第3話 店づくり
子供達の勉強も遊びも、蔑ろにする訳にはいかないわ。けど、それと同じぐらい商材の量産体制ま必要だ。きっと、商会にしたところでそんなに量が必要だと言う実感が、2人にはまだないのだとも思う。
「そろそろまた売れる石鹸ができるでしょう。それができたら、ケインは毎日、綺麗な形の石鹸だけを露店に出して欲しいのよ」
「そりゃあ、いつも通りだからやるけど」
いつもは石鹸くずも安値で売ってるから、それを持って行かないで欲しい。そう言えば、当たり前の疑問が返ってくる。
「ええ、商品として出せるレベルの、綺麗な物だけね。その分値段は上げて欲しいし、それでも買う人へはいつも通り売って貰って構わないわ」
ケインの露店では、そう言う石鹸くずの方が売れていたのも知っている。その分の収入が減るのだから、綺麗な物の値段を上げて収入を減らしてはいけないわ。
石鹸くずだって、効果を知っている人からしたら安すぎた。
「一月、とか言わないだろうな」
「もちろん、差し当たり一週間って所かしら。アリスには、その間私と一緒に来て欲しいのよ」
商会の窓口は、アリスとケインの2人だ。
「わかりました。何をするのか伺っても?」
相変わらずの落ち着いた声音で静かに聞いてくるアリスに、私は口の端をくっと持ち上げた。
「まずは宣伝ね」
翌日は早朝から露店の場所取りをして、ケインがやってくるのを待っていた。ルイスだけでなく、今日はエリーもいる。
「ああ、来たわねケイン。アリスも」
「早えな」
遠くから2人並んで歩いてくるのを見つける。商品の入った木箱が一つ、それだけの荷物に、エリーに来てもらって助かったと思う。
ケインは私の顔を見て苦虫を噛み潰したように顔をしかめて、アリスに突かれてるわね。すっかり嫌われちゃったみたい。
「はじめまして、ケインさんアリスさん。私、屋敷の侍女をしておりますエリーです」
綺麗な所作でお辞儀をするエリーに、2人もぺこり、と頭を軽く下げて返す。
侍女と言う身分は貴族の子女がつくことが多いが、爵位もなく、継ぐ家もない裕福な平民も取り立てられることがある。挨拶だけではどちらかわからないのだろうけれど、この露店ではその挨拶で十分ね。
「ケインさん、商品はどちらにありますか?」
「あ、この箱の中身がそう、です」
少しぎこちないけれどしっかりと敬語を使うケインに、やはり孤児院の教育は大切だと思う。
木箱の中身を見せて貰っていたエリーが、顔をしかめてケインに問いかけた。
「いつも通りに、お店の準備をお願いできますか」
「え、あ、はい」
有無を言わさぬエリーの態度に、ケインも悪態をつくことなく準備を始めた。
埃が入らないように木箱に布を被せて、天幕を張る。何を売ってるのかわかるように、硬い石の上にいくつか石鹸を置いて、いつも通りの店の完成だ。
「これで準備は終わり、です」
黙って準備を見守られて、ケインはやり辛かったわよね、きっと。エリーの顔は怖くて見られないわ。
「少し、手を入れても良いでしょうか」
「え? あ、いいです、けど」
ケインが言い終えるのを待たず、エリーは木箱の中から商品を両手で持ち、山積みにした。そこから形の良い物をオブジェのように積み上げ、木箱に敷いていた布を上に被せる。
「露店では目立たなければ意味がありません。この山はなんだ、と人目を惹くような作りにしたいのですが、今日はこれが限界ですね」
パンパン、と両手を軽く叩いて見せる。確かに、遠目からも何か不思議な山が見えるし、布の色は鮮やかなので、近くを通った時に目につきやすくなる。
「ただ商品を並べるだけじゃダメなんですよ。とにかく、人の意識に少しでも入り込む店づくりが必要ですね」
資金があればもう少し見栄えも良くできますが、と続けるエリーは、ケインの隣へ移動して笑った。
「今日は私も一緒に店におります。この子が売り主でも、舐められないようにしますので」
にっこり笑っているはずのエリーの顔が、なぜか薄ら寒く感じた。
少し短いですが。
少し更新不定期になります




