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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
清水クニノ求血鬼譚
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尽忠報狐・下

投稿時間が遅い

 どかんどかんと地面に何かがぶつかって弾ける様な音がいたるところで鳴り響く。


レオンが反時計回りに体を回転させ、右手に持ったハンマーを思い切り振る。


「ぱっ」


 銀色の弧を描くバトルハンマーは、今にも咬みつかんとしていた土人形を易々と吹っ飛ばす。石というよりも、ギチギチに固められた土というような硬さである。石を叩けば堅くて多少手が痺れるが、粒子の密集体にすぎない土塊であれば打撃は特に効率的にダメージを与えられるというもの。

 蜥蜴の形をした頭部が打撃によって木端微塵になると、腐った肉のような見た目の肉体がボロボロと崩れ始め、地面に土の山が出来上がった。


「うぼあ」

「ぎゃあっ! きもっ!!」

「ごあばっ!」


 目の前に迫ってきた、片目の玉が抜け落ちている犬の顔。恐怖と気持ち悪さを覚えたレイラは、やたらめったら神聖銀きんぞく製の箒を振り回して撲殺……もとい、頭を粉砕した。


「臭いとかは土そのものだからまだいいが……」


 腐死者の単調気味な攻撃を掻い潜り、軽めのジャブを胴体にぶち込むアルマス。植物を植え付ける樹草花のわざは土人形には非常に相性が良いらしく、機壊達に使った時よりも四、五倍程度は成長が早いようにも見える。


(主根系よりひげ根系のほうが効率良いかな……)


 アルマスはそんな戦闘向きの思考を巡らせながら、多少手がめり込む程度のジャブを別の腐死者、またまた別の腐死者へと標的を変えて沈めていく。

 全身に根っこが張りめぐらされ、動きが緩慢になった腐死者達をマオウの怪腕が襲う。ハルバードの斧の部分ではなく、その裏側についているかぎの部分で側頭部を抉るのだ。まとめて三体の頭を回収し、何かの三兄弟のような形にさせたのち、ボロボロと崩れ落ちる。

 

「ヒトの姿をしてるのがやだなぁ……」


 軽々と振り回している大剣の腹で真横の敵を強引に叩き潰す。近づいてくるうめき声を察知して、「双剣」と小声で呟きながら目の前へ切り上げ。得物を瞬間的に持ち替える事が出来る神聖銀の特徴を、存分に活かした戦い方でリリアは腐死者の首を斬り飛ばす。


「“やりいたち”ィ!」


 横薙ぎのランスから半透明の刃が飛ぶ。四体の腐死者の体を上半身と下半身に分けると、地面にどちゃりと墜ちた。


「ウシャシャシャ!」

「なんじゃこりゃー!!」

「頭を破壊しないと延々と動くって何度も言ってるでしょう!」


 脚だけでその場でバタバタと動き回る下半身と、腕を交互に動かして近づいてくる上半身。その様は“てけてけ”などとも呼ばれる都市伝説の存在とも酷似している。

 あながちこんな腐死者がてけてけの正体なのかもしれない。とゼルレイシエルは思ったり。


 驚くシャルロッテの後方、マオウに投げて登らせてもらった屋根の上から体を覗かせるゼルレイシエル。上半身だけの腐死者に、一直線に放たれた水の弾丸が脳天を直撃する。


「さんきゅっきゅ!」

「……それよりも前!」


 足元に迫る敵へと視線を向け直し、サクッと頭頂部にランスを突き刺すシャルロッテであった。


 花の騎士達から少し離れた場所で、刃付き触手の姿に尾を変身させた萩風が複数の腐死者と相対している。体と尻尾を弓引くように仰け反らせ、尾の射程範囲に最も多くの敵が入ってくるのを待つ。


火行かぎょう水行すいぎょう土行どぎょう……“篠突しのつく天気雨”」


 獣族拳法における狐系種族特有の技。それも奥義の一にも数えられる、絶技とも言える領域の、一瞬の内に放たれる連続突き。

 攻撃・柔軟・硬化・変化・回復という五行の能力を同時に発動させ、瞬く間に百にも近い刺突を前方範囲へ繰り出す。速度を重視するために攻撃精度は犠牲となるものの、前方七メートル程度の範囲内に居たすべての腐死者達は、うめき声をあげる間もなく細切れになって四散した。


「ひゅーッ!」

「なんだその技!?」

「けっ」

「ご主人様達の方が凄いですし」


 無数の腐死者達が押し寄せるなかで、クソ呑気な会話をしている花の騎士達である。口笛を吹くリリアに、驚愕の声をあげるアリサに、悪態をつくアルマスと、なんか張り合っているミイネ。なんともはや騒がしいが、萩風は


「はん! 貴様らとは出来が違うんだよ紛い物共!」

「クソうぜぇ」

「腐死者に一発ボコられろ!」

「尻尾千切れろ!」

「ファッキンエキノコックス」

「お前ら言いすぎ!!」

「やっぱゴミだわこれ終わったら絶殺ぜっころ


 花の騎士達のノリに乗せられて喧嘩をし始めたりしていた。というか萩風が嫌悪丸出しで花の騎士を煽ったところで、数の暴力でボコボコに返りうちにあったという感じだが。一年以上の旅を経てかなりの仲間意識と団結力が付いてきている花の騎士達である。

 どちらかと言えば敵だが、敵の敵は味方ということで協力している。というのが現在の彼らの状況であって、一歩間違えれば戦争開始の分水嶺状態である。


「つかだんだん増えて来てない? パンデミックかよ?」


 萩風に口撃を与えている仲間たちを叱ったアリサは、腐死者の首を切り飛ばしながらため息をつく。いつの間にか無尽蔵とも思える腐死者達の大群がおり、まるで機壊達を相手にしているような物量攻撃である。

 瞬間的に納刀し、小声でわざの名を呟きつつの抜刀術。周囲の建物を壊さないよう、道路の直線に向かって、眩く光る斬撃が舞う。


「ずっる。いいなー私も欲しいんだけど範囲攻撃……」


 少年的中厨二心があるわけでもないが、一薙ぎで敵を薙ぎ倒す技はリリアとしても欲しいところであった。


「俺なんか近接攻撃と拘束業しかねぇが……お前球体を投げる業持ってるだろ」

「あれ下手すると肩痛めるんだなぁ! 野球選手じゃないからそんな早くないし!!」

「ぶふっ!?」


 両手に小型のハンマーを持った状態で、リズミカルに腐死者の頭を殴っているレオンのツッコミ。半ばヤケクソじみたキレ気味なリリアの返事に、カッコよくキメたところだったアリサが吹き出す。


「ペース配分気をつけてよ! さっきも言ったけどパターンDなら数だけは数百体ぐらい居るから!」

「ずいぶん多いナ!?」


 レイラが爆発系の魔法を腐死者達の群れへ投射しながら、素っ頓狂な声を上げる。ゼルレイシエルと萩風が(聞いてなかったのか…?)と、微妙にイラつきつつも、持ち前の寛容さで再び説明を行う。


「そのぶん手応えは土そのものでしょ! 普通はヒトみたいな手応えなのよ腐死者って!」

「ヒトを斬るのとか慣れてないし、有り難い」

「それ慣れちゃダメなヤツではないでしょうか?」


 ヒトならざるミイネにツッコミを入れられたエルフサムライである。機械目線でも倫理的にヤバイと思われたようだ。


「つまり数は多いけどHPは低いと」

「そう、ね?」

「まぁ知ってましたが。なんばーふぉーうぉーるの先の人達にもわかりやすくしないとね?」

「……時々貴女が何を言ってるのか解らなくなるわ…」


 不思議ちゃんみたいなことを言い出すレイラを横目に、マオウがジワリと範囲技を発動させる。黒い煙が湧き出し、腐死者の足元を覆う。


「うん…? って、ちょっおいマオウ!!」

「ほぇ?」

「退避! 退避ー!!」


 その業を見た事があるアルマスは、自分の足元が黒い煙で覆われたのを見て途端に真っ青な顔になる。叫んで逃げることを促し、ミイネとレイラの護衛が後方へ下がった。

 流石の諜報組織も幽霊ファントム掃討戦で使ったきりの業は把握してないらしく、微妙な顔こそしていたが、アルマスの反応で微妙に範囲に入っていた部分からちょっと離れる。


「『冥々たるクレマチス』」


 煙の中から無数の棘が飛び出す。強腐食性の液体が無数の腐死者達の脚を貫き、腐食させ。下半身からミキサーにでもかけられているかのように溶けていく。


「ぐ、ァァァァァ!!!」

「びぁぁぁぁぁぁぁ」

「底なし沼ってか…いやグロいわ!!」

「いって、んだテメェ? アルマス!!」


アルマスが木の枝を生成して、不敵な笑みを浮かべているマオウの後頭部へ投げつける。


「急に味方も巻き込むような業使うなよ!!」

「ムカつくが全面的に白ポチカスに同意。死晒すぞ古龍がコラ……?」

「やってみろ毛玉野郎。テメェみたいな三下にやられるほど古龍種は下等な存在じゃねぇぞ」


 周囲の腐死者の全滅を確認すると、業を解除しながらマオウは威勢良く笑った。


「あれは腐食反応です。マオウ様は無事ですか? 脚に腐食液は付着していたりしませんか?」


 マオウのすぐそばにミイネが心配顔で駆け寄った。

 想像や演繹を行う機能が制限されている為か、超常の権能を起こす花祝の力を新たに見るたびに、心配そうな顔をしたりするのだ。


「や、やめろ! 近づくんじゃねぇ!」

「足の確認をするだけですのでお気になさらず」


 いつも超然とした態度のマオウが、意外にもタジタジと後退るような動作なんかをする。マオウの自分勝手さに呆れていた花の騎士達だが、相変わらずミイネが苦手な様子に再度呆れていた。


「別にミイネ悪いことしてないのになぁ…」

「アイツの機械オンチはベクトルが意味不だ…」


 レオンあたりはあくびまでしながら傍観をキメている。


「……」


 レイラの護衛の一人が一瞬だけ銃眼から目を離して、なんともマイペースな九人と一人を見つめる。


「こんなので……大丈夫……なのか?」

「んー?」


 小さな声であったが、近くにいたレイラには当たり前のように聞こえた。

 首をかしげるように護衛を見やったため、護衛の男は慌てて小さく謝る。


「自覚してるけど。私達は、英雄ってイメージのヒトじゃないと思うよ?」


 奇妙とも感じられるレイラの発言に、謝った護衛以外の数人も、わずかに引き金を引く指を脱力させる。


「自覚…とは?」

「うーん、というか」


 レイラの脳裏に浮かぶのは、現在いま、自分と対話をした事がある英雄達の姿。

 祖父、酒呑童子、茨木童子、騎士王、角王、千翼空帝。

 人間ではないが、どこか“人間臭い”者達。


「英雄だからこそ、どこまでも“ヒト”なんじゃないかと」


 レイラの抽象的な言葉に、護衛達は首を捻りながら銃眼に視線を戻した。

 伝承に伝わる英雄は、釈然としない様子を見せる。


「うーん……やっぱいまいち伝わらないんだよなぁ……」

「レイラ! 11時の方向! 数十規模の群れ!」

「はいはいわかりましたよー」


 魔法の詠唱をするレイラに頷き、ゼルレイシエルは眼下の腐死者を睨む。


「冒涜。やっぱり……相対したくもない」


 珍しくも吐き捨てるような言葉を呟いて、ゼルレイシエルは“古い様式の和服を着た”腐死者の頭を撃ち抜いた。

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