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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
機壊と星屑の降る丘
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閃来花の騎士よ、戦いに終止符を・下


「なんなんだこいつは!」

「急にっ動きが……!」


 マオウとリリアが恨めしそうに叫びながら、紙一重でマザーコンピュータのパイプによる叩きつけ攻撃を回避した。上部に位置していた台座に付属していた四本のパイプの直径は三メートルほどでその長さは下部のパイプと同程度である。だが、問題点は別な場所にあった。


「別の作業を同時に、してる、んでしょうか……? ひゃっ!?」

「よっと……わわっ!?」


 縦横無尽に猛威を振るう四本のパイプ。ズドンズドンと地面に触れるたびに、重い音があたり一帯に響き渡る。

 先ほどまでは一度に一つの動作しか出来なかったのだが、台座が上下逆転し、下部であった台座が外れた瞬間から同時にいくつもの攻撃が可能となったのである。


「無駄が減った分、情報の処理が楽になった……みたいな?」

「よくわかんないけど、全部避けてぶっ壊す!」


 パイプの大きさが小さくなったとはいえ、その振り回される威力はリリアやマオウ以外ではおそらく一撃必殺となるであろうほどのものであった。そのため、全ての攻撃を避けて戦うことが求められるのだが、前衛が五人と後衛が一人という状況では上手くダメージを与えられないというのが現状である。


「ぬっ……って、テメェかよクソチビ」

「馬鹿野郎クソノッポ邪魔なんだよっ」


かしましく喚くな。等しく肉片となって消えるがいい」


 回避行動を取るうちに背中合わせになったマオウとレオン。マザーコンピュータはその隙を見逃さず、パイプによる薙ぎ払いの攻撃をもって殺さんとした。


「ちっ……クソチビ、テメェは退いてろ雑魚がっ」

「なっ……テメェ!!」


 マオウはレオンを腕で掴み、無造作にパイプの範囲外へと放り投げた。マオウは一人だけポツンと残るとその場で、パイプを一本を飛び越えるには余分が出来るほどの高さで跳躍をした。


「ほう? 二本目に気がついていたか」


「胴体ごと回転させてんだから気がつくに決まってんだろ低脳が」


「貴様はここで殺さねばなるまい」


 マオウ達を狙う二本目のパイプ。それを見越して余分に飛ぶ事により回避したが、二本目が通り過ぎて地面に降りた瞬間、マオウはある事に気がついた。


「挟み潰すつもりか……」

「マオウさんっ!」


 外側から客観的に戦場を見る事が出来ていたマロンがマオウを心配して叫ぶ。その声にアルマスやシャルロッテ、リリアが気がつきゾッとした表情を取る。


「ちっ……全力で応対するしかねぇかっ……」


 マオウが全身に力を入れて防御行動を取ろうとした、その時。


「ショットっ!」

「ウォラァァァァ!! 『雷光斬・八雷神やくさのいかづちがみ』ッ!!」


 マザーコンピュータの一本のパイプへと迫る三日月型の光。光は一振りの刀を包み込み、紺色の着物を纏った銀髪の男がその刀を構えながら、飛んでいた。

 男の背後に居るのは現時点でチャージショットを扱う為に必要不可欠な形である、両手が巨大な銃器に包まれた姿のゼルレイシエルである。


 雷光斬という遠距離技と同速度で動く事により、三日月型の電気による斬撃が花の力に依って刀に固定された状態となる。つまり外見的には電気の刃が柄から伸びているような姿であり、刀と言うよりも大太刀と呼べるような刀身の長さと化していた。

 単純に計算すれば一撃で二撃分の威力を持つ斬撃であるそれは、マオウに迫るパイプの一つを見事に輪切りに切断した。


「うぉわぁぁぁっ!?」

「かっこいいのに……締まらないなぁ……」


 誰から見ても格好良く見えた攻撃をするも、着地に失敗してゴロゴロと地面を転がる男。その背中は盛大に水に濡れており、地面に触れるたびに泥によって茶色に汚れて行った。


「助太刀するっ」


 まだマオウを狙うパイプを見て、アルマスがそれに向かっていった。リリアらが止めようとはしたが、脚部だけ獣化させた足の速さには、振り向く速度も追いつく事が出来ない。


「オォラァァァァッ!」

「……ッセイ!!」


 マオウは全力をパイプを受け止め、押し返すように弾いた。マオウがいたのはパイプの根元と先端の中間部分であり、そこを弾いただけでは先端がしなるように動いてマオウに迫る恐れがあった。そのために、アルマスはパイプの先端に肉薄し、その体や種族からは想像できない、人狼族に伝わる武術の奥義たる強烈な打撃技を叩き込んだ。


「痛ぇ……こんなデカイの相手だと流石に腕が痺れて動かなくなるな……」

「くかかっ軟弱だなぁっ! だが、まぁ、ありがとよ!」

「とどめを刺さないと……駄目じゃんっ!!」


 パイプを殴った衝撃による痛みで、腕をだらんと下げながらしかめっ面になるアルマス。マオウがそんな彼を笑うなか、いつの間にかマザーコンピュータの本体付近に居たシャルロッテが、パイプの根元を『槍鼬やりいたち』の連撃によって破壊した。


「なんだと……!」


 平原にマザーコンピュータの驚愕の声が響いた。隣同士のパイプを破壊されてしまったために、体を支えるきる事が出来ずに、地面へと落ちたのである。シャルロッテは吸収しようとしたものの、瞬間的に吸収出来る量をやすやすと超えた風圧によってゴロゴロと転がされ、マオウの足にぶつかることでなんとか止まった。


「何してんだチビ」

「うっさい馬鹿ノッポ! ノッポノッポノーッポ!」

「褒めてんのか?」

「むきーー!!」


 たわいのない口喧嘩をしつつも、その警戒の先はマザーコンピュータへと向いている。しかし、攻撃を仕掛けてくる雰囲気は感じられなかった。


「なんだ……? 動けない、のか?」

「……どうやら、そうみたいね」


 駆けつけたゼルレイシエルに助け起こされ、着物の土を払っていたアリサが不思議そうに呟く。

 二人が居るところより反対側に近い場所にあるパイプが、なんとか立つことが出来ないかとバタバタと暴れているのをゼルレイシエルの瞳は見つけていた。


 理性など忘れたように暴れる二本のパイプの近くにいたレオンとリリアの二人は、なんとか後退して遠回りした後、仲間の六人と合流した。後方で待機していたエントも呼び寄せ、九人となったところで、八人はマザーコンピュータの本体部分へと向かった。


「なにこれ……気持ち悪い……」


 ゼルレイシエルは本音を漏らした。球体部分には脈打つ血管と言うべきか、神経ととも言える物体が詰まっていたのだ。


「おのれ、おのれ、我が負けるなどありえん」


 マザーコンピュータは呻いた。アリサが哀れな生き物を見るような、復讐の炎が燃え盛ったような、どこか透き通った瞳で巨大なそれを見つめる。


「お前の負けだ。孤独に枯れ果てて死ね、雑草野郎」


 アリサは一人、台座の上に登り、その手に神聖銀ミスティリシス製の刀を握った。刀身に微かな星明りを映しながら。


「ヴァ……ルァァァ!!」


 球体……ガラスの球のようなものに包まれていた異物がドクドクと蠢いたかと思えば、ガラスに円形の穴がぽっかりと幾つも開き、そこから生物のごとき触手が荒々しく暴走するように外へと飛び出した。


「アリサ!」

「『散刀爆雷さんとうばくらい』」


 アリサに迫る無数の触手を見て、ゼルレイシエルが叫ぶ。しかし心配されている本人は動じず、平突きの構えを取った。

 刀の切っ先にはどこか無慈悲な力を感じる閃光が現れ、その切っ先は、異物を包み込むガラスを簡単に突き破る。異物に刀が刺さり、血のようなものがガラス内部に飛散した。


 そして、


「解放っ!」


 言葉を皮切りに、切っ先の閃光が、中心に収束することをやめた。

 電気の爆弾とも言うべきその解放は、異物を最も容易く焼き、痺れさせ、そして焼いた。


「ギャァァァァァァァァァ」


 マザーコンピュータの断末魔が鳴り響いた。異物は灰と化し、夜の闇より真黒な光線が空へと伸びる。


「倒した……のか?」


 アリサがポツリと呟く。

 黒の光線は空の頂を突くと七つに分裂し、どこかへと飛んで行った。


「何……?」


 マロンが疑問の声を漏らした。

 黒の閃光が消えると、中から九つの光が現れた。赤色、青色、空色、銀色、黄色、紫色、緑色、茶色の細い光線。そしてそれらを凌駕する太さの純白の光線が空へと放たれた。それらが意味するのは、天の花々の色……


 光線は各々の花に加護を受けた花の騎士の元へと降り注ぎ、白の光線は何処かにいる破邪の騎士へと飛んで行った。


「何……これ。力が……」

「倒した。んだよな……」


 各々が、それぞれ思ったことを呟く。どれも静かな言葉で、消え入るような声だった。


 ガラスのように思われていた球体は跡形もなく消え、巨大な土台がシンと静かに大地に座っているのみである。

 アリサの両目には涙が溢れ、まったく目の前が見えなかった。復讐の炎を消化するための水なのか。止めようにも止められず、過呼吸のような吐息が絶え間なく漏れた。


「仇、討ったよ……親父、お袋……ファノン、さん……」


 かつての仇だった敵の残骸に涙が落ち、小さな小さな水たまりが生まれた。僅かな月光によって淡く姿を表すそれは、むせび泣く一人の男をおぼろげに映し出していた。

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