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戦いの後の表と裏・(表)

我が名は太陽。我が名は月。

楔と戒めに二心はなく、死を喰らいて我が血肉へと。

生命の終わりを否定しよう。


天の理に反するとも、魔の理であるならば。

魔の探究者である我は従おう。


其が魂を我に納めよ。

わが魂の糧となれ。

年月を経ても永久に、我が魂を守るがいい。


尽きぬ怨恨と咎へ変わろうとも。

愛が悪意と殺意へ変わろうとも。

我は一つとなることを望む。



 望月屋小町が残した禁術の詠唱文


********


「二人だけでボスに挑むなんて!!」

「ふむぎゅぅ~」「い、いはい……」


 幽霊の親玉を倒したと聞き、仲間たちが一様に驚いたりどこか残念そうな表情を浮かべている中、ゼルレイシエルがすかさず二人の傍に寄ってそれぞれの頬を思い切りつねり上げた。やっと泣き止んだところなのに、二人はまた痛みで泣きそうな目になっていた。


「勝ったから良いってわけじゃないのよ」

「ふぇ、ふぇも……」


 マロンはゼルレイシエルに抗弁しようと、滲む瞳でゼルレイシエルを見る。そして途端に反抗心が消え失せた。

 隣のシャルロッテも同様に、頬をつままれながら悲しそうに眉を垂らす。

 ゼルレイシエルは本気で怒っていて、それでいてとても悲しそうであったのだ。


「ごめんなはい……」「ひょめん……」


 二人は悲しくなり、口をそろえて謝る。譲れない理由はあったが、心配をかけたと言うのは紛れもない事実なのだ。故に、シャルロッテも言葉を多く飾らず、ただ頭を垂れていた。


「後悔してんなら良いだろ。そうせざるを得ない状況だったんじゃねぇの?」

「でも……」

「ぶっちゃけ俺はこんなことより早く帰って眠りてぇし。つか」


 冷静に二人の起こした出来事を整理し、特に感情も無いような顔で溜息をつきながら。レオンは二人を咎めているゼルレイシエルを止めた。


「まずは“頑張ったね”とか、“すごいね”とか“流石だな”とかじゃねぇのかよ。責めてばっかじゃ生産性なんか微塵もねぇぞ」


 レオンはゼルレイシエルを咎める。言葉の最初こそ平易な調子であったが、言葉尻の方では珍しくも、彼の感情が強く表に出ていた。

 彼のそんな反応による驚きと、指摘を正しいと感じる気持ちがあり、ゼルレイシエルは「あ……」と小さな声を漏らす。


「ごめんなさい……」


 心底反省しているような様子で、二人に頭を下げる。そんな彼女を見たマロンとシャルロッテは慌てて立ち上がって止めさせようとする。


「なんで謝るんですか! 私達が悪いんですから!」

「もうお腹減ったからいいよぅそういうの~」


 いや、シャルロッテの方は微妙にずれた様な反応のようであったが。ともかく、そんな三人が面白かったらしく、他の六人は思い思いに笑ったりしていた。


「ま、お疲れ様。ってことで。無事で良かったじゃん」

「は、はい!」

「うゅ……アリサっちが兄貴面してる……」

「しちゃ駄目なのか……」


 場を和ませるように明るい声音で締めたアリサに対し、シャルロッテが情けないような何とも言えない表情で彼の顔を仰ぎ見る。言われた側としては反応に困るばかりで、実際に困った顔をしていた。


「おい話して良いかよ」

「お、おう? どうしたよマオウ」


 そこにヌッと入ってくるのは眉を吊り上げているマオウ。なぜだか機嫌が悪いらしく。


「なんで俺に相手をさせねんだチビィ! テメェだけつええヤツと戦いやがって」

「はぁ!? うるさいし馬鹿ノッポ!! 自分の運が無いだけじゃん! あんらっきーバカ! のろまー!!」


 逆鱗に触れられた龍の如く、凄まじい形相でキレる。言ってることがあまりに理不尽なこともあり、相手のシャルロッテも憤激し、立ち上がって両手を握りしめながら罵倒し返す。

 置いてけぼりな他七人はまた始まったと呆れ気味であったが、ふとマオウがマロンの方を睨みながら声を張り上げた。


「お前もだマロン!」

「ひゃ、ひゃい!? 私もですか!?」

「当たりめェだろ! 後でテメェも強制参加させっからなぁ!」

「ひ、ひぃ!?」


 まさか自分が巻き込まれると思っていなかったマロンは素っ頓狂な声をあげ、さらにマオウの指名をうけて真っ青な顔になる。助けを求めて周囲の仲間を見るも、幽霊ファントム達との戦いで疲れている花の騎士達は視線を逸らし、唯一、一行のヤベー奴ことミイネが良い笑顔でサムズアップしていた。


「なんかいやー!!」


 マロンは目を回す様にしながら空を仰いで悲鳴をあげるのであった。


 ◆◇◆◇


「皆様! お帰りなさいませ! 作戦お疲れ様でした! お茶やジュースなどをどうぞ!」

「ありがとうございまー!」


 昼も夜も街を覆っていたはずの、対霊大結界が消え、森の中からそのまんまの姿の魔法都市エキドナの姿が見える。日も落ちかけた午後四時半ごろ。花の騎士達がエキドナへと帰還したのはそんな時間であった。

 九人以外にも帰還した人達でごった返す町の入口ではいくつかテントが張られており、そこでボランティアの女性達が、作戦参加者たちにペットボトル飲料などを配布している。

 妊婦の為作戦に参加できなかったらしい女性から飲み物を貰い、リリアが明るくお礼を述べた。


「いやぁ……なんか気分が良いもんだ」

「そりゃそうでしょー」


 しみじみと語るアルマスに対し、リリアが楽天的に笑みを浮かべながら言葉を返す。

 街はいつも以上にザワザワと騒がしかったが、非常に明るい希望に満ちた音の群れであった。戦いから生きて帰れたことを喜び合う声。これで怯えながら暮らさずにすむだとか、これで昔住んでた土地に戻れるなど。

 そんな歓声を聞きながら、自分達に向けられたものでは無いと知りつつ、どこか誇らしげに感じていた。もちろん敵の親玉である妖精王を討ったのはシャルロッテとマロンの二人であって、他のメンバーは親玉の顔すら知らないのだが……仲間の功績は自分の功績のようにも感じるというやつである。


「でもこれだけじゃ済まないんでしょうね……」

「んー……そうだな……」

「他の黒花獣が、強化されてるんじゃ……」


 一方比較的冷静な年長組、又の名を年長カップル。先の黒花獣“機壊”の親玉たるマザーコンピュータのことを思い出しながら、憂鬱な気分になっていた。機壊から幽霊と戦ってきたが、二者の特性の違いもあるものの、やはり戦った際の戦闘力が幽霊の方が明らかに高かったのだ。

 機壊は物量も質量も桁違いに多く、動きに統率があるため敵の動向に注意深く行動しなければならなかった。一方で幽霊は急所となるような部位(肉体にあたる部分が透過しているため、敵の硬さなども気にする必要も無い)を破壊すれば終了だが、とにかく凄まじい種類の敵と攻撃方法があり、しかも不意打ちなども仕掛けてくるのだ。対霊魔法の維持にもいくらか集中力をつかうため、ゼルレイシエルはもう二度と戦いたくないと溜息をつく。


「どうした? なんかずいぶん落ち込んでるみたいだけど……」


 俯く彼女の姿に、ネガティブな感情になっているというのを奇跡的に察知するアリサ。どうしたんだろうと隣で右往左往している姿を見て、ゼルレイシエルが噴き出す。

 なぜ笑われたのかわからず若干ふくれっ面になるが、笑ったのを見て安心すると彼の方も少し笑顔になった。


「それで? どうしたんだよ急に」

「ほら……事前の打ち合わせだと、次は私の故郷に行く予定じゃない」

「あぁ、そっか。次は【流厳なる湖沼河】か」


 合点がいったとアリサが頷く。そして「そりゃ不安にもなるか……ごめん察せなくて」と謝る。

 ゼルレイシエルはクスリと笑って。


「いつものことだもの。今更気にしないわよ、鈍感さん」

「うぐっ……」


 アリサの胸を人差し指でつつきながら朗らかに笑いかけ、やられた男は顔を赤くしながら少し悔しそうに視線を逸らす。


「おーい! 二人でなにしてんのー!」

「お爺ちゃんが今日は宴会だってー!」

「奢りだとよー! 行かねーのか!」


 いつの間にか遠くにいた仲間達から声がかかる。二人は互いに笑って、人混みということもあり、少しだけ手を繋ごうとして「アリサさん! ご無事でしたか!」という声がかかって慌てて離れた。


「お、おぉ。じ、ジギルさん!」

「よくぞご無事で! どうです? 今から先勝祝いにお茶にでも」

「え、あ……」


 チラとアリサは隣のゼルレイシエルを見て、相手はどうするのと首を傾げていた。アリサは名残惜しく感じつつも、両手を合わせてジギルに軽く頭を下げる。


「すいません! ちょっと今日は仲間達と一緒に祝う予定でして」

「おや! それは申し訳ない。全然大丈夫ですよ。数日はエキドナに滞在する予定ですから、都合がいい時にでも連絡ください」

「それは勿論!」


 ジギルに別れの挨拶をし、アリサはゼルレイシエルと一緒に仲間の下へと向かう。


「良かったの? 誘っても良かったんじゃない?」

「いや……良いんだよ。今日はみんなもハメを外したいだろうし、知ってる人だけで飲むのが一番だろ」

「……そうね」


 静かに同意して、ゼルレイシエルはアリサの手を握り、指を絡めた。


「ぜ、ゼルシエ?」

「……一年で本当に変わったわね、って。こんなに気配りの出来るヒトじゃなかったわよ?」

「そうかな……にしても、これは?」

「なんとなくよ」


 アリサが指の絡められた手を空いた右手で指さしながら聞き、ゼルレイシエルが茶化すように笑いながら答える。

 顔を赤くして緊張しているアリサは気付かなかったものの、わずかに、握る手の力を強くしながら。


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