4 『ドッグノーズ』里見詩乃 その6
2年3組の教室。
「あのー。里見 詩乃先輩いますかあ!」
菊子が、掃除の終わった教室に向かって叫んだ。
「わたしが、里見詩乃だよー!」
教室の入り口で、自分を呼ぶ3人の1年生を見て、詩乃が手を振る。
ちょうど、帰り支度をしている所だった。
「失礼しまーす!」
桃子、左六女、菊子は、教室に入り、詩乃の目前に立った。
「1年生が、わたしに何か用なの?」
詩乃は、小柄な菊子と同じぐらいの身長だ。
この人が、不良をぶっ倒した人? 3人とも同じ疑問を抱いた。
「あの、里見先輩が、不良を倒したというのは、本当ですか?」
左六女が、詩乃をジロジロと見ながら聞いた。
詩乃は、目を細めてニコニコとする。
「そうだよー! わたし、あいつらにいじめられてたんだ。だから、退治してやった。悪いやつは許せないよね!」
明るいというよりは、天真爛漫な雰囲気を漂わせる詩乃。
「それで、先輩は、嗅覚が鋭いって聞いたのですけど……」
左六女が、率直に聞く。
「うん! そうだよ。ああ、わたしのことは先輩じゃなく、詩乃でいいから。この嗅覚はね……。そうだ、みんな座って。秘密を話してあげるよ」
「え! 秘密って、初めて会った私たちに、話しちゃっていいんですか?」
秘密やら情報やらに敏感な、策士左六女が、詩乃にささやく。
「うん、いい。誰も信じてくれないし」
「いや、詩乃さん、僕は信じます。詩乃さんは、嘘をつくような人ではないように見えます」
桃子が、詩乃を見つめる。
「ホント! 信じてくれるの! 嬉しい! えーと、あなたは……」
「1年1組の吉備津桃子といいます。桃と呼んでください」
「1年3組、桜森左六女です。左六女とお呼びください」
「1年1組の小鬼菊子です。菊と呼んでいただければ」
3人は、詩乃の前に、椅子を持ってきて座った。