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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
機壊と星屑の降る丘
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正に夢の如く・上

 宝砂温泉、女風呂。

 突然のカミングアウトに思考が追いつかないリリア、ゼルレイシエル、シャルロッテの三人を見て、キキッとレイラはイタズラっぽく笑った。

 そんな普段のマロンが見せないような表情を見た三人は、レイラことマロンの話により信憑性を感じた。とはいえシャルロッテは早々に思考を放棄し、視線を中空に漂わせたが。


 いまだ半裸の女性陣は湯船にも入らず、夏の夕方の生ぬるい風をただその体に受けていた。そんな中で一人、不意にレイラが呟く。


「ん? あ、マロン起きたみたい」

「どゆこと?」

「あー……私の中で精神体?のマロンが目覚ましたよ。ってことで。まぁ難しいから深く考えなくとも良いぞよ」


 適当にリリアの質問に答えたのち、レイラは集中せんと目を閉じる。無意識のうちなのか、何か言葉をしゃべっているように口が動く。意地悪く笑った後、目を見開くととある提案をした。


「まぁとりあえず温泉入ろうよ」

「そ、そうね」


 レイラの提案に同調した四人はとりあえず湯船に浸かることにした。乳白色の温泉に肩まで入り、温泉を柔肌に馴染ませるように湯の中で腕や脚を撫でる。

 シャルロッテは湯船でばっしゃばっしゃと暴れていた。水面を叩いたりなど、そういった行動である。リリアはそんなシャルロッテを観察し、湯に浸かったまま移動しその背後へ。


「……むっ!」

「あきゃ!?」


 殺気か何かを感じ取ったのか、シャルロッテは瞬間的に振り向き迫るリリアに裏拳のようなものを叩きこんだ。湯に投げ出され大きな水しぶきが上がる。

 そんな二人の様子を見ていたマロン改め自称レイラは目を輝かせると、裏拳を叩きこんで無防備なシャルロッテの背後に近づき、羽交い絞めにした。


「あぇ?」

「ぷはっ! ……マロンナイス!」

「私はレイラダヨー、マロンじゃナイヨー」

「……本当なの?」

「信じてくれなかったら私のアイデンティティが一個消えるよ!?」

「な、なにするの?」


 水面上に飛び出したリリアは動揺した声を漏らすシャルロッテににじり寄る。足をバタバタと暴れさせるシャルロッテ。水面の衝撃によって跳ねた水滴がリリアの顔にかかる。


「ほいせっ!」

「あ! ……ひゃ、そこ駄目! くすぐったぃあははははははっ」

「おーやっぱり肌柔らかいし綺麗……ん? なにこのリボン」


 シャルロッテの少女然とした柔い肌をまさぐったリリアは、その相手の足に結びで巻きつけられた真っ赤なリボンを見つけた。お湯によって濡れているそのリボンを見つけたリリアは思わず疑問の声をあげた。


「ん? 別に……なんでもないよ」

「外しておきなさいよ。タオルは付けちゃ駄目……まぁタオルと同じ扱いなのかはわからないけれど」


 三人の様子を呆れたような表情で見ていたゼルレイシエルが、シャルロッテに注意した。ムッと不満げな表情をしたシャルロッテを尻目にリボンを解くリリア。自分からリボンが離れたのを見たシャルロッテは「あっ!」と、慌てたように叫んだ。


「何? どうしたの? はい、リボン」

「あ、いや……なんでもないの……うん」


 シャルロッテはリボンを受け取ると、乾かすためか一度浴場の端の方にある植木の方向へと湯からあがって歩いて行った。

 そんな不可解な様子を見た三人はそれぞれ首を傾げたり、「どうしたのかな?」と会話したりした。とはいえリリアとレイラはあまり深く考えず、互いのモノを比べたりしていた。勝った、と喜んだのはリリアであった。とはいえその後にゼルレイシエルのモノを見て二人とも気を落としたりしていたが。

 ゼルレイシエルはジッとわざわざ植木の場所まで歩いて行くシャルロッテを観察していたが、レイラの方を向き放置していた問題を提起した。


「それで……二重人格って、どういうことなの?」

「うーん……信じてもらえないかぁ。どうすれば信じてもらえる?」

「どうすればって言われても……でも、普段はマロンがしないようなこともするから……」

「……まぁ信じてもらうのは時間をかけてでも良いんだけど……」


 と、レイラは続く言葉を濁すとシャルロッテの帰りを待った。そして戻ってきたのを確認したのを見計らい、新たな言葉をつなげた。


「ありがとね、マロンと友達になってくれて。マロンって人見知りで魔法研究ばっかりしてたから、あんまり友達居ないんだ。こんなに仲良くなったのも初めてだし」

「……マロンはとっても良い子だもの。ちょっと不器用だけれど……優しい子だから私達もマロンの事が大好きなのよ」


 マロンの姿をしたレイラの姿に、ゼルレイシエルが何も包み隠さずに想いを伝えた。そんなことを真正面からいわれたレイラは、気恥ずかしさやら嬉しいやらといった感情をにじませながら、「ありがと」と可憐に微笑んだ。

 レイラ・ホープというアイドルの魅力を最大限に含んだ、素の微笑みを見た三人は顔を赤くして一か所に集まると、キョトンとした表情のレイラに背を向けてひそひそと話し始めた。


「なにあれ」

「も、萌え殺しに来てますよこれは……」

「なに話してるのー?」


 そんな三人を訝しげに見ていたレイラは何も気づいていない様子で近寄る。三人は慌てて向き直ると「なんでもない」と言った。気を取り直すようにシャルロッテがゼルレイシエルの方を向くと手をワキワキと動かす。


「ま、まぁ良いのじゃ……ところで本当にゼルシエの、胸って……本当に……」


 という言葉を紡ぐごとに手の動きも声も、段々と小さくなっていった。そんなシャルロッテにレイラは慰めるように肩に手を乗せる。シャルロッテはレイラを見ると抱き着くように飛びかかり、二人で一緒に大きな水柱を上げた。


「ちょ、ちょっともう! シャリ―姉ってば! 水飛んでくるから!」


 顔にかかった水しぶきを手で拭いながらリリアは怒った。プハッと息を吐いて浮上してきたのはシャルロッテ。ふと沈黙する三人。

 そして一斉に向いた方角では、沈んだままのレイラ。


「「レイラ!!」」


 先ほどはマロン、次はレイラという別人格ごとにシャルロッテによって気絶させられた少女はすぐに引き上げられ、応急処置を施された。


「まったくもう! 二回も気絶させるなんて。何してるのよ」

「す、すまなかったの……ご、ごめんなさい」


 と、シャルロッテが謝った所で気絶した少女が目を覚ました。先ほどと同じく咳き込み、ボーっとした様子で三人を見上げる。


「温泉……? たしか私レイラと入れ替わってたはずじゃ……そっか、シャリ―さんに押し倒されて……」

「うっ……す、すまなかった……じゃなくて……ごめんなさい」


 少女にペコリと頭を下げる挙動不審なシャルロッテ。頭を振って意識をはっきりさせようとしている少女にゼルレイシエルは心配そうに声をかけた。


「レイラ、大丈夫なの……? また頭ぶつけたみたいだけれど……」

「あ……えっと、私はマロンです。レイラ気絶したみたいで……っていうかレイラったら言っちゃったんですか!」


 「あうぅ……」とうめき声を上げながら目を瞑るマロン。レイラを起こしたりでもしているのか、小さく口パクをしていた。


「あ、ごめん、マロンだったか。すぐに人格の判断とか出来ないからさ……」

「い、いえ。大丈夫ですよリリアちゃん」


 後頭部を抑えながら立ち上がるマロン。と、自分が一糸まとわね姿なのを確認すると慌ててタオルで隠した。


「うーん……今の行動マロンって感じがする……」

「そ、そんなので判断しないでください!!」


 納得の声をあげるリリアの言葉に同調するマロン以外の女性二人。そんな反応を見て顔を真っ赤にしてマロンは言葉を返した。


「あはは、冗談だってば。えーっと……レイラちゃんは起きたの?」

「え? えぇ。ちょうど今起きたみたいです。」

「今交代できる?まだちょっといろいろ話、聞いてみたいんだ」


 リリアの言葉に少しばかり訝しげに見つめるマロン。


「……私の恥ずかしい過去とか聞かないでくださいよ? あ、あと、優しい子だから大好きとかも、き、禁止です!」


 自分の中にあるレイラの記憶を引き出し、顔を真っ赤にして恥ずかしがるマロン。三人は内心で、(照れてるのかわいい)などと思いながら守る気の無い約束をし、交代を頼んだ。


「わかりました……変わるのにも2、3分はかかるので温泉に入りましょう」


 そう言ってマロンは三人を促すともう一度その体を、湯に濡らした。

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