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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
創世の花々(プロローグ)
6/137

試練

久々の更新です。

七番目に銀色の種の花が咲いた。その花は理性を持つ生き物に金属の知識と貨幣の概念を授けた。

八番目に黄色の種の花が咲いた。その花は雷を落とし動物達に花々への畏怖と尊敬を与えた。


黒き花は大きくなっていた。その地は不幸にまみれ幸福とは程遠くなっていた。

白き花は混沌としたその地に葉を落としその葉を食んだ動物達に生き物をまとめる力を授けた。

白き花の葉を食んだ動物達は神獣と呼ばれた。神獣達は混沌を治め世に平静をもたらした。


花々はまた蕾となりそして再び開いた。


白い花は化身である神をその満開の花から生み出した。

八の花は化身である天使をその満開の花から生み出した。


神と天使は花々が咲く彼の場所を天と呼んだ。

神獣達は自分達がいるその場所を地と呼んだ。


神と天使は天より地を見守った。神獣達は地を直接治めた。

その中でも黒き花は成長を続けた。花々は黒き花を抑えるために再び蕾となった。


             創世記第一章より


********


 閃光が収まり、広間に先ほどまでの暗さが戻った。

 八人は突然の閃光に視力が弱くなっていた。彼らが石造の影に隠れて視力の回復を図っていると背後から声のような音が聞こえた。


「ナゼ、カクれるんだ?センシさんタチよぉ」


とても中性的な声だ。そして、それに続く声も、


「タタカいにイきてきたモノタチのシュウセイだろう。スコしはカンガえてはハツゲンしたらどうだ。」

「ワカったっての。うるさい。」


 やはり中性的な声であった。心なしか聞き取りにくく、棒読みのようにも聞こえる。

 種族的に光というものに比較的強いアリサが視力を回復させ石造の影から広間を覗くと、広間に八体の人影を見つけた。

 燃え盛る火に包まれた、いや、火が人の形をしている。砂が人の形をしている。

 他にもそんな感じのものが六体。


 その八体の人影を見たアリサの脳内には当てはまる存在があった。


「天使……?」


「そのトオりー。さすがサイネンチョウのセンシー」


 寝そべる砂の人型が、拍手のようなジェスチャーをした。ただカチカチと小石がぶつかる音がするだけだが。


「まだセイチョウしていないカレラのチカラではシカタノのないことですよ」

「ぼ、ボクはこのままでもイいよ。どうせ、ボクのスガタなんかミてもナンにもイいことなんてナいんだから……」

「ナニヨワキなこといってるんだ! メメしいからやめたまえ! キミもスバらしいソンザイだろう!?」


 白や黄色の煙の人型が呟く。かなりのネガティブ思考である。そしてその後に空間が歪んで人型のものが見える場所からたしなめる声が聞こえる。ちょうどその頃にはアリサ以外の他の戦士達も視力を回復させ、目の前の物体達に驚いていた。


「て、天使…? っていうことはあのピカピカ光ってるやつが“電気と悦楽のジシ・ボルテオ”……?」


「ゴメイトウ。そのトオりだ。しっかしまぁ、ワラえたぜオマエさんタチがゴーレムからニげるスガタは。やっぱりロア・ロックスにタノんでセイカイだったな」

「……え?あれって悪戯だったんですか?」

「そうそう。どんだけ慌てるか見たかったからさ」


 たちの悪い台詞を吐くと、電気の人型は腹を抱えて笑うようなジェスチャーをした。いや、聞こえてくる笑い声と動きが完全に合致しているため、本当に笑っているのだろう。言うまでも無く八人は猛烈な怒りを持った。


「うっるさい!!」


 と、火の人型が笑う人型の傍に行き、その腹を蹴り上げた。天井に当たって弾かれ、床に叩きつけられる。八人はそれを見て怒りが霧散した。だが、


「あぁー。もっと! もっとケってーー!」


 電気の人型が棒読みで叫ぶ。その台詞を聞いた戦士たち八人と七体の人型は、思い思いに「うわぁ……」や「キモ……」などと呟きながら後ずさった。畏怖や怒りよりも、生理的な畏怖感が勝つほどであった。


「……ま、こんなキモいヤツはホオっておいて、なんでおめぇらのマエにワタシタチがイるのかわかるか?」


 金属光沢を放つ人型が語りかける。


「力を授ける為……じゃないのですか?」

「サズけるだけならコウリンするヒツヨウもナイ。リユウはオマエタチのリキリョウをハカるタメだ」


 水の人型が答える。


「力量を測るですって? 何をするって言うんですか」


 レオンが気怠そうかつ、自分なりに丁寧に質問する。


「そいつはカンタンー。ワタシタチとタタカってカつだけー」


 仰向け(?)に寝転がる土の人型が指ぱっちんのような動作をした。すると、広間の床から壁が生えてきた。広間を十等分する壁。中央奥の二つの台座と出口を塞ぎ、そして八つの石造を囲うように生える。戦士達はバラバラになった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 狼の石造の間。


「……っ!!」


 アルマスは構えをとった。アルマスと相対するのは木の人型。


「こんなことはやりたくないのですが、シュジョウサマのメイレイならシカタナいですよね」


 そう呟きながら木の人型は佇む。


 ☆


「あぁ……もうイヤだなぁ……テカゲンしてくれるよね?」


 マオウと対峙するのはマオウの背丈以上はあろうかという煙でできたハルバードを片手で持つ小柄な人型。


「……っけ。上等だよ全力で潰してやる!!」


 ☆


 シャルロッテは獲物を構えた。目の前にいるのは透明な人型。


「ねぇねぇ!早く()ろうよ!」

「イいだろう、さぁかかってキたまえ!!」


 ☆


「……私の相手は“水氷と冷静のアクア・エリアス”ね」

「そのトオりだ。ヴァンパイアのムスメよ。……さて、タタカうとするか」


二者はそれぞれの得物を構えた。


 ☆


“電気と悦楽のジシ・ボルテオ”と戦うのはアリサ。


「カタナとかツカわねぇけど…まあイいやかかってコいよ。ハジさらしてやる」


「ですけど…俺が刀で斬ったら感電するでしょう。不公平じゃないですか」

「あ?そのへんはシンパイするな。そんなことにはならねぇ。オレらのカラダがジッタイカするカわりにそのヘンのコウカはナくなってる…タンジュンにフツウのタイジンセンとオナじだ」

「それを聞いて安心しました」


アリサは不敵に笑う。そして、刀を正眼に構えた。


「くっくっく…おもしれぇな。じゃあ、イくぞ!!」


 雷気の天使は思い切り床を蹴り、高速の突きを繰り出す。二者の間には10mほどの距離はあったがその差を一瞬で詰めたのだから、どれだけ早いかわかるだろう。

 実体化した電気の刀の先はアリサの胸に吸い込まれる。…が、アリサは少しばかり体を右にずらし、自身の刀の腹と相手の刀の腹を合わせ滑らせる、そして刃を突っ込んでくる相手に向けた。そのまま進めば頭から斬れるだろう。


「うわっ! あっぶねぇな!」


 雷気の天使は勢いを殺すために足を前に向けて踏ん張った。が、簡単に止まるわけも無い。雷気の天使は体でバランスを取ることを止め、後ろの方に倒れる。そのままスライディングの姿勢になり伸ばされた脚の先には、アリサの左足。


「……っふん!!」


 アリサは右足で突っ込んでくる天使の足に蹴りを入れ、軌道を逸らす。


「ぬぐ……」


 天使は弁慶を蹴飛ばされたためか苦痛のうめき声をだす。しかしやっと勢いは無くなったため、振り下ろされるアリサの刀を弾き返した後に痛みをこらえながら跳ね起きる。

 天使は起きたあと、後ろに飛んでアリサから距離を取った。痛そうに弁慶をさすったあと、アリサの方に顔を向けた。


「……おマエ、ホンキじゃねぇだろ」

「そういう、天使様もそうではないですかねぇ」

「はっ! ちげぇねぇ」


 天使は再び接近しアリサ達は肉迫した。それぞれの得物がぶつかりあう。


 一合、二合、三合。


 ぶつかるたびに電撃が文字通りに飛び散る。

アリサが右から横に薙ぐと、天使が受け止め、押し返した後に反撃する。が、アリサがその攻撃を防ぎ反撃し返す。

 幾度も幾度も電気が飛び散る。素人目には互角の戦いに見えるが、ある程度の力量のある戦士はこう答えるだろう。アリサが押していると。

 実際に攻撃に転じることが多いのはアリサである。


「……やはり、天使様は刀術を使ったことがありませんよね。動きがぎこちないですからっ!!」


 アリサが叫びながら左下より斬り上げる。天使はそれを防ごうとした。しかし、達人の域に達しているアリサはそんなガードを技術によって突破。つまり弾き、返す太刀で天使を両断した。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「いやー……やるねぇ……」

「いや、その姿で喋んないでくださいよ。マジでブっキミーなんですって」


 真面目な口調でふざけたことを言い、アリサは一人で大笑いしていた。天使は上半身と下半身に別れているため、形がリアルだったらさぞ怖いであろう。


「ホカのヤツらもカったみたいだな」


 “電気と悦楽のジシ・ボルテオ”がそう呟くと周りを囲んでいた壁が床に引っ込んでいく。


「リキリョウはジュウブンだな」

「そのようだ」


 金属の天使は同意を求めるように言うと、それに答えるように流暢な声が聞こえた。その声を聞いた雷の天使は慌てて体をくっつける。そして、八体の天使は広間奥の二体の台座の方を向いて跪いた。八人は突然のことに驚く。


「な、なんで天使が跪く……そうか、神様!!」


 リリアの答えに八人も天使達と同じ向きに慌てて跪く。そして、彼らが跪いた直後、台座の間に光が現れ、溢れだした。光はやがて形を変え、白い人型のものが現れた。


「別に跪かなくとも良い。花の騎士達よ。顔を上げてくれ」


 八人は頭を上げた。花の騎士である為か、はたまた天使を見たためか、神を見てもあまり動揺は見られない。

 神は花の騎士達を順に見渡しながら言った。


「……世の理を追い求める探究心深き魔法使い族の娘、マロン・ホープよ。そなたには“大地花(だいちか)”の祝福を受ける」

「私が、大地花……」


「夜の静寂に身を委ねる気高きヴァンパイア族の娘、ゼルレイシエル・Q・ヴァルキュリアよ。そなたには “水氷花(すいひょうか)”の祝福を授ける。」

「……ありがとうございます」


「森樹林を駆ける勇猛な一族、人狼族のアルマス・レイグルよ。そなたはその気高き獣の血により、“樹草花(じゅそうか)”の祝福を授ける。」

「樹草花、ですか。ありがとうございます」


「悠久の時を生きる至高の種族、古龍族のマオウ・ラグナロクよ。そなたには“煙毒花(えんどくか)”の祝福を授ける。」

「ほぅ? いや、有り難い」


「剛力と巨体を生かし大地に生きる巨人族の娘、リリア・トールよ。そなたには“獄炎花(ごくえんか)”の祝福を授ける。」

「……」


「小さな羽で世を渡り自由を守護する種族、妖精族のシャルロッテ…フロルよ。そなたには“烈風花(れっぷうか)”の祝福を授ける。」

「…………感謝いたします」


「その技を磨き物を作り続けるドワーフ族の息子、レオン・オルギアよ。そなたには“金鋼花(きんこうか)”の祝福を授ける。」

「金属ね……」


「世界と調和し精霊と共に生きるエルフ族の息子、アリサ・ルシュエールよ。そなたには“閃雷花(せんらいか)”の祝福を授ける。」

「ははっ、真にありがたき幸せ!!」


 神はうなずいた。すると八人の元に、授けられる祝福の花の天使が向かっていった。

 八体の天使は八人に向かって手をかざした。それぞれの手が握られる。そして天使達が手から光を放った。赤、青、黄、銀、緑、紫、空、茶。光は手をかざした花の騎士に向かっていき体に宿っていく。

光が収まると神が喋った。


「これで、祝福は完了した」

「祝福って……何も変わって無いように思うんですけどー!」


 シャルロッテが神に意見する。すると、風の天使が代弁する。


「とりあえず、これから私が言うことをイメージしてみたまえ!」


 八人は驚愕した。今まで棒読みだった声が急に流暢になったからだ。依然、中性的な声ではあるが。


「まず、指を一本たてたまえ。そしてその後、自身が授けられた花の属性を思い浮かべるのだ。…閃雷花(せんらいか)は指を二本たてた方が良いだろう。金鋼花(きんこうか)水氷花(すいひょうか)は指を下げた方が良いかもしれんな。」


 マロンは大地花の属性として、目を閉じて砂を思い浮かべた。すると、手に違和感がある。


「え? え、え?」


 彼女の手に砂が乗っかっていた。他の七人は指先から火や水やそよ風が出たり、植物が生えてきたり、煙がもくもくと出てきたり、指の間に電気がバチバチなっていたり、金属が床に落下してカキンカキンと音をたてたりしている。


「あ、あっつい! あっついあつ……熱く……ない……?」

「そりゃそうよ。貴女の体から出してるんだから」

「わ、私たちの体から…!? じゃ、じゃあ出し続けたら死ぬとかですか!?」


 その心配そうなリリアの声に水の天使が答える。


「……いや、死ぬことは無い。例えば君であれば、火を吸収して自分の中にストック出来る。そして、それを引き出して使っているわけだ」

「魔法……じゃないんですか?」


 マロンがキョトンとした表情で、おずおずと尋ねた。


「魔法はマナを使って虚像と結果を生みだすものだから根本的に違う。我らの祝福……【花祝(かしゅく)】の力は、言うなれば万物を使役する力だからな!」

「私達が流暢に喋れるようになったのは、あなた達を媒介として降臨したからよ」


 それに神が補足する。


「その能力は、心の成長と共に自由に扱えるようになっていく。初めは簡単なことしか出来ない。と言うわけで我らの中性的な声になっているんだ。……それと、武器か」


 神は右手を左から右へ薙いだ。手から、八つの光球が飛び八人の前で止まる。すると、光球の中から金属の塊が落ちてきた。


「え? な、なんで金属の塊?」

「それぞれ目の前の金属に触れてみたまえ」


 八人が触れると金属はグニャグニャと動きだし、形を変え、それぞれの武器の形になった。


「“神聖銀(ミスティリシス)”。天使達が八つの属性を注ぎ込んで作った金属だ。その金属は所有者の望む形に姿を変える。では、武器が手から消えることをイメージしながら、戻れ。とでも言ってみてくれ」


 八人が言われた通りにすると、手の中から武器が消えた。


「消えた……どこに行ったんですか?」

「次は逆に、武器が手元に現れることをイメージしながら、来い。と、言ってみなさい」


 すると、今度は手元に武器が現れた。


「……リリア・トール。君は、二刀流の他にも大剣で戦うことが出来ただろう?」

「はい。そうですが……」

「二つの剣を重ね合わせて、大きな剣を自分が持っているイメージをしてくれ」


 二本あった剣が合体し、一つの大きな剣になる。似たようなことが起きているためか八人はあまり驚いていないようである。


「武器の形をいちいちイメージして戦うのは命取りになるだろう。一度イメージしたものは神聖銀(ミスティリシス)が記憶するから形の名前を唱えれば即座にその形になるだろう」

「……主上」

「そうだな。花の騎士達よ。聞いて欲しい」

「その前に質問良いですか。神様」


 レオンが神に向かって言った。


「この塔に入ってくる前から気になってたんだが、…破邪の騎士はどこにいるんです?」

「……そのことについて話そうと思っていた。君達はもう既に会っているよ、破邪の騎士と」

「会っている……もしかして……旅人?」


 ゼルレイシエルの言葉に、神はゆっくりと頷いた。


「そう、彼女こそ破邪の騎士だ」

「だったら、何故ここにいないんですか?」

「……彼女と私は、強くなった“黒妖花(こくようか)”を弱体化させる為に戦い、負けた。そして、多くの力を取られてしまった。」

「……な!?」


 八人は愕然とした。今まで聞いたことも無い話だったからだ。


「私達は負け、今はほぼ無力だ。今まで黒花獣の力が発達してこなかったのは天使達のおかげだ。…彼女がこの中に入っても邪魔になるだけだろう」

「……どうしろってんだよ」

黒妖花(こくようか)は奪った力を黒花獣達を生み出し強化するのに使ったのだ。そなた達には黒花獣達の親玉の破壊・討伐を頼みたい。……虫のいい話だとは分かっている」

「親玉……そんなのがいたのか……」


 八人は無言になった。それもそうだろう。信奉していた者が負け、さらには力を奪われたというのだから。自分達が勝てるのか、神が負けたから世の中が黒花獣によって脅かされているのでは無いか。


 重い空気が流れる。天使達と神は無言で言葉を待つ。

 一時間にも感じる時間が経ち、シャルロッテが勢いよく立ち上がった。


「もう良いよ! めんどくさい!! 考えたってなんも進まないんだし! 私は戦って壊せればそれでいいんだ!!」


 シャルロッテの言葉を聞いた七人はハッとして立ち上がった。


「そうだな……俺たちは世界を救うためにここに来たんだよな。別に、うじうじ悩む必要も、無いんだもんな」


 八人はまっすぐに神と天使達を見る。そして宣誓した。


「わかりました。俺たち花の騎士は、神の意志に従い黒花獣と戦います! 世界を救う為に!」

お読みいただきありがとうございます。

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