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西の童子と東の雷獣・下

「……流石の魔力量ですねマロンさん。歌いながら戦うことで有名な魔法使い、レイラさんの姉と言うだけはあります……」

「え? あ、ありがとうございます。レイラを褒めてもらえるのは嬉しいです」

「……えぇ、本当にあなたと戦えるのが嬉しいですよ……」


 サーベンティンは目の前の自身と同じぐらいの年齢の少女を見た。年相応の若干の幼さの残る顔立ちながら、大人の気品を持ち始め、すれ違うすべての人々を振り向かせるような絶世の名に相応しい少女である。何故妹と言われているアイドルのレイラ・ホープと顔がそっくりなのかは知らないが。

 もし彼女が普段の学校生活の中で自分に話かけてきたりしてくれたのなら、その後三日間は嬉しさのあまりずっと笑顔で過ごすかもしれないと思えるほどだ。


 しかし先ほどの魔力波を受け、なおかつ対戦相手としてなら話は全くの別である。その美しさが、かえって恐怖さえ感じさせるのだ。


「いやいやでも……噂通り、桁違いなんですねほんとに……」

「そう……ですね。昔から普通より多いとは言われますけど……」


 “普通より”。この言葉ほど今の自分に信じられないものは、無い。

 魔力波を近くで浴びて感じたのはあまりにも桁違いな魔力量である。その魔力波の衝撃は常識的に考えてもありえないレベルであり、魔力が全くない者が脅しやハッタリとして行使する場合に、ほぼ全力を出して使うとも考えられる放出量だったのだ。


「……ちなみに、今の放出は何%ほどの量だったりするんです? 俺も言いますので……俺は、一パーセントです」

「えっと……どうなんでしょう……私は……〇.五パーセントぐらい……でしょうか」


 その言葉にはからずも戦慄を覚える。彼女の台詞がブラフという可能性もあるが、目の前の少女が嘘をついている様には見えない。

 魔法使い族はまず自身の魔力を十割刻みで使えるように訓練する。中等部卒業頃には五十分の一ずつ魔力を引き出せるようになり、高等部卒業頃には個人差こそあれど百五十~百刻みで魔力を分割してコントロール出来るようになる。

 少女……マロンの言っていることが真実ならば、言葉通りに考えるならば、彼女の魔力量は“平均的な人よりも多い”とされる自分よりもさらに二倍から三倍はあるということである。


 ま っ た く ふ ざ け た 話 だ。


「そうですか……とても、」

「僕はかつてない程に、試合開始が待ち遠しいです」


 だからこそ燃えるというもの。

 魔法戦は純粋な魔法による殴り合いという側面もたしかにあるが、それ以上に情報を瞬時に纏める力や並列に処理する力、多様な魔法と効果に関する知識を必要とする頭脳戦でもあるのだ。どこぞの運動学者が、この世のスポーツの中でも最も過酷な競技の一つとまで言ったもの。魔力が多いだけで勝てるような単純な競技ではないのが、『魔法戦』と呼ばれる“魔法使い達の決闘方法”なのである。

 魔力の差が大きくなるほど純粋な球数が異なることから、不利になるのはたしかであるが、決して勝率がゼロになるわけでは無いのだから。


『おぉっと! ただいま情報が入りまして、審判は校長が行うご予定でしたが急きょ変更となりました! というか片方は自分の孫なんだから公平性の為にも当たり前の処置ですね申し訳ありません!』


 実況者のアナウンスでもう一つの懸念材料も無くなったことが告げられた。これで全力を出して戦えるというもの。


 ☆


 エルフ並みとはいかないまでも視力の良いマオウが、前の席に座るアリサに声をかけた。その表情は嗤っており、ひどく楽しそうであった。


「なぁおい今どんな気分だ?」

「……控えめに言って死にたい……」


 アリサは顔を真っ赤にしながら手で覆い隠して俯いた。


 ☆


『……え、マジで!? え、えぇ!? マジですか……えぇと発表しましょう!』

『えぇー? ちょっとどうしたのよ。ちょっと見せてごらんなさ……あらまぁ!』


 何故か驚いたような口調の実況者。実況者とは同じクラスで仲のいい友人でもあるため、自分の放送に使命感を持っていることも知っている。そのためこういう場で素っ頓狂な声をあげることは滅多なことでは無いはずなのだが……。

 そもそも良く考えて見れば、元々審判にする予定だったのが魔法使い族の中でもトップクラスの権威を持っている校長である。そんな彼の座を奪うということはPTAなどと呼ばれる組織の幹部や、この街を収める立場の人物だけだろう。


 しかしあの驚きようだ。つまり普段はこういった事にあまり干渉してこない人物なのだろう。そこから考えられること言えば。


 そして該当する人物に思い当り、ハッと前を向くとどうやら目の前の少女も誰なのかわかったようだった。


 魔法都市エキドナ及びその近郊に住む者で、学校長グラニスよりも権力があり、かつ審判などといったものをあまり買って出るようなことがない人物。

 それに該当するのは一度の跳躍でコロシアムの壁を越え、観客席をも飛び越えて自身と少女の真ん中に着地してきた怪物であり、片手に酒の入った瓶を持つ享楽主義者の神の御使い。


「よぉテメェら!! 今宵の審判は俺が務めてやろう! 魔法戦は神に誓いを立てる神聖な決闘だぁ。なればこそ俺がいねぇとはじまらねぇだろ!」


 【星屑の降る丘】地方を治める神獣、“西の童子”と呼ばれる酒呑童子である。

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