5 『花の戦士! フラワーエンジェルチェリー!』桜町吹雪 その3
5人が、1年1組の教室で、車座に座る。
「で、話ってなにかな?」
先輩男子は、ミディアムヘアーの後頭部をかきながら、ぼそっと言った。
やっぱり『エンジェルチェリー』ぐらいの小柄な男子だ……。と思いつつ桃子が切り込んだ。
「単刀直入に伺います、先輩は、『フラワーエンジェルチェリー』ですか?」
「え!」
今、明らかにうろたえたのを左六女は見逃さなかった。
「いや、絶対この人だって。プンプン匂うよ」
詩乃が指をさす。椅子にしがみつく先輩男子。
「な、な、何のことかなあ……」
鼻の穴に指を入れて、すっとぼける。
「先輩に協力してほしいことがあるのです! あ、私は、1年1組の桜森左六女と言います」
それに続いて、菊子、詩乃がそれぞれ自己紹介をした。
「僕は、さっき名乗りましたよね。吉備津桃子です」
「僕? さっきと何か感じがかわったね……。じゃあ僕も、一応自己紹介しておくよ。2年2組の桜町吹雪といいます。アニメ研究同好会に入ってます。好きなアニメは、『花の戦士! フラワーエンジェルチェリー!』です!」
「ああ! やっぱりそうだ! 『フラワーエンジェルチェリー』が好きということは、やっぱり桜町先輩は!」
左六女が、大きな声ではしゃぐ。
「しまった! つい、いつもの自己紹介をしてしまった……。いや、僕は、ただ純粋にアニメの『フラワーエンジェルチェリー』が好きだっていうことで」
「いや、絶対、桜町吹雪君。君が今トレンドの『#フラワーエンジェルチェリー』だよ。わたしの嗅覚からは、逃げられないからね」
そう言って、詩乃は鼻をひくひくさせながら、腕を組む。
「はあー。そういえば、君は『ドッグノーズ』詩乃さんか。噂は聞いているよ。驚異的な嗅覚の持ち主だよね。アニメの主人公みたいだ」
ため息をついて、吹雪が脱力したように言った。
「桜町先輩、もう潔く白状しましょう。それとも、正体がバレると、困ることでもあるのですか?」
左六女が、また、SNSの『フラワーエンジェルチェリー』画像をタブレット上に写して吹雪に見せる。
「困ること……。あるよ。僕が、セーラー服戦士であることがもし、バレたら……」
声が震え始める吹雪。
「もし、バレたら?」
4人が同時に、吹雪に注目して聞いた。
「殺される……」
声を絞り出す吹雪だった。俯いて、髪を猛烈にかきむる。