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美食と大食い・下

「レ”オ”ン”兄”の”オ”ニ”畜ぅ”!!」

「めっちゃ金かけたりしなかっただけ幸運に思え」

「だからと言って年頃の女の子に、戦隊ものの特撮キャラがプリントされたの綿あめとか買わせますかねぇ!! 一人で!!」

「罰だもん。そりゃ恥かかせるに決まってんだろ」

「まことに申し訳ないがふぁっきゅー!」


 恋愛小説や恋愛漫画をこよなく愛するリリアではあるが、特撮などはまったくの興味の範囲外であるためどうしても場違い感が強く感じるのだ。


 ぶっちゃければどうにも自分達花の騎士が、戦隊ものの立ち位置と酷似していると自覚しているのだ。各種様々な属性を操る正義の味方達。字面だけ見ればまんま自分達である。

 そもそも魔法や呪術などが一般的に存在する世界で、怪物だ巨大化だなんだと言われても白けると言うのも本音であった。

 一応、ちょっと前までは巨大合体ロボットなどは少しは面白いなと思っていたのだが、ミイネというアンドロイドが身近に現れたということもあって完全に興味を失くしていたのである。


 完全に興味を失くしてからは男性向け、もしくは小さい子供向けの作品だなと思って居たところ、レオンのこの指定である。綿あめという食品の特性上、一つを作るのに時間がかかるもの。どうしても客の列に並ばなければならず、小さい子供達が親を連れて並んでいる所に、良い歳をした少女が一人で混ざっているのだから非常に目立つもので。それも今学期一年クラスの注目人物達が一人というのだから、色々と奇異の目で見られていた。

 それなりの数の注文を受けたため、なんだかんだでレオンに許可を貰ってミイネやゼルレイシエルに手伝って貰ったりしたのだが、御丁寧にも事前に念を押して綿あめだけはリリア自身に買わせるように指摘されていたのだった。


「しっかしクソ真面目に並んで買うとは……別にミイネとかにでも任せて、馬鹿正直に申告しなきゃいいだけの話だろ」

「……私、色々嫌なことしてるだろうし、せめてこういう時にでも言われた通りにやって、信用してもらえるようにって……」


 どことなく凹んだ声音でボソボソとレオンの問いに答えるリリア。そんな少女の態度を見てレオンだけでなくゼルレイシエルやアルマスなども思わず笑う。ムッとした表情になるリリアに悪い悪いと謝りつつも三人そろって笑っていた。


「お前そんなこと考えてたのか。そりゃ笑うわ」

「なぁーんで!」


 頑張って自身の思いを話したと言うのに、何故か皆に笑われるという状況に不服な様子。珍しく上機嫌で笑っているレオンの代わりに、ゼルレイシエルが笑って滲んだ涙を指先で拭いながら答えた。


「ごめんさいね。えっと、家計簿の計算なんかは私達は不得意だから、自家の家計簿付けも手伝っていたから得意だっていう貴女に、お金を預けているわけじゃない」

「う、うん……それは知ってるけど」

「私達との認識の差が可笑しかったのかしら……貴女が、私達の旅での生活が困ったりしないように、様々な情報を仕入れてお金のやりくりをしているのを知っているし……」


 リリアがなんだろうと耳を傾けているところで、続けてどう答えようかとゼルレイシエルが思案していたところ、ベンチに横並びで座っている二人の肩に乗るヒトの手。と、同時にもう一組の異常を感じて「悪りぃ、ちょっとあいつら見て来る」とアルマスがレオン達のもとを離れた。


「私達もそんなリリアちゃんの様子を見て、信頼してお金を渡してるわけですから。自分達の為に頑張ってくれるヒトを手伝うのは当たり前じゃないですか!」

「レイ……マロン!?」

「レイマロンって誰ですか……マロンです私です。せっかくフォローしたのにぶち壊しにしないでください……っ!」


 大きなレンズのサングラスをかけたまま、帽子を目深に被って変な名前の呼び方をしたゼルレイシエルに怒るマロン。普段と違ってメイクしており、姿だけ見れば割とチャラくも見えるのだが、やはりマロンはマロンで真面目な性格が雰囲気として滲み出るのだった。


「……まぁ、普通に頼む分にゃ何にも言わねぇってことさ。ヒトを嵌めたように勝手にやったから怒ったっつー話だ」

「ダメですよー、リリアちゃん。ホウレンソウはちゃんとやらないとすんごい怒られますから……私もマネージャーさんに何度怒られたことか……」


 空いていたリリアの隣に勢いよく座りながら過去の失敗をカミングアウトするマロン。芸能関係の方はマロンのミスではなく、ほとんどがレイラのミスなのだが記憶を共有していることもありあたかも自分が怒られたように感じるのであった。

 そんなぼやきを聞いてクスクスと笑うも、リリアはしっかりと自分の行ったことを振り返り、しっかりと反省して謝った。


「申し訳ありませんでした。今度からしないように気を付けます。とはいえまさかほんとに優勝って、流石だよレオン兄……」

「俺が料理で負ける道理なんざねぇさ」

「審査員のプロのシェフ達がこぞってレシピを教えてくれって言い始めたりしてたわねぇ……現実で初めて見たわよあんな光景……」

「レオンさんいったい何をしたんですか……」


 リリアやゼルレイシエルが巻き起こした出来事に驚いているところで、現状唯一の弟子とも言えるマロンは、彼の技術の数々を最も多く目にしている為か、何をして驚かれたのか思い当たる節が多すぎて呆れていた。

 レオンはといえば自身の腕を証明できて気分が良いようで、「人の技術を簡単に教えるわけねぇだろ」などとドワーフ出身らしい職人気質な返信をしたと思えば、「テメェにゃ今度、みっちり仕込んでやるよ」と身震いするマロンに対して爽やかな笑顔を浮かべながら脅迫をしていた。


「は、ははは……」


 先ほどのリリアと同じように引き攣った笑いをあげながら、話題を転換しようと先ほどから気になっていた一団を指差すマロン。


「あぁあいつら。ダッセぇよな。何を過信してたんだか知らんが、大食いコンテストで象人族の留学生に惨敗したらしいぜ」

「あぁ……あの象人族の方ですか……」


 割と有名ジンなのか、マロンも知っている様子の象人族のジン物。ちょっと噂を聞いた程度でも学食のサラダ100人前をペロリと食べきっただとか、オヤツに森の樹木を一本食べきっただとか、規格外の噂を耳にするのだ。

 種族柄、肉も食べはするが基本的にベジタリアンのような生活をしている象人族。今回の大食い大会がステーキなどの硬い肉類などであればまだ勝機はあっただろうが、今回はシチュー。コップの水を飲むように猛烈な勢いで食い尽くしていくのだから、いくらマオウやシャルロッテでも優勝を逃すのは無理からぬ事であった。


「グゥゥゥゥ」

「ぬぬぬぬぬ……!」


 しかしどちらもプライドの高い二人のこと。買った物量の差はともあれ、負けたという事実が非常に難しいらしくどちらもずっと唸り続けていた。


「もうお前らいい加減にしろよー。今回ばかりは相手が悪かっただけだって」

「だが、三位だ!景品は優勝者しか貰えねぇから関係ねぇが、ポッと出の牛人野郎に負けたっつーのがムカつく!」

「そう!!なんなんアイツ!うがー!!」

「結構僅差だったから、お前らが大食いの前にオヤツだの食ってなけりゃ、勝ててたんじゃねぇかと思うが……」


 アルマスがフォローしようとしたら微妙に他の人物に責任転嫁しかけたところで、KYで定評のあるアリサが追い打ちをかける。ある意味ナイスとも言えるものではあるが、マオウやシャルロッテは露骨に落ち込んだ。

 アリサもアルマスが頭を押さえ、ミイネが対象法がわからない為にオロオロと右往左往していると、様子を見かねたゼルレイシエル達がやってきた。


「別にそんなにへそを曲げないでも……マオウは絵画コンテストに絵を出してるじゃない」

「はぁ?大食いと関係ねぇだろ。つかあのイルミンスールの絵、そんなに制作時間掛けてねぇしな……」

「大丈夫よ。貴方には絵の才能があるんだから、自信持ちなさいな」

「お、おう」


 最年長の女性らしくマオウを褒めて応援するゼルレイシエル。そんな彼女を見てアリサが若干拗ねたような表情をしているが、正直に言えば一行のトラブルメーカー兼ムードメーカーの二人が落ち込んでいるとなるとアリサに構っている暇などなかった。


「えー、じゃあ私はー!!」

「シャリー姉は……あとで甘いもの買ってあげるから……」

「ほんと!?やった!!」


 食べ物に釣られて機嫌を直すシャルロッテ。彼女らしいと言えば彼女らしく、一行全員がチョロいなぁと言いつつもそれが彼女の良いところであるため、無駄に争いを起こすことが無いようにツッコミはしない。


「それで、明日は?」


 気を取り直したアリサが金策に関するリーダーこと、リリアに向かって翌日の予定を聞く。


「ゼル姉とアリサ兄が出場するクイズ大会!そして、レオン兄が出場する歌唱大会ですとも!」

「歌唱大会だぁ……?」


 そんななかリリアの話を聞いたマオウがレオンを睨みながら、良いことを聞いたとでもいうような喜色の混じった声音で見た。どうしたどうしたという目で他のメンバーが見る中、マオウはニヤリと笑って宣言する。


「その歌唱大会、俺も出るぜ」

「「はぁ!?」」


 猛烈な機械音痴が何を言っているのかというニュアンスの、猛烈に驚いた声がミイネを除いた八人全員から漏れた。

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