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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
清水クニノ求血鬼譚
134/137

円鑿方枘・上

円鑿方枘えんさくほうぜい

…丸いほぞの穴に四角いほぞを入れること。うまく噛み合わないことのたとえ。

 この世の全ての原点は、天に咲きおわします〝白神花”です。

 九輪の花々の頂点であり、〝神”と呼ばれることも!


 そして説によっては白神花に生み出された八輪の花々には、序列があると言われています。

 最上位として神が居るならば、その以下にある存在も順序があるだろうという理由からです。


『序列一位、大地花、ロア・ロックス

 序列二位、水氷花、アクア・エリアス

 序列三位、樹草花、リュー・フローザ

 序列四位、煙毒花、マクロディウス

 序列五位、獄炎花、エ・ラ・フレミオ

 序列六位、烈風花、フォー・ストーム

 序列七位、金鋼花、ガロン・メタリカ

 序列八位、閃雷花、ジシ・ボルテオ』

 

 これは一例です。

 創世記(後述)に登場する順に高位としたものであり、まずはじめに大地を創造したとされる大地花が一位となっています。しかし別の説では、怠惰を司る大地花が一位であるのは適切ではないとも指摘されており、昔ほどは有力視されている学説ではないようです。

 なお野心を司るとされる金鋼花はその性質上、あまり上位に入れられる機会が少なかったり。イヌは悲しい。


 ――――――――


           『イヌの花学論・一巻 イヌも大好き天のお花』亜雲出版より


 ********


 夕食。時刻はもう時計の短針が真下を通過しており、家についた頃にはみんなお腹がペコペコの状態であった。


「お腹ぺこぺこのぺこ~」

「御夕食を食堂にご用意しております」


 バスを降りて早々に出迎えに伝えるシャルロッテと、恭しく礼をして頭を下げる侍女さん達。先ほどまで寄っていたはずのシャルロッテは、外の空気を吸い、晩御飯の話を聞いて途端に元気になったようだ。


「なんでこいつも酔ってたのに食欲に満ちてんだよ」

「あんまり重いもの食べられなさそう……」


 レオンとレイラの二人組は、それぞれの薄めの胸を押さえながらしんどそうにあえぐ。すぐには気持ち悪さの消えないレオンとレイラの二人である。


「それではこちらへ」


 ひとりの侍女の案内を受け、花の騎士達を待っていたのはそれはもう豪華な食事だった。基本的に和食のようで複数の小皿に料理が乗っているが、テーブル中央部には丸ごと焼かれた鳥肉や鯛のお頭付の船盛り、それに麻婆豆腐の皿や揚げ物などの皿が鎮座している。

 たいていレオンの造る料理だと、料理を作る手が足りないために、休日でも数種類程度の食事に留まっていた。それと比較すれば満漢全席かと見紛う様な、とんでもない料理の数である。


 もちろん花の騎士達とて、だてに伝説に語られる存在ではない。神獣達に招待を受けての宴会や、村や街を救ったお礼としてたびたびご馳走を戴いている。(そして余った料理をタッパーとカプセルにつめて旅の最中の食事にするまでがワンセット)

 しかし神獣などの税金込みだったりする存在はさておき、それ以外のご馳走はほとんど色んな家庭の持ちよりだったりするものだ。だが目の前の料理はすべて単独の家、ヴァルキュリア家の財によるもの。


「料理すっげぇ……」

「これマジで私達だけ? 数十人規模の大宴会料理でなく!?」


 物の値段を知るリリアはマジで!? という表情で侍女に詰め寄り、侍女はマジです。という顔でゆっくり頷く。


「マジでかぁ……あらためてゼル姉の家すっごい……」

「見るところなんだかおかしくない? ふふふ」


 なんだか仲間達の様子がおかしく感じられ、ゼルレイシエルはくすくすと笑う。色んな一般的食事風景を見てきたゼルレイシエルは、約一年ぶりの実家での光景を改めて見て驚いていた。のだが、仲間達のオーバーリアクションがさらに面白おかしかったらしい。


「……最近食事描写多くない?」

「描写ってなんだよ」


 レイラが何やらボソッと呟くものの、意味が解らずレオンがツッコミを入れる。時折良くわからないことを喋りはじめることのあるレイラ。電波系のでもあるのかと思いつつも、世界的な歌手ならそんな感じであるべきなのかも……と、心の底に仕舞うレオンである。


「いただきまーす!!」「いただきます」

「はやっ!?」


 いつの間にやら席に座って、手を合わせているのはマオウとシャルロッテ。「食いしん坊ども……」とレオンは密かに唸りつつ、二人のどっちもとも離れた場所に座る。具体的に言うなら部屋の奥あたりだ。フードファイター二人は、一番手前の席に座って真っ先に食べていた。


「ちょ全部食うなよ!?」


 アルマスは鳥肉の丸焼きが目の前に来る席に慌てて陣取る。ササッとメイドが横に現れ、手際よく鳥肉を切り分けて、空の取り皿へと乗せた。


「やぁ皆さん。こんばんわってなんじゃいぞえこの御馳走様!?」

「……もう食べ終わったんですか?」

「えぇ!? いやこれからだけんどもあかんのであります!?」

「え、あ。そういう……全然構いませんよ一緒にいかがですか?」


 「おぉ~! お言葉に甘えてぇ!」などと笑うアンネを誘い、花の騎士達はみんな食堂へと脚を向けた。


 ◆◇◆◇


「スゥゥゥ……」


 ヴァルキュリア家の庭園。その中の石畳になっている場所に立ち、奇妙な動きでダンスを踊っている。


「ふっ……スゥ……」


 ぐぐっと体を沈めるようにしながら、時間の流れが狂ったかのように緩急の激しい足運びと腕の動きをしている。


「……華蘭ファランの拳法?」

「……居たのか」


 トイレに寄った通りすがりに外に居るアルマスを見かけ、レオンは何をしているのかと見守っていた。アルマスの訓練(獣族拳法)はよく見かけていたが、今の動きは初めて見る動作であった。

 しかしどこかで見かけたことがあるなぁと思い出すと、とある映画が脳裏に浮かんだのだ。それは海外で制作されたバトル映画である。あまり爽快感もなく地味な映画だなと感じていたが、思い返すと徒手空拳バトルものであった。


(そりゃ地味だわ)


 そんな映画の劇中に登場したなんだか拳法に、アルマスの動きが似ているとレオンは感じる。どんな内容だったかもうろ覚えなため、微妙な顔つきだが。


「華蘭は徒手空拳……ってか、古流武術の本場だからな」


 アルマスはキリの良いらしいところでやめ、ポケットに入れていたタオルで汗を拭う。背中が濡れて気持ち悪いらしく、シャツを脱いで上裸の状態になった。


「お前、他人の家だぞ」

「まぁ他のヒトの匂いはしないから大丈夫」

「そうかい」


 アルマスの鼻やアリサの耳のような、特に探知能力を持ち合わせていないレオンは呆れたように溜息をついた。有れば便利だろうなとも思いつつ、あったらあったら面倒くさそうだなとレオンは思っている。


「聞いた方が良いのか?」

「どっちでも」

「……聞いてくれ」

「面倒くせぇな。……服を着てからな」


 悪態をつきながらも石畳の上にどっかと座るレオン。アルマスはそんな友人の姿に微妙に目を丸くしながら、言われた通りに服を着込んだ。

 タオルを首にかけ、レオンと同じ方向を向きながら隣に腰を降ろす。


「……レオン、チョロいとか言われないか?」

「ド頭かちわんぞワレ」

「すまん……」


 ほんの冗談のつもりだったがわりとマジギレの返答が帰ってきたため、尻すぼみに謝るアルマスである。思った以上にストレスだったようで、近くの小石を掴んで力任せにぶん投げる。


「……ほんとごめんて……」

「ったく……さっさと言え」


 レオンは膝に肘をのせ、手のひらに顎をのせて大きなため息をつく。アルマスは戦々恐々としつつも、「ありがとう」と言って、静かに口を開いた。


「俺はさらに強くなりたい」

「それを俺に言うかよ」

「いてっいてっ」


 レオンはミントタブレットを噛み砕きながらアルマスの肩をボコボコと殴る。意外と獣化していない状態ならばレオンのほうが筋力が上、いうこともあってかアルマスは別の手の平で拳を受け止める。


「馬鹿にしてんのか」

「だってレオン以外に相談できるの居ないじゃん!」

「でくの坊と朴念仁はともかく、女どもでいいじゃねぇか」

「徒手空拳それなりでも得意なのシャリーさんぐらいだし、しかも感覚派すぎて」

「あーわかったわかったもういい進めろ面倒くせぇクソッ」


 目の前に壁があれば殴りはじめそうなほどイラついているようだが、立ち上がってどこかに行こうともしないのは、レオンのヒトの良さだろうか。


「狐に勝てるだけ……で留まるつもりは無いけど、アイツを超える実力が欲しい」

「で?」

「回避能力と弾く……響く? 技能が足りないと思った」

「それが華蘭の武術にあるって?」

「そうらしい……んだけど、どんな感じだったか……」


 空中で拳を握ったり開いたりするアルマス。


「……んな割には、滑らかな動きだったと思うが」

「〝見れば形だけは出来る”し……いたっいたいっいってぇ!!?」


 数発殴られ、拳を肩に当てられたまま一瞬止まったと思えば、弾き飛ばされるかのように地面に倒れるアルマス。


「えぇっ!? なんで!? レオン発勁はっけいとか使えたのか!?」

「はっけい? ってなんだよ。知らんぞそんなもん」

「今俺を倒したやつ!」


 レオンはなんとなく意味が解らないながら、アルマスに丸太を出すように言う。アルマスは言われた通りに横倒しになった形の丸太を、樹草花の力で生み出した。


「これでいいのか? しかし何を……」

「コレ折れないのか?」


 レオンの意味不明な言葉に、自分が生み出した丸太を一度見て、もう一度レオンの方を見るアルマス。


「いやいやいや。コレは流石に無理だわ。縦か宙に固定されてりゃなんとかだけど、転がすぐらいしか出来ないって」


 木の板ならば出来たかもしれないが、目の前のものはレオンの肩幅があろうかという巨大な丸太である。それでも描剛掌やら狼牙掌を使って、〝宙に固定されていれば”横から破壊できるのだろう。

 だが地面に置かれただけの丸太では上から衝撃を与えるしかなく、その衝撃は地面へと流れてダメージが半減してしまう。


 と、アルマスは考えているのだが、当のレオンは眉をひそめて困惑したような顔である。


「ちょっと離れとけよ」


 バトルハンマーを呼び出したレオンに従い、アルマスは数歩後ろへ下がった。


「せーのっ!」


 レオンのハンマーが大上段から振り下ろされ、ガゴンと丸太の側面……上に来ている場所へぶつかる。


(ハンマーで横倒しの丸太は……えっ)


 これでは壊せないだろうと思いきや、一秒以下ながら間を置いて丸太がVの字に折れ曲がった。


「えええええぇぇっ!?」

「うるせぇな。出来るだろこれぐらい。オーバーリアクションやめろうざってぇ」

「いや驚くわ!!?」


 アルマスらしからぬ大声をあげ、ヴァルキュリア家の邸内からざわざわと音がし始める。


「打撃なら相手に衝撃を浸透させるのにインパクト伝えるのは基本だろ。剣士連中じゃあるめぇ」

「これは……その域を超えてるよ」


 茫然とした顔で左右に割れた丸太に近付き、アルマスは打面を撫でる。木材なのに石を叩いたときのように放射状の割れ目が走っており、その威力がみるだけで伝わるかのようだ。


「……レオン、お前が弱いって嘘だろ」

「だから嫌味かよ。まず俺の攻撃まったく当たらねぇし」


 仲間内の組手ではレオンは女性陣というよりもリリアが相手でもなかなか勝てずにいる。そのせいか卑屈になっているものの、敵を倒すことに場合には他の仲間とも遜色ない活躍を見せていた。


 レオンが勝てない理由は単純。マオウやリリアほど力が強くなく、アルマスやシャルロッテほど手数が多くなく、アリサの受け流す技術のように防御手段がいまいち乏しいため。

 攻防のバランスが取れているものの、決め手となりうる特徴にかけるというだけ。


 レオンの真骨頂は、物体の破壊において無類の強さを発揮する。


「レオン。頼みがある!」

「はぁ?」


 ミントタブレットを十個ほど口に含みながら、レオンはなんだよとアルマスを睨む。

 白狼の拳闘士は、ドワーフへと斜め百度の礼をした。


「俺に発勁を教えてくれ!!」


 精一杯の想いを込めた礼。

 萩風に勝つために必要な技術だが、独学で習得するには難しい技であると悟っていた。それを仲間の一人がとてつもないレベルで習得していたならば、僥倖と言うほかない。


「面倒くせぇからぜってぇ嫌だ」


 相手がレオンでなければだが。

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