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双神八天と九花(ここのか)の騎士  作者: 亜桜蝶々
清水クニノ求血鬼譚
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一宿一飯・上

叙事詩というか冒頭の童話の続きはいずれあげます。

あるところにそれはそれはあたまがよく、とてもつよい王さまがいました。

王さまのおさめる国はみんながしあわせで、いつもニコニコえがおでした。


王さまの国にはとてもおおきな木が生えています。

みんなはその木がだいすきで、一年にいちどみんなで集まってパーティをするんです。


でもその木にはいじわるな白いヘビくんが住んでいました。

みんながだいすきな、おおきな木をひとりじめしようとするのです。


「ここはぼくのおうちだぞ! みんながくるのはぜったいにゆるさない!」


ぷんぷんおこってへびさんはみんなをいじめます。

へびさんはとってもちからがつよくて、けんかをするといつもかちます。


だいすきな木であそべないみんなは、えんえんと泣いて王さまに聞きました。


「木であそびたいのに、へびくんがいじめるんです」


王さまはいいことを思いつきました。


「明日はぼくたちだけでピクニックをしよう。へびくんはいじわるだからまぜない!」

…………



     ~~児童書『王さまと白いヘビくん』より一部~~


 ********


「明るいうちに今日の宿探しとかねぇと野宿だぞ」

「なんでよ」


マオウがさも当然のように語った話に、アルマスが何気なく理由を聞く。ご飯を食べた後のぼうとした頭で、特に理由を考えるもなく語っただけだが、マオウはとんでもない表情でアルマスを見やっていた。


「馬鹿か。港周辺の宿なんかどんだけ高いと思ってやがる」

「それが何でだよ」


アルマスの故郷は鬱蒼とした森である。カプセルや携帯端末などの便利道具は普及しているが、それも船や自動車と言った大型のものとなるとまず見られない。これは【永夜の山麓】地方にも言え、故にそれら森林に囲まれた土地である【訪神の荒野】地方や【星屑の降る丘】地方では、いまだ馬などの騎乗生物が移動手段として一般化しているのだ。

 結局のところ大和において自動車が普及しているのは、中心都市である【京】や、商人と交易の土地である【海陸の横断原】地方。さらに工業の土地である【灼熱台地】地方と、隣にある【最果ての楽園】地方の一部地域でのみにとどまる。機関車及び列車も、同様の地域でのみで運行しているだけ。


 中央大陸の一般的な交通手段は、百年前から今も変わらず徒歩なのだ。

 そのことを踏まえればそうだな。と、マオウは自身の後頭部をがりがりと掻いた。


「この地域の主要交通機関は船舶。なら中継地点の港ほど重要視されるもんはねぇだろ」

「……そうなのか?」

「そうに決まってんだろ。なんだテメェ、近くに快適な街があんのに、わざわざ外でテント貼るのが好きなのかよ」

「あぁーわかりやすいな。いや俺はテントも好きだけどさ」


 握りこぶしでアルマスの側頭部に右手を添え、左に薙ぐような形で転ばせようとするマオウ。が、倒されつつもマオウの腕をがっしりと掴んでいた為、斜め四十五度ほどでキープした状態になり、追撃が入る前にアルマスは後方に跳び退った。


「何遊んでるのよ……」

「アルマスっち殴るの? 私もやる!」

「やめて」

「シャリー姉様ステイです」


 呆れるゼルレイシエルの横で腕をぐるんぐるんと回すシャルロッテ。ゼルレイシエルの静止の声に従って、すぐさまミイネがシャルロッテの背後に現れ羽交い絞めにするが。


「離せい~!!」

「シャリー姉様。ここ街中です」

「どうでもいい!」

「どうでもよくなくないですから静かにしてください!!」


 気を取り直したゼルレイシエルが周囲を見渡すと、騒ぎに気が付いたあたりのヒトビトが奇妙な一団を遠巻きに観察していた。まぁ怪しかろう。異様な髪色の女性達と、大人から少年少女のような者まで居るのだ。しかしながらヒトの行き来の激しい港町。すぐに行き交うヒトの興味は薄れ、どこかへと去っていく。


「い、居心地悪いなぁ……」

「都会なんざそんなもんだぜ。エキドナが鬼らの影響で無駄に馴れ馴れしいなだけだ」

「そうか?」

「つか歴史の長い土地ほどいろいろ面倒なもんだぜ?」


 轟々と流れる濁流のように、右へ左へ規則性なく流れていくヒトの群れ。

 その様子を後頭部で両腕を組みながら冷めた目で睨んでいたマオウは、歴史に詳しいゼルレイシエルに「なぁ?」と聞いた。


「……そうね。歴史は、未来を正しい道へと繋いでいくけれど。それと同時に、どうしようもないしがらみを作り出しもする……」


 狼と狐。鼠と猫。

 かのような種族的な確執だけでなく、紡がれた歴史によって生まれた悪習とでも言うべき愚かしい差別。

 歴史を好んで学び、その人間模様を知って。世の中は単純に、“善く”、は出来ていないのだと。ゼルレイシエルは知っていた。


 ☆


 花の騎士たちは加賀峰市の街道を歩く。

 休み休みだが二時間ほど歩くと人通りもまばらになり、道沿いの建物にも一般住宅が連立するようになってきた。おそらかなくとも住宅街である。とりあえずこのあたりで宿を探そうと、マオウに降ろされたアリサが検索始めた。


「あー……っだりぃ……」

「お疲れ様マオウ。ごめんなさいね。二人を背負えるがアルマスとあなただけで……」

「コンビニで買ったスポーツ飲料水あんだろ。寄越せ」

「えっと、はいこれ」


 レイラがバックから半透明の液体の入ったボトルを取り出して渡すと、マオウはフタを開け半分程度を飲む。


「お。ここ良いんじゃね? “狐葉亭こようてい”だってさ」

「却下。絶対ボロ屋だぞ」

「アルマスうるさい」


 店の口コミサイトで店名をチラ見した瞬間、ディスリ始めるアルマスをゼルレイシエルが封する。

 マオウはフタをあけたボトルの口に指を一本ツッコむと、空いた手でボトルを隠しながら“花祝”の力を使う。指先から出すのは、至極一般的な“栄養素”。栄養ドリンクなどに用いられる、黄色くなるモノとかそういう成分である。

 不味かろうが美味かろうが頓着しないマオウは、妙な色に濁った液体をボトルを握りつぶしながら飲むことで、三秒ほどでボトルの中から消してしまった。


「なにしてんだお前……」


 脇で見ていたレオンが、真っ青な顔をしながら思わずマオウの行為にツッコミを入れる。味の想像はつかないが、色からしてヤバいのはわかった。


「良いんじゃないこの店ー。綺麗じゃん」

「旅館ってやつか。値段も一人四千三百ルク……まぁ、それなり?」

「かけるく……許容範囲内ですかね……」


 手痛い出費ではあるが払えない額では無いと判断したリリアは頷く。


「……え? 数日前から予約入れてれば安くなんじゃん……」

「は?」


 予約サイトの情報を眺めてアリサが見つけた情報に、今度はリリアが真顔で睨みつける。鬼気迫る表情というか、控えめに言って鬼瓦より迫力があった。理由は普通に理不尽なのだが。


「なんで事前に確認してなかったのさ!!」

「いや知らなかったんだし仕方ないべ!? 事前に言われてりゃ調べだぁ!」

「はいはいはい、喧嘩しないの」


 呆れた声を漏らしながらゼルレイシエルが二人の間に割り込み、それぞれの片耳を摘まんで引っ張る。二人ともかなり痛がっており、ゼルレイシエルもそれなりに怒っているのが傍から見ても解る。


「いだだだだだだ」「耳! いたたたたたた」

「二人とも疲れてるみたいだし、さっさと宿に行って休むわよ。まったく世話のかかる……そもそも止めたのにあなた達が腐死者を見るから精神が荒んだわけだし、それに加えて公道上で喧嘩なんかされたら堪ったもんじゃないわ」

「ご、ごめんなさい……」「すまん……」


 先ほど精神がやられた時の謝罪とは異なるニュアンスで謝る。ありがとうの意味でも謝るのが大和に住むヒトビトの特徴の一つだが、こちらは反省する意味であろう。


「ほんとお疲れ。ゼルシエ。病人ちゃんの看護は私がやるから宿についたら思うまま本でも読んで」

「えぇ、ありがとうレイラ。お言葉に甘えるわ」


 アリサからパソコンを剥ぎ取り、GPSの通りに宿へと向かうなか、肩ポンからのレイラの配慮にゼルレイシエルはニコリと笑った。相手が小さな子などではないとは重々承知しているため頭を撫でたりはしないが、少々ささくれた心が落ち着く。

 と、レイラの行動にそんなことを考えた自分を振り返ってみて、ゼルレイシエルは少し複雑な気分になる。


(……もしかして私ちょっと、物事を見るのが大人目線になってきてる……? 最年長ってことでしっかりしようとは意識してるけど……なんか、複雑……)


 ゼルレイシエルは人知れず落ち込んだ。

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