表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

幻想即興曲

閲覧して面白かったら、お気に入り宜しくお願いします。




『ポロ~ン……ポロロン』



彼女のしなやかな手先と、長い黒髪が銀色の鍵盤の上を(おど)る。



(……誰だ。

この女。


俺は夢を見ているのか?)



良雄の心身を幻想即興曲のメロディーが、(から)め捕る。


(信じられん。

この俺が女に心を奪われるとは。

まさか……この神業のような手捌(てさば)きに繰り出される幻想即興曲のせいなのか。


しかし、この女。

誰だ?

知っている筈なのに、名前も顔も忘却の彼方に置き忘れたような……)



繰り広げられている光景は、現実の物では無いと良雄の脳髄の一部が甘く囁きかけてくる。



その囁きは天使の(さえず)りのようであった。



恍惚の表情に支配されていた良雄が、


『むぅ~ん』


小さく声を発する。



良雄のその時の気分は、すきっ腹に80度以上のアルコールと淫薬を一気に流し込んだような最悪の状態であった。



祖父から、自分の特殊な能力(テレパシー)は、皆には存在しないと、聞かされた。



中国拳法の有段者である祖父も、同じ能力者であった。



5歳の誕生日を過ぎた頃から、強力な頭痛と皆の心の囁きが、洪水のように一気に良雄の脳髄に襲い掛かる。


「お母さん。

頭痛いよ……」



5歳の良雄が泣き叫ぶ。



傍にいた祖父が、両手で良雄の頭を包み込む。


不思議な事に痛みが消失した。


痛みが消えた良雄に、猛烈な睡魔が襲って来た。



泣き声がピタリと収まった良雄は、スヤスヤと寝息をたてた。



先程の苦痛に歪んだ顔は、まるで嘘のように消失していた。



孫の突然の苦しみを、目撃した祖父は、良雄に気のコントロールやテレパシーの遮断(しゃだん)などの技を5歳から8歳までの3年間伝授した。



祖父が亡くなるまでの3年間に、良雄は、自由にテレパシー能力を遮断したり全開したりコントロール出来るようになっていた。



普通は遮断しているので、頭痛に悩まされる事は無くなっていた。







覚醒は急激であった。


『……夢か』

ぽっりと呟きながら、右手で目頭を軽く(こす)



ボンヤリと昨夜の出来事が、断片的に(よみがえ)る。



しかし、記憶に薄いベールが(ほどこ)されているような、感覚があった。


(もしかしたら、夢だったのか……昨夜の記憶が判然としない訳がない)



良雄は、寝ぼけ眼で腕時計に視線を落とす。


6時10分前を指している。もう少し、寝よう。


(誰だ……横で寝ているのは……)



良雄は、掛け布団をめくった。



スヤスヤと寝息を立てているのは、幼なじみで同クラスの一之瀬美菜子だった。

(何故、彼女が横に寝ているんだ)



良雄は、記憶を探るように昨日の出来事を思い出そうとした。



良雄は、昨日の昼休みの屋上での出来事を回想する。



……確か山下進が、俺の下駄箱に放り込まれたラブレターを預かり、昼休み屋上で告白タイムゲームをした。



6人を集合させ、一人が勝ち残った。



その女子生徒。確か隣のクラスで、名前は明美。



彼女と飯田橋駅で待ち合わせて、神楽坂にある、進のマンションに行った。



進のマンションで、確か俺と明美そして進と美菜子の組み合わせで明日のテストの合計結果で、負け組が焼き肉を奢る賭けをした筈だが……。



回想が終了した良雄が誰とは無しに呟く。



「何故、美菜子が俺のベッドの横にいるんだ?」











閲覧ありがとうございます。

良かったら感想やレビューお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ