いつもの風景
初めまして、宮崎芳樹と申します。
小説を開いて頂きありがとうございます。
趣味で書いているのでさっくりと読んで頂ければ幸いです。
「わかる!?私の気持ちが!!」
わかんねーよ、と心の中で呟いた。
今日は花の金曜日。仕事終わりに飲みに行こうと誘われて来てみれば、目の前の同僚は行きつけの居酒屋に来て飲み物を注文した途端、速攻でグチりだした。曰く、また彼氏に振られたとか。
「ーーで、映画見に行こうって言ってたんだけど。」
俺がすみません生1つ、と店員に2杯目を注文する間もグチは止まらない。
何度目だっけ?彼氏に振られたって言うこいつのグチ聞くの。てか、振られるの何回目だよ、こいつ。 どんだけ男運悪いんだ。
「『見に行きたくない!』って・・・。」
ひどくない!?と手に持った梅酒のロックを飲み干してため息をつく様は、職場でのクールビューティーと呼ばれているのが不思議なぐらい男らしい。むしろ親父くさい。
外見がいいから恋人はすぐ出来るのに長続きしない同い年の同僚。
見た目はいいのになーと顔を眺めた。奥二重で切れ長の目、まっすぐな鼻筋と形の良い唇。それがバランス良く配置されている顔だ。人に聞いたら十人中九人は間違い無く美人だと答えるはず。大抵の男はお近づきになってみたいと思うだろう。
ーーーほんと、見た目は良いのに。あれさえ無ければ。
「なんで映画誘ったぐらいで振られたのかな・・・」
「何見に行こうって言ったの?」
「ポ○モン」
ーーーオタクでさえなければ。
「それだろ」
間髪入れずに突っ込みを入れる。
それだろ。他に何がある。思わず目の前の枝豆をつかみ損ねただろ。
「やっぱり?」
そういって俯いた同僚は2度目のため息をついた。手には飲み干した梅酒が入っていたグラスを掴んだままぶつぶつと呟きだした。
「・・・今度は受け入れてくれると思ったんだよ。付き合って1ヶ月経って、いい加減隠してるのが嫌になったし。私の全部を受け入れてくれるって言ってくれたし。・・・受け入れてくれると思ったのに!なんでポ○モンの映画見に行こうって誘っただけで『イメージと違う』って言って捨てられないといけないの!!なんでよ!!自分の彼女の趣味ぐらい受け入れなさいよ!!私のピカ○ュウの可愛さも理解出来ない器の小さい男なんて・・・おまえのかあちゃんでべそ・・・」
俯いたまま小学生並みの暴言を吐き続ける頭頂部を見ながら、ほんとにこいつ不器用だよなとビールを飲みながら思う。外面は美人だが中身はオタク、性格は不器用で意地っ張りで自分の意見を隠して相手の意見を尊重してしまうお人好し。
「何回も言ってるけど、お前の趣味をわかってくれる人と付き合えよ。寂しいからってお前の外見しか見てない奴と付き合うからすぐ別れるんだろ。」
「その台詞聞くの6回目・・・。」
「6回も言わせるなよ。学習しろ。」
「つめたい。なぐさめてよ!」
「どんまい!」
「キー!心がこもって無いでしょ!さらにその爽やかな笑顔がむかつく!!見てなさい!絶対ピカ○ュウの可愛さをわかってくれる人と次こそ付き合ってみせるんだから!!」
「はいはい、頑張れよ。」
同僚は高らかに宣言してメニュー表を引っ掴み、鼻息を荒くしながら料理を選び出した。その顔は少し赤くなっている。酒に強くないのに一気のみをするから酔ってしまったらしい。やけ食いしようとメニューを見ている様は同い年に見えないぐらい子供っぽく見える。
その顔を見て思わずため息をついた。
気付けよ。
ピカ○ュウの可愛さはまだわからないけど、
お前を誰よりも可愛いと思う男が目の前に居るのに。
そうして今日も酔いつぶれた想い人を介抱するはめになる。
俺とあいつのいつも通りの風景だった。
『後日談』
「彼氏が出来た!」
「・・・おめでとう。」
「ありがとう。」
「次はいつまでもつのか(ぼそっ)」
「キー!祝福してよ、つめたい!」
そりゃ冷たくもなるだろうよ。
でも、
「まあ、俺がうらやましくなるぐらい幸せになれよ。」
そうならなかった、その時は。