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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
清水クニノ求血鬼譚
132/137

背水之陣・上

スランプ気味(何回なるねん)なので現在進行が遅れ気味です…すいません!

……

黄色い花はアクア・エリアスと言う名の

己の化身である天使を作り上げた。

天使は己を“水氷花”と言った。


「水氷花は水氷の象徴である。」

「水氷花は冷静という感情の象徴である。」

「水氷花は鎮静の青色の象徴である。」

「水氷花は生命の源たる海の象徴である。」


水氷の天使は地の者達にそう告げた。…


         創世記第二章より


********


「なんか既視感のある顔だが」


 レオンは若干思考に入り込みながら、目前の腐死者の頭部に躊躇なくバトルハンマーを振り下ろす。長い髭の湛えた毛むくじゃらの、背の低い男をした腐死者。いわゆるドワーフ族に酷似した姿をしているが、すぐにその顔面は粉々に吹っ飛んだ。


「誰だったかな」


 口では不思議そうに呟きつつも、脳内では特に思い出そうともしていないレオンである。面倒くさいということで、思い切りよく思考停止していた。


「ん……終わった……かしら?」


 ゼルレイシエルは銃眼から視線をあげて、屋根の上から周囲を見渡す。あたりに居るのは花の騎士の仲間、自身とレイラの護衛、そして萩風のみ。

 道路や瓦礫の上にはアリ塚と見紛う土の山が数百と連なり、あたかも“南西大陸ロゼッタ”の一風景のようにも見える。砂漠と荒野と草原のクニである南西大陸では、それはもうアリ達も幅を利かせているのだ。虫系種族と獣人種族の楽園である。


 それはさておき、ゼルレイシエルは弾かれたようにとある人物へと銃口を動かす。先にいたのは数本の尻尾を仲間へと向けていた萩風である。


「ん……やっぱ捕捉されるかよ」

「当たり前よ、怪しいったらありゃしない」

「……流石に銃器は分が悪いな」


 萩風は気怠そうに口元を歪めた。リロードすら必要のない神聖銀と花祝の狙撃銃である。『水銃アクアス』と『氷銃アイシス』の特性も把握している二十七夜ということもあり、下手な抵抗はせずにゆっくりと後ずさった。


「おい、一度話を聞け」

「なんだよ。解放するって約束だろ。まだ何かあんの?」


 乱れた船長帽を被り直しながら萩風は話をしようとして、耳を傾けたアリサ。の向こう側にいる者を睨んだ。


「あぁ。あるね。だがその前に、後ろの妖精のガキと古龍のガチムチ野郎がうるせぇ」

「……あー……」


 チラとアリサは背後の仲間達を見やる。飽きもせずやかましい喧嘩を始めているが、もう慣れたアリサは一度溜息をついただけで萩風に視線を戻した。


「つっても、別にあんたの苦情に付きあう道理も無いだろ。こっちは一度ならず殺されかけてんだ」

「はぁぁぁ……ああ言えばこう言うなぁ耳長ぁ」

「めぇが言うな」


 萩風は自身に銃口を向け続けているゼルレイシエルを一瞥しなたがら、目の前のアリサだけに聞こえるような小声で一つ、問いかけた。


「耳長、貴様は鼠肯定派か?」

「……その質問に何の意味が……」

「あぁ、うるさい。調べはついてんだよ。貴様も犬っころも鼠の存在を許容する者だってな。だから殺す」


 鼠。中央大陸大和でもって悪印象の極みに居る者達。

 士遷富山の統治者・鵺は恐怖や畏怖を抱かれても、嫌悪を覚えるのは鬼族ぐらいのもの。

 鼠、いや〝人鼠族”と〝鼠人族”は、大和に住むほとんどの種族に疎まれている。と言っても過言では無い。それは精神と心理的な嫌悪であり、身を守る為に起こる本能としての嫌悪とは異なる。


「鼠は嫌いだけど」

「口ではどうとでも方便はつける」

「ちっ……」


 アリサは小さく舌打ちをして、視線を逸らした。

 萩風とアリサが何やら会話をしていることに気付いたアルマスとミイネが、二人の下へと歩いてくる。その動きを察した萩風は、水行を発動させながら、まるで悪魔のように囁いた。

 

「鼠共を嫌え。奴は、奴らは邪悪だ」


 狐の言の葉は、ヒトの心をひどく揺さぶる。ある意味では己を騙し、異様なる力を引き出すとも言えるのが行法の使い手だ。

 鬼とは正反対に、内容によっては嘘を尊ぶことすらあるのが狐。己をも騙し切る詐術の達人の喋りには、嘘だと断じ切れない存在感があるのだ。


「神々は均衡を保っている。それを崩すのは、癪だが貴様らだ」

「一体何の話だ」

「じきにわかる。犬畜生にもようく、言っておけ。貴様らの為にもなるだろう。鼠を、恨め、殺せ、憎め」

「俺は、憎しみは持たない」


 アリサはかぶりを振る。かつて復讐に憑りつかれながら戦っていた自分のことを恥じていた。


 復讐心は野心の一種でもある。敵を害するため、という目標こそ悪ではあるが、その過程にある自らを高める行為は、野心・向上心から生ずる行為だ。

 野心は金鋼花きんこうか、ガロン・メタリカが司る感情であり、尊ばれてしかるべきもの。だが、やはり害意・敵意の含まれる復讐心という感情こころは、それを抱えていたアリサのこころを苛んでいた。


「〝いま”恨まなければ、憎しまざるをおえなくなるぞ」

「それは」


 意味深長気味に語る萩風にアリサは問いかけるも、帰ってくるのは他意に満ち満ちた笑顔。


「今から逃げる俺にとってお前の質問に答える義理はないな」

「おめぇ……」

木行もくぎょう


 萩風はゼルレイシエルとアリサの両方から死角になる物陰に姿を隠し、変身の術を使った。

 アリサが投てき物などでも警戒して刀を構えたものの、砂利や砂を踏む音が聞こえるだけで何かが飛んでくる気配もない。


「……貴様の仲間が心身ともに害されることになるぞ」

「は!?」


 突然真横から聞こえて来た言葉に、アリサは横一文字に刀を振るう。


「うおっ!?」

「ちょっべ……!」


 しかし振り抜いた先、斜め後ろ辺りにアルマスが迫っており、首元から頭一つ分程度を残した辺りでピタリと剣筋が止まった。一応普段の剣術として切断範囲に入っていなかったのだが、それでもアリサは多いに焦り、アルマスも冷や汗を流してビクッと体を震わせる。


「殺す気かアリサ!!」

「すまん!! 急に真横から声がしてさぁ!!」


 流石に驚き過ぎて尻もちをつきながら、青筋を立ててキレるアルマス。それに平謝りするアリサを、めちゃくちゃ怖い目でミイネが観察したりしている。というか搭載されている記録デバイス・(極秘)フォルダに動画保存していた。なお定期的に行われるアリサ同行のメンテナンスで、たまに見つかっては全削除の系に合っていたりする。(しかし物理的バックアップも当然あるのでイタチごっこで無意味だ)

 とはいえ頃合いを見て、ミイネも二人の会話の間に割って入った。基本的に忠実な性格なこともあり、誰かの擁護に回ったりすることも多いのだ。


「微かな音でしたので微妙に掠れておりますが……『貴様の……が……されること……』と、このように、あの狐の方の声が鳴っておりますね。それにサーモグラフではしっかり姿を捉えているであります」

「えっ!?」

「……そこです」


 おもむろに指先を銃口モードに変更し、虚空へと腕を向けるミイネ。情け容赦なくぶっ放し、その直前には「金行!!」と切羽詰った叫び声が虚空から響いた。

 ガキンという音とともに放たれた銃弾が空中で弾かれ、近くの土の山がバサッと派手に壊れる。


「撃ち殺しますか?」

「……ロボット三原則プログラム、オンにした方が良いかもわからんね……とりあえずやめてさしあげて」


 恐怖すら覚えるほど躊躇の無い射撃に、もはや萩風に対してすまないという気持ちになるアリサ。崩れた砂の山のあたりから、全力の狐の威嚇声が発生している。行動規制プログラムをオンにすると言われて微妙にミイネが悲しそうな表情をしているが、彼女の為でもある。


「……それはそれとして、何を言われたんだ?」

「ん? いやー……何言ってるかはわかんなかったなー」

「ほんとか……?」

「ほんとほんと。信じてくださいおねぎゃーします」

「……もういいわ……」


 アリサがギャグを言い始めたため、アルマスは折れてその場にうずくまる。戦闘の疲れもあってかすぐに立ち上がれないようで、体育座りで膝に頭を埋めていた。


(すまん。でも、害されるってのはアイツらが直接来る可能性もあると考えると……うかつには言えないよなぁ……)


 刀を鞘に仕舞いながら、状況を再確認して、ゾクッと背筋に寒いものが走る。


(最後、姿を消した後、一切足音はおろか気配を感じ取れなかった。もし、アイツが姿を消して襲ってきたなら……)


 最悪の状況を想像し、アリサは顔をしかめた。考えるべきではないと思いつつも、個人的な衝撃が大きすぎ、歯を食いしばるばかりである。


「……奇妙な発汗現象を確認。大丈夫ですか?」

「うん? ……そうだ、なぁ……大丈夫に、してみせるさ」


 声をかけられて我に返ったアリサは、首を傾げるミイネを横目にしながら、無理に心を静めて決心したのであった。刀を握り絞めながら。

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