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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
清水クニノ求血鬼譚
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同族嫌悪・下

 しだれ櫛町までは距離があるため、船は途中にあるとある小さな街を訪れた。


 ゼルレイシエルはミイネとアリサを伴って街の外壁部へ来ている。アリサはなかばボディーガードのようなもので、必要なのはゼルレイシエルとミイネの二人。要するに銃の使える二人(一人と一体)だ。


「うわぁ居るなぁ」

「ミイネ、三二一のタイミングで一番近くのをお願い」

「了解いたしました」


 一定間隔で見張り台のある、街を取り囲むように配置された高さ五メートルほどの外壁。周囲はシンと静まり返っており、三人は声を潜めて会話をしていた。

 外壁から二十メートル程度の場所には建築物が無く、街灯すらない所で、夜目の効く三人はいとも普通に準備を行っている。


「結構いる?」

「ひふみよ……視認できる範囲で七」


 ゼルレイシエルが見張り台の梯子を上り、神聖銀製のライフルを見張り台の上で設置する。


「スコープ要らないのか?」

「すぐ近くだから。逆に見えなくなるわ」

「灯台下暗しみたいなもんか」


 そう言いながら外壁の外側で、二番目に近くにいた腐死者の頭部に照準を合わせるゼルレイシエル。

 見張り台の下では、銃眼からミイネが人差し指の先を最も近い腐死者に向け。


「「三、二、一」」


 零のタイミングに合わせて同時に発砲。二体の腐死者の頭部を金属の弾丸と水の弾丸が貫通し、次の瞬間二体の腐死者の体が形を失う。粒子状の物質へと姿を変え、立っていた足元に小山のように積もる。


「次」


 ミイネは左側の敵に照準、と言うより指を向け、ゼルレイシエルは右側に見える敵に照準を向けた。ミイネの指から発せられる音は小さく、ゼルレイシエルの銃から発せられる音は引き金が引かれる音程度。

 腐死者の間引き、という観点から見ればうってつけの装備であった。


 七体と、木の影に隠れていた一体を倒し、アリサとゼルレイシエルは順に梯子を降りる。

 梯子の下は土だがガチガチに固められており、下手に飛び降りれば足にびりびりと痛みが走るであろうことから二人は梯子で律儀に下まで降りた。


「思い出した?」

「そうね……まぁ数を倒した方がお金も貰えるから、もう少し周りましょう」

「一体七百ルクぐらいだっけ? ……安くね?」

「あら。でも十体で七千ルク。ニ十体で一万四千ルクよ? 銃弾は自腹とは言っても【流厳なる湖沼河(ここ)】だと一発百円もしないし。都会なんかだとこれで食べてる人も居るわ」

「マジか……」


 黒花獣を倒して生活するというビジネスに衝撃を受けていたアリサであったが、それで生活をしているという話にもう一度衝撃を受ける。

 大和の食事情を支える有数の米どころである【流厳なる湖沼河】。この地方で腐死者が猛威を振るえば大陸全土で深刻な食糧難が起こるため、黒花獣を狩る者達が優遇されるのは仕方ないわけだが。

 そもそも黒花獣を倒して賞金が出るのはここと【海陸の横断原】だけである。二地域は中央大陸の農業と商取引の重要地であり、少数よりも多数を活かすことを考えれば、金というモノはそちらに収束されてしかりであろう。


「良い銃の為に初期費用も高いし、銃ならライセンス取得も必要だから。相当腕が良い人だけね」


「銃自体は高級品だし、組織所有や何世代かで使うことも多いらしいわ」とゼルレイシエルが説明を加える。

 アリサはなんとなく頷き、腕のメンテナンスをしているミイネを横目に世間話を続ける


「ゼルシエは?」

「何が? 食べていけるのかって?」

「うん」

「自慢じゃないけど余裕よ。これでも旅に出る前は、しぐれ櫛町じゃ月間スコア一番高かったんだから」


 普通に自慢だが、微笑みながら語るゼルレイシエルにアリサは小さく拍手をした。


「すげぇんだなぁ。傍から見てもいまいちわかんないからさ」

「銃に関しては仕方がないわね。やってみないとわからないものだし」

「銃かぁカッコいいよなぁ」

「一から十まで練習させてからじゃないと撃たせないわよ。危ない物なんだから」

「知ってるって。それいったら刀もだよ」


 それぞれの得物を窮めているからこそ簡単には素人に持たせない二人。どちらもヒトの命を簡単に奪うことができ、暴発や取り落すことがあれば自分が怪我をするのだ。一行の年長組として生活し、責任感が育ってきている二人は本当に簡単には触らせないのだろう。


 ところでミイネが腕のメンテナンスを終え、二人の様子を観察していた。


「アリサ様、ゼルシエお姉様の“ヒモ”になるのですか?」

「ぶっ!!」「ひも?」


 アリサがミイネの言葉を聞いて吹き出し、ゼルレイシエルは不思議そうな顔をする。


「む。最近ではあまり使われない表現のようですね。学習いたしました」


 咳き込むアリサの背中をさすりながら、何のことかとキョトン顔を浮かべるゼルレイシエルに対しミイネは不思議そうな顔を浮かべた。


「お二人はご結婚などをなさるのではないのですか?」

「!!?」「えぇっ!?」

「よく手などを繋いでらっしゃいますし、魔法学園で接吻をなさっていたと思いますが」

「気付いてたのか!?」「な、ななな」

「? 即座に暗視モードに切り替えたところ、偶然記録に収めた次第です。あとでご覧になられますか? 男女間での接吻は特別な意味があると、とある女性の研究員の方に教えていただきました」


 ミイネに交際関係がバレていたことに、衝撃のあまり二人は石にでもなったかのように固くなる。

挿絵(By みてみん)

 とはいえまずミイネにバレないと思うこと自体がおかしいが。


 ミイネ。正式名RICORA3170_prtotype。

 彼女は「ドワーフ等の鍛冶を得意とする種族の技術」、「ミスリルなどの希少物質」、それにおおよそ百年前のものではあるが「人間の最先端技術」を使用した末に生まれた“大和で唯一無二の機械人形オートマタン”である。

 実質的に鎖国された状態にある“西大陸華蘭(ファラン)”などでは、絶対に作られないであろう存在。

 いやそれ以前に、ミスリル等の輸出が全大陸で禁止され厳しく取り締まられている現在では、実質的に彼女こそが今でも最新の機械人形であった。


 戦闘もこなせば、日常生活における行動を、むしろヒトよりも優れた性能で動作する事が出来る。

 暗視状態への即座の移行など、彼女にとってはいともたやすい動作だ。


「ちょ……わ、その……私達は……」

「体温の急上昇を確認。大丈夫ですか?」

「くっそ、動揺してるときに限って……ロボットキャラの、テンプレートみたいな、台詞……いいやがって……」


 あまりの動揺で心臓がバクバクと大きな音を立て、胸を押さえながらミイネに恨み言を呟くアリサ。普段から機械らしからぬ言い回しばかりしていると言うのに、ヒトの精神にダメージを与えた時に機械っぽい台詞を吐くのだ。笑いどころのツボが謎なアリサは、恨み言を呟きつつも、なんとなく笑っているような音が混じっていたりする。野郎、そういうところで頼りないとレオンやらマオウに罵られるのだ。


「結婚なさらないのですか? そういえば不純なる接吻もあるなどと……」

「ちげぇよ!! 普通に健全な付き合いだよ!!」

「そんなのどこで聞いたの!?」

「リリア姉様の読んでらっしゃいました本にそのような記述が」

「あの恋愛脳っ~……!!」


 リリアからすれば完全にとばっちりなのだが、もはや涙目になっているゼルレイシエルは、非力な腕でぷるぷると握りこぶしを握った。水色の髪に赤い顔が映える……などと口に出せば殴られるだろうと思い、ミイネは密かに画像保存用カメラのシャッターを切る。


「こほん……その、ミイネ? 私達の関係については「腐死者接近! 大声で気付かれたようです」えぇ……!?」

「ゼルシエお姉様、早く倒しましょう。このベニャ板のような薄い壁ではすぐに突破されてしまうかと思われます」

「う、うぅ……!!」

「ぜ、ゼルシエ……気持ちはわかるが先にそっちだと思う……ミイネには俺が言っとくから!」


 恥ずかしさのあまり涙目になったゼルレイシエルはミイネに当たることも出来ず、握りこぶしをしばらく右往左往させたのち、


「いたっいたっ!」


 アリサの頭をぽかぽかと四発ほど殴って、行き場の無いフラストレーションを発散させた。悪いとは思いつつも、そうでもしないと集中出来なそうであったため。


「もう終わったらまた話だからね!」

「? 了解いたしました」


 相変わらず淡々と答えるミイネをと、殴られた頭をさするアリサを横目にしながらゼルレイシセルは見張り台の梯子に脚を懸けた。

要望があればミイネさん主役の小話とか書いてもいいかもしれない(そんなものはない(腹パン

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