第7話 商会設立
「私の利点としては、まず領都に活気が戻ることね。商会があって、商売が生まれれば人が集まって仕事が生まれる。そこからまた人が集まって、経済圏ができあがるわ」
そう、そもそもこの領都には定住する人間が極端に少ないのだ。人がいなければ仕事も生まれないし、余計に人が離れていく悪循環となる。
「私は領主代行だから、この領都を反映させるだけで大きな利益になるのよ。だから、領地改革として商会が一つ立ち上がってくれる、これが一番の利点かしら」
「つまり、私たちでなくてもいい、ということでしょうか」
じっと見つめてくるアリスに、誤魔化したくないなと素直に思った。
「ええ、そうよ。ここに来るまではそう思っていたわ」
でも、気が変わったのよね。ほんと。
「ねえアリス、この領地の特産品って、何があるかわかるかしら」
「え?」
突然の問いかけに、アリスは目を大きく開いた。
「特産品までいかなくても良いわ。この領地で、不自由なく手に入れやすいものは何かしら?」
条件を緩めて再度問いかければ、アリスはしばらくの思案でぽつり、とつぶやいた。
「毛皮、でしょうか」
「その理由は?」
アリスの答えに思わず笑みが浮かびそうになるのを堪える。続けた質問にも、彼女は淀みなく答えてくれた。
「他の地域では、冬の寒さで死んでしまう人がいると聞いたことがあります。この土地も寒さは厳しいですが、そんな話は物語の中だけですね。それに、私達でも毛皮は沢山手に入れられます」
「そうね、理由は合格。答えは半分正解、ってとこかしら」
充分及第点な答えに、クツクツと笑いが抑えきれない。ああ、こんな笑い方をするから怖がられると言うのに。
「この領地は、毛皮だけじゃなくて、牙や目玉、そういった魔物素材がとにかく豊富に手に入るわ。だから傭兵みたいに武装した人間が多いのよ」
ついでに言えば、そんな人間が多い土地柄か、腕のたつ人間も多い。魔物との戦いに遅れを取ることが少ないのも、実戦経験が多く積めるからだろう。
「魔物を倒せば解体が必要になる。鶏の解体とかするとわかるた思うけど、解体した後はどうしたいかしら?」
「とりあえずサッパリしたい、ですね」
魔物を倒すのに遠距離から一撃、なんて綺麗にはいかない。砂埃や多少の擦り傷に塗れて仕留めたら、次は血抜きと解体だ。細かい肉片や生臭い血に塗れて汗をかいたら、それを流したいのは不変の心理だろうと思う。
まあ、私はやったことないけれど。
「そうよね。そんなとき、安価で効果の高い石鹸があればどうかしら」
「そりゃ、売れるはずだろ」
ふてくされたようなケインの声に、ぱっとそちらを振り返る。
「売れない理由だってわかってんだよ。効果のある石鹸を売ってるのが俺みたいな、埃っぽくて小汚い子供で、値段だって安すぎるぐらいで、詐欺じゃねえかって思われるんだよな」
「わかっているならなんでそんな恰好で露店に出ていたのかしら」
私の問いかけに、ケインはちらりと一瞬だけ視線を向けてはあ、と大きなため息を吐いた。
「そりゃあ、まずは飯が最優先だろ。次がチビ達の服、それからアリス達女の服だ。俺みたいな中途半端な男の見た目なんか、後回しでいいんだよ」
貴族様にはわかんねーだろうけど、とつまらなそうに言うケインの言葉に、アリスがぐっと拳を握ったのがわかった。
「だから、私たちが売りに出れば良いって言ったじゃない」
「それはダメだ。露店は流浪の商人が多すぎるから、女子供がどうなるかわかったもんじゃない」
なんだ、つまりはケインは一人で矢面に立ってこの孤児院を守ろうとしていたのだ。その事実と、思いがけず頭が回ることに、こっそり感動する。
「じゃあ売りに行くのはケインでいい。そのかわり綺麗にして行ってよ」
「チビと女優先なのは当たり前だろ。俺は少しぐらい我慢できるって、そう言ってるじゃん」
淡々とした口調でも、アリスの口惜しさが私も感じ取れる。それでも、ケインは飄々と言葉を返している。きっと、このやりとりも何度も繰り返されたんだろうと思う。
「それで売れないなら本末転倒だよ。売るための身だしなみ、大切なんだよ」
ケインの身なりが自分以外を優先してのことだというのは、アリスの姿でも想像がついた。この賢い少女が、自分の身なりを最優先にするとは思えない。最優先にするのなら、この部屋の暖かさに説明がつかないと思う。
「私たちには読み書きと商品を作る人力がある。けど、売るための方法や伝手はないから、その部分をお手伝いしてくれるってこと、ですよね」
アリスがまとめたのは、この商会を立ち上げたい理由。
「そして、私たちは孤児院として自活できるように収入を得て、ロゼさんは領主代行として領地改革のきっかけを作れる、ということで合ってますか」
「そうよ、その通り」
アリスの言葉に頷けば、アリスは目を閉じた。ゆっくりと目を開けて、アリスは口を開いた。
「商会のお話、私たちでよければぜひお願いしたく思います」




