骨肉之親・上
茶番回です。長らくお待たせしてすみませんでした。
最近ノベルアップ+様のほうで、『大地を走破する者、シャカ!』という歴史小説を連載しており、そちらの方に注力しておりました。何もアナウンスなく休止してしまい失礼しました……。
またこちらの更新ぼちぼち行っていく予定ですのでよろしくお願いします。
(ちなみに歴史小説の方はアフリカを舞台にした、シャカ・ズールーが主人公の作品です。もしご興味があれば下記URLから。
https://novelup.plus/story/700392069
もう時刻は夜更けに近い頃。美容と健康を考えるならば昼行性種族は寝るべきなのだろう時間だが、夜更かしが楽しい年頃の少女達は、ぱちくりと普通に目を開けている。
豪邸での寝泊まりと、久々の戦いで興奮したのもあってか、それはもうやかましいぐらいだ。壁の分厚い個室なので怒られる心配はないのだが。
ヴァルキュリア邸の話から家族の話、腐死者キモいという話から動物可愛いときて、ゼルレイシエル遅いなあからのまた家族の話へと移る。無軌道な会話だ。元気な証でもあるが。
「家族かぁ……うぅ……会いたい……」
リリアがふわふっわで上等な枕を抱きしめ、ベッドの上をごろんごろんと左右に転がる。
その隣のベッドであぐらをかいていたシャルロッテが、口に噛んでいたアイスの棒を手に持ちわりと冷静に一言。
「いつも電話してんじゃん?」
「電話だけじゃ足りないよう」
ウヴァ―と呻いてベッドに沈むリリアである。
「全然わからん……」
「家族は良いもんだよ! 可愛いよ妹、かっこきれいだよ兄ちゃんと姉ちゃん」
「わからん……」
シャルロッテは両腕を組んで考え込むような仕草を一瞬したが、すぐに姿勢を崩してアイスの棒を加えた。考えるの飽きたんだろうなぁと、マロンがぼんやりとした想像をしながらくすりと笑う。
「お、お姉様達の浴衣……あいたぁ!? 痛覚ないですけど」
鼻血も出ないのに鼻を押さえて、暇さえあれば感激している阿呆の頭に、リリアはどこからともなく出したハリセンを叩きこむ。うつ伏せの状態で流れる様な動きだ。ツッコミ慣れとは恐ろしい。
「あー……というか、シャリーさん家族のこと全然喋らないじゃないですか」
「は……お母さんは好きだよ?」
「それ以外は?」
「のーこめんつ」
やんわりとはぐらかすシャルロッテ。
答え方から父親と上手くいっていないのだろう、というのは推測出来るが、もういつもの事なのでレイラ達はそれ以上の追及を行ったりはしない。
「……声聞きたくなったので電話してもよろしいか!!」
急に起き出したかと思えば話をぶったぎるような事を言い出すリリアである。
しかし特に止める理由もないため、携帯端末を取り出したリリアに二人は「どうぞどうぞ」と促し。応答待ちをしている間にシャルロッテがレイラの隣にやってきて、耳打ちをするようにコソコソと話をしている。
「最初のセリフどうなると思う? もしもし以外」
「……ぎゃー!とかに三百ルク」
「じゃあうひゃああとかで三百ルク」
「よし成立」
友人をネタに賭けをしていた。親が見たら泣きそうである。
「あ、もしもーし」
『もしもしーリリアどうしたのー?』
「わぎゃあ!! アリア~マリアぁ~可愛いぃ」
『ねぇね!』『ねちゃ!』
突然叫びだしたリリアの声を平然と流しつつ、「ぎゃー」で賭けていたレイラが小さくガッツポーズ。シャルロッテは拗ねつつも、ちょっと違うからノーカン。などとは言わないでいる。
「りありあですね」
「りありあ」
ボソッと呟かれたミイネのボケ……ともツッコミとも取れる台詞に、気を取り直したシャルロッテが山びこのように呟く。
掛け金の支払いはあとでだ。だいたい翌日には忘れているものだが。
「アリアちゃんとマリアちゃんと、サリアさんしか知らないけど、リリアちゃんちリア多すぎないっすか」
リリアに聞こえる様な声で呟かれた、レイラの率直な質問である。
知ってのとおりリリアの家族は大家族なわけだが、長女のサリアを筆頭に、次女のリリアと、さらに下の娘のサリアとマリアという名前であった。
「リア充」
「……ゲホッ……!」
先ほどからボソリとした声で思ったことを呟くシャルロッテ。横で聞いていたレイラは思わず吹き出し、そのまま座っているベッドに倒れ込む。ぶるぶると震えているあたり、ツボに嵌っているらしかった。
対して当事者にあたるリリアは複雑そうな顔をしており、ぷくっと頬を膨らませて友人達を睨む。
「それあんまり言われたくないんだけどー」
「事実では?」
「うぐ……だから嫌なのー」
そんな嫌々言っているリリアの両隣に、シャルロッテとレイラが挟むようにして移動した。レイラなどは口元を枕で覆いながら隣に座り、いまだに肩を震わせたりしている。
ミイネが話に混ざろうとベッドの後ろへ回り込んでいる横で、シャルロッテとレイラは端末の画面を覗きこんだ。画面の先では簡素な作りの服を着た、そっくりな見た目の幼女二人と大人の女性が覗きこんでいる。
赤毛に黒目、とくに凝ったメイクはせずに大人の女性……長女サリアはにこりと笑った。
『こんにちは~』
「こ、こんばんは」「こんちわ」
『おねーちゃん、こんばんわだよ』『だよ』
『あ、そうねぇうっかり』
サリアのうっかり発言に釣られて、昼の挨拶をしてしまうシャルロッテ。そしてすかさず間違いを指摘してくる双子の声に、わずかに顔を逸らした。そんな子供ルックの人物達の行為に、後ろではミイネが頭を手で覆ってイナバウアーしている。
レイラのライブで感極まった限界状態のリリアのようだ。勿論誰も気がついて居ないのでツッコむ人物は居ない。ミイネと言えど徐々に学習して来ているのだ。
『あれ? アリアマリア、電話もういいの?』
『遊ぶの』『遊ぶー』
「えぇぇぇぇぇお姉ちゃん悲しい……」
さめざめと呟いて引き留めようとするも、まぁ子供は気移りが激しいためすぐに画面から消えた。
『そちらの方は……れい……ま……』
「レイラの方っすねぇ」
『ああレイラさんね。あとそちらはシャルロッティさん』
「ッテ!!!」
「姉ちゃん、ロッテだよロッテ」
どことなく抜けている姉に振り回され、気の抜けた表情になりつつ、リリアは近況報告を行う。
今はゼルレイシエルの実家に泊まっていること、かなり大きな家であることなど。
ライラやシャルロッテの茶々を交えつつ話を続け、やがてサリアが何か気がついたように声をあげた。
「どしたの?」
『ゼルレイシエルさんの姿が見えないけどどうしたの?』
「そういや遅いね」
「お父さんと話をしてくるって言ってたけど」
ゼルレイシエルと別れてから軽く二時間は経っていた。
「……親父さんだし、単純に話が難航してるんじゃ?」
「そうだねー」
『良くわからないけど気難しそうな方なのねぇ』
「おとっつぁんの比じゃないね」
まさかアリサも交えて話をしていて、プロポーズぶちかまして一触即発状態になっているとは思いもしない三人と一体とサリアである。
「おとっつぁん」「おとっつぁん」と両脇の二人から弄られ、リリアはくすぐったそうに「もー!」と叫んだ。
『うふふ。やっぱり仲良いね。シャルロッテさん、レイラさん。リリアと仲良くしてくれてありがとう』
「いえいえそんなー! リリアちゃん話が合うしー」
「もっと甘い物食べたいんですけど」
ここぞとばかりに要求してきたシャルロッテに、リリアはとても形容しがたい表情で返す。わりと照れくさい話とは言え、お財布事情に関しては全く別の問題であった。
「……やっぱいいです……」
負けたシャルロッテが眉を垂らして後ろに倒れ込んだ。なんだか今日は負け続けのシャルロッテである。
『あ、そういえば。クリア兄さんが結婚するの聞いた?』
「え、は、はぁ!!?」
思わぬ報告にリリアが跳ねて立ち上がる。大声に二人は体を震わせ、何事かとリリアの手元に視線を向けた。立ち上がったということでミイネは再度移動を始め、リリアの隣へ移動する。どうやらミイネも画面が見たかったらしい。
『クリア兄さんから聞いてないの?』
「聞いてないよ!! うっそだぁ! クー兄ちゃんからなんも聞いてないけど!!」
『本当? もしかして結婚してから言うつもりだったのかな……』
わりと酷いサリアのネタバレにリリアが激しい動揺を見せている背後で、シャルロッテ達はふたたびコソコソを話をして。
「クリア……」
「りありあ……」
流石にどうかと二人が話す前で、トール家の重大な話は続く。
「結婚相手だれ!? 付き合ってるとか聞いたことないけど」
『スルト家のナターリアさんよ。リリアも知ってるでしょ』
「リアァァァァ!!」
五リアにさらにプラス一である。
目元を覆って慟哭するリリアを見て、さしものシャルロッテ達も引き攣った笑顔で「もう呪いじゃん……」とか失礼なことを言っていた。
「なに……? お見合い? そういうところだぞ実家ぁ!!」
『それがねー……恋愛結婚なのよねー』
「もう呪いでは??」
思わずつぶやかれたリリアの言葉に、レイラ達は自覚合ったのかという目線で見守っている。
『お父さんとお母さんがねぇ……ガリアとジュリアなんて名前だからって、悪乗りしてみんなにリアなんてつけるからもー』
「ガリアジュリアクリアサリアリリアマリアアリアにナターリア……」
めちゃくちゃ流暢に呟かれた家族の名前に、シャルロッテとレイラが耐え切れずに噴き出す。呪文かなにかのようにも思え、通話の邪魔しないようにだけ、同じ枕に顔を埋めてピクピクと震えている。
「はぁ……また友達にからかわれんだから……」
「お父さんもお母さんのことだし、結婚の了承も二つ返事なんでしょ?」
『そうね』
即答で答えるサリアに、リリアは溜息をつきながら、後ろで笑っている二人の上にどーんと倒れ込む。
「ぐ、ぐえー。く、くふ……」
「おもいおなかいたい……」
「重くないし!!」
戯れている三人娘の様子にミイネが羨ましそうにいている。質量が質量なので無暗に戯れられない悲しいサガである。
『まぁ兄さんも頼りになる男性だし……最近は村の若者のリーダー役までやってるよ?』
「うっそだぁ! クー兄ちゃん頼れる……やっぱ記憶でも頼りないよ!! まだ結婚は無理だって!」
一年間会っていないギャップに、わぎゃんと驚くリリア。画面の奥でサリアは不思議そうな顔をして。
『兄さんの結婚いやなの?』
「家族が結婚するの嫌でしょ!!」
「そうかなぁ……」
もやっとした表情を浮かべるサリアである。リリアはお腹の下の二人がぷるぷる震えてくすぐったいと身じろぎしながら、きゃんきゃんと叫んだ。
「そうだよ! 私まだ認めてないからね!!」
「ファミリーコンプレックス拗らせまくりだぁ……」
笑いが収まってきたレイラがそう揶揄して、ミイネにくすぐりの刑をするようにと、リリアから指示される。。
ミイネはにっこにこで手をわしゃわしゃさせ。
「ひっちょっやめ……」
一行最強のくすぐり技にかかるまで、レイラは引き攣った笑いを浮かべるのであった。




