよ。つか今こそ数を減らすチャンスなんだから、出来る限りぶっ殺せ!!」

「しかし……」


 シャルロッテの身に何かが起きたのかもしれないと聞き、レオンの命令を聞いても言葉を濁すばかりのミイネ。機械の心であっても心配なのだろう。凄まじい技術によるものであるのだろうが、とても複雑そうな表情をして立ち尽くしていた。

 数十体目の幽霊を倒し、レオンは息を整えるついでに遥か遠くを気にして動かないリリア達を諭す。


「アリサ達は理論的に見えて直情径行的なところがある。クソノッポの馬鹿もそうだが……こういう時、誰かしらが冷静に状況を判断して効率的に行動しなきゃいけねぇんだよ」

「理屈はわかるけど……でも!」


 やはり我慢できないと駆けだそうとするリリア。ミイネもレオンを気にしつつも、それを追いかけて行こうとする。

 レオンは背中をむけたまま、リリア達にも聞こえる様にと心持ち大きな声で呟いた。


「それに、あのクソチビは簡単にやられたりするようなタマじゃねぇだろ。マロンの奴も」

「レオン兄……」「レオン様……」


 普段何事にも面倒くさそうにしているレオンが、目の覚めるような、仲間を信じると言う体の言葉を言ったことで二人は足を止めた。レオンは足音が無くなったことを察知するとすかさず振り返り、思い切り怒鳴る。


「わかったらさっさと幽霊共をぶっ殺していけクソオタク共!!」

「オタク関係ないでしょ今―!!!」


 雰囲気を台無しにするレオンの罵声に対して全力で怒りつつ、その怒りを幽霊達にぶつけて首ちょんぱしていくリリアであった。


「レオン様後でぶっ飛ばしますので」

「テメーの金属部品、全部没収するからな」

「申し訳ございませんでした」


 ☆


「シルフ!! 我が権能たる風を纏いし第二のともがらよ! 風にそよぐ花の如く嫋やかなる乙女達よ! 得物を持て、守護壁を構えよ!」


 声高らかに語られる、ある精霊達の名。無垢なる風の子、悪戯風の正体、そよ風の乙女などとも言われるモノ。

 風の精霊シルフ。八大精霊の一角にして美しい長い髪を持つとされる、女の姿をした、“とても非力な”か弱き存在。


「さぁ叫びたまえシャルロッテ! 貴殿の守る力を!」

「そこまで許した覚えは無いぞ天使!! 殺せ!」


 大声に顔を顰めていたオベロンが、これ以上はやらせまいと幽霊達に命令を下す。目が覚めたように剣を抜き槍を構え、シャルロッテを殺さんと襲いかかる。爆音によって三半規管か何かにでもダメージを受けているのか、まっすぐ走ってくる様子はなく、どことなくフラフラしながら駆け足をしているような様子であった。


「『風花守護騎士団シルフラウ・ガーディアンズ』!」


 シャルロッテが地面にランスを突き刺し、第三の業の名を叫ぶ。ランスから突風が吹き出し、巻き取られる。


 クスクス……


 少女のような笑い声がシャルロッテの背後から聞こえてきた。

 風は笑い声の正体……シルフに巻き取られていき、鎧へ、槍へ、盾へとその姿を変えていく。

 半透明にゆらぐ二体の騎士が、シャルロッテの背後に悠然と現れた。


「シャルロッテ。貴殿にはまだ自力で守る力は無いだろう。精進せよ! 貴殿はこれから全てを守るのだ! 穿ち壊すだけでなく、守る力をも磨け。今日の心境の変化は、貴殿の成長に大きな影響を与えるであろう!!」


 シャルロッテが目の前で剣を振りかぶっていた幽霊の一撃を紙一重で避ける。業の発動の為に動けなかったため、かなりギリギリで避けることとなった。

 前髪を留めるために使用していた布が切り裂かれ、あと少しずらせば死に至るところであったが、背後のシルフ達が幽霊を串刺しにしたことで祓われたため、危機は自然と脱した。

 本来のシルフであれば、風という属性もあって物理的な筋力のようなものは皆無に等しいのだが、精霊よりも上位の力である花祝の力によって、金属をも穿てるような力を得ていた。


「マロンちゃん」

「はい」


 シャルロッテの姿をただ黙って見守っていたマロンに、シャルロッテはいつものように華やかな笑顔を見せながら振り向いて、名前を呼ぶ。


「私……いや、私達が守るから、全力でぶっ放してよ!」

「……はい!」


 キシシというような擬音がピッタリの、満面の笑みを浮かべてマロンの返事を喜ぶシャルロッテ。

 幽霊達の方に向き直りながら、片方のポケットから金色に輝くカプセルを取りだし、パキリと割る。


「相手はあのヒトだし、破壊して、壊すためには使わないと決めていたけど。守る為になら、この力にも頼る!」


 カプセルが割れた瞬間、シャルロッテの手の中から空色の光が飛び出し、シャルロッテの体を包み込んだ。

 最初はギプスのように不恰好な形であったが、やがて光は鋭角的な形を成していき、やがて弾けた。


「私の一族に伝わる第一の鎧、“黄宮堅護おうぐうけんご》”。万翼ばんよく)よ、守護せし者に祝福を授けよ!!」


 シャルロッテを包むのは兜だけが無い全身甲冑。守護という言葉を冠するには肩口などが露出しており、防御力に不安が残りそうに見えるが。

 シャルロッテはニヤリと、大胆不敵に笑った。


「あの鎧……そうか、あの小娘、なるほど」


 そして遠くから姿を見ていたオベロンも。笑みを浮かべた。


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