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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
清水クニノ求血鬼譚
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尽忠報狐・中

「発生源は」

「現在調査中です! 通報では北北西からの目撃情報が多い模様!」


 会議室につくとそこでは手慣れた様な問答が繰り広げられていた。パソコン越しのカメラ通話で繋がっているのは、十数個はあろうかという数の机に固定電話、そして同じ数だけ電話に出続けるヒトビト。


「討伐部隊は」

「北部警備隊が一部交戦中。現時点の被害は軽微……むっ」

「どうした」

「現段階の情報を統合するとパターンD事態の可能性があります」

「そうか。備品管理委員会に伝達。予備壁材の解放、備蓄弾薬を三千発解放」

「了解しました」

「パターンDが確定ではなく、さらに今回は外部戦力がある。危険物は制限するように」

「かしこまりました」


 リュクロイはカメラ通話越しに早口で喋っている。リュクロイの隣に居る人物が手元のもう一つのパソコンに集まった情報を見ながら、彼の問いに的確に返答していた。それを元に電話の向こうへ指示を出し、町内の各方面への命令を送信させている。


「しれぇかんだしれぇかん」

「…………ん? 私のことか?」

「レイラ」


 レイラの呟きに困惑するリュクロイを横目に、アルマスがどこからともなくハリセンを取り出して、小気味良い音を鳴らしながらレイラの後頭部を叩く。突然の衝撃に思わず顔をしかめて俯くものの、悶絶……という程には痛そうではない。

 というか顔の色を見る限り酔っぱらった状態で連れてこられたらしく、発言が頓珍漢なのも仕方がないだろう。


「いたい」

「そんな事をしている場合ではないぞ」

「申し訳ございませんでした」


 厳しめな口調のリュクロイの言葉に、居住まいを正すレイラ。それを見てか花の騎士全員の顔が完全に真面目な表情へ切り替わり、彼と使用人たちの会話によく意識を傾けるようになった。

 その前から話を横で聞いていたアルマスは、訝しげな視線を向けながら質問を一つ。


「外部戦力っていうのは……俺達ですか」

「取り繕っても仕方がない。その通りだ」

「あんた……」


すました顔で弁明もせずにぶっちゃけるリュクロイに、アルマスは一周回って呆れたような表情にすらなる。


「俺の記憶が正しけりゃ、貴様戦うのをやめろだとか言ってなかったか、あぁん?」

乙五おつご区域にも避難指示を。……一貫して君の指摘している通りの想いだ。しかし今は雀の爪でも借りたいような事態なのだ。なりふり構っておれん」


 合間合間に指示出しを継続しながら、マオウの煽りを受け流すリュクロイ。そんな彼の横でリリアが怪訝な顔をしながらボソッと一言。


「すずめのつめ……? 猫の手でなく……?」

「戦力が足りないということだ。それぐらい察するか適当に流したまえ」


 適当に出した例えで思わぬ横槍にあい、どことなく顔を赤くしながらこほんと一度咳をするリュクロイである。リリアの側頭部に面倒くさいことをするなと、レオンの無言のデコピンが吸い込まれた。


「父上、突発が起きたようですが」

 

 ドアを開けて駆け足気味に駆け込んでくるゼルレイシエル。背後には妙な方向に体を向けながら続いて入室しているアリサが居り、ドアが開いた瞬間にピクッとアルマスの拳が動いた。


「ゼルシエ。突発の説明を花の騎士たちに頼む。行く先は情報を整理したのち追って連絡する」

「は、はい…… あれ?」


 命令に従い仲間のほうへ顔を向けかけたところで、言葉に引っ掛かりを覚えて再度父親へと視線を戻す。二、三秒の間を置いてゼルレイシエルはおずおずと父親の心を窺う。 


「それって……私も行っていいの……?」

「即応出来るのはゼルシエ……(きみ)たちだけだ」


 不服であるのは変わらないようで、非常に嫌そうにしているが。私的な思いは押し殺して話をしている。


「念のために、ゼルシエと……そうだな。レイラくん」

「はい? わたひ?」


 突然自分の名前を呼ばれ、目を白黒させながら自分自身を指さすレイラ。


「あぁ。二人とも距離を取って戦うのだろう? 気休めかもしれないが護衛をつけよう」

「わたしは近いか中距ひのほうがとくいらけど……まぁいっかぁ」


 呂律がいまいち回っていないレイラを見て、娘を一瞥。視線をもう一度レイラに戻したものの、見事な二度見で娘に心配そうな顔を向けた。


「……この子は本当に戦えるのか?」

「どうで、しょう……その……駄目そうだったら眠らせてあげてください……」


 とろんとした目のにやけ顔であっけらかんと語るレイラに対し、ヴァルキュリア親子は困惑の表情を隠せずにいる。

 再度咳をして「まぁそれはそれとして」と、リュクロイは間を置く。


「客人に怪我などさせたくないが……おそらく接敵して戦うような者には護衛は逆に邪魔ではないか?」

「邪魔!」「ぶっ飛ばして良いなら前に来ても良いぞ」

「シャリーとマオウは少しだまっといて。状況は上手く飲み込めねぇけんども……そうですね」


 戦闘狂ズを咎めつつアリサが頷く。開きっぱなしの扉にもたれ、どこからともなく出した刀を腰に提げた状態である。


「君達に対処を頼むことになって心苦しいが……撃破数分の報酬に謝礼も乗せて金は支払おう」

「謝礼!?」


 目ざとく反応するリリアが金庫番だと知っているリュクロイは、元の指示作業へと意識を戻す。自信が伝えるべきことはもう終わったのだろう。娘のゼルレイシエルは目ざとく変化を悟り、状況の説明へと移る。


「今何が起きているのか」


 しかして花の騎士達も多くの場数を踏み、様々な状況に対応してきたのだ。シャルロッテですら“突発”という言葉について、その意味をなんとなくも理解していた。


「“急な腐死者ゾンビの大量発生?”」

「その通り」


 シャルロッテの呟きにゼルレイシエルは指パッチンののち、指をさしながら肯定の意を示した。


 花の騎士達がゼルレイシエルの説明に耳を傾けている陰で、狐の尾が一瞬だけ扉からゆらりと姿を見せた。


 ◆◇◆◇


 町の中を土人形が徘徊している。それも数体どころの話ではなく、数十体数百体にも及ぶ。


「ヴぁあぁぅぁ」

「あぁぁ……」


 しわがれた様な渇ききった声がそこかしこから聞こえる。言葉ではなく、どれもうめき声で何かしらの意味を持っている様には感じられない。


 幽霊ファントムは悪意や敵意を感じられるような魂であった。霊魂というものそのものであり、全ての行動も何かしらの意味合いを持っているように見える。


「ぐゃぶっ!」

「ぼぇっ!」


 ゼルレイシエルはバスに取り付けられた天窓から身を乗り出し、神聖銀ミスティリシス製の機銃を連射していた。火薬を使う実弾とは異なり、水や氷を撃ちだすだけの花祝による銃は反動が少ない。

 水の属性であるため風によって目がすぐに乾いてしまう。などということもなく、景気よくぶっ放しては人型の土人形を蜂の巣状態にしている。


「なんかちょっと楽しいかも!」

「トリガーハッピーみたいな発言やめい!」


 傍から聞くとヤバいヒトにしか思えないゼルレイシエルの台詞に、思わず足元に立っていた彼氏がツッコミを入れた。


「心の準備できてないんですけど」

「久々のぶっこわっしゃー!!」

「ステイ。バスの中で武器を出すんじゃあない」


 窓の外を見ないように俯いているリリアの前の席では、シャルロッテがランスを出現させて座席の背もたれをぼふんぼふんと叩いている。埃が舞うのが嫌なレオンは鉄を手から出し、ランスに吸着させて重さで動けなくさせた。


「あー!」

「うるせぇ着いたら消してやる黙れチビ」

「今すぐ消せ!!」


 甲高い声で叫ぶシャルロッテの、真ん中通路を挟んだ左の座席で、レイラがぐったりとしている。


「おえ……シャリー姉甲高い声やめて……」


 酔いはなんとなく冷めてきたが気持ち悪くなっていた。なんとなく頭痛もあり、シャルロッテの叫び声にマオウと萩風と同様に顔をしかめている。


「グルルルル……」


 最後列に座るアルマスはヴァルキュリア邸で解放された萩風と再会してからずっと唸っており、ミイネ以外の仲間からは面倒くさいと三席以上の距離を取られていた。


「ゼルシエお姉様私も一緒に」

「良いから温存しとけ」


 RICORA3170_Prtotypeことミイネは相変わらずである。


「皆様、そろそろ限界です! 下車の準備を!」


 バスの運転手の声が響き、レオンは溜息をつきながらランスにくっついた金属を回収する。徐々にスピードの遅くなっていくバスの昇降口にはアリサを先頭として全員が出る準備をしていた。


「大丈夫ですか! 私達はすぐに退避しますが……」

「大丈夫大丈夫。捕まったら終わりなんてクソゲー散々っぱらやりましたし」


 かつてマオウと殴り合いをしたアルマスが飄々と答えた。銃撃音が激しくなるなかバスが停車。

 そして昇降口の折り畳み式ドアがゆっくりと開いた。

故郷から舞台が全然動いてないやんね…

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