4 『ドッグノーズ』里見詩乃 その5
「後は……」
左六女は崩れるように、ドスンと座った。
「後は何だよ?」
桃子が尋ねる。
「もう少し、仲間が欲しいんだけどなあ」
左六女は、タブレットのペンを指先で回す。
「桃太郎の犬と雉の役だね」
「うん。この作戦は、相手が怪物だからね。よほどの覚悟があって、特殊な能力を持つ者がいいんだ」
「覚悟はわかるけど、特殊な能力ってどんな能力さ?」
そんな人いるか、と言わんばかりの桃子だった。
「桃太郎さんの、犬と雉に近い能力を持った人がいたら……とは思うんだけど……。そんな人間、いないよなあ」
しばらく沈黙が続いた。
突然、桃子がドンと実験机を叩く。
「あ! 左六女、犬と言えばさあ、2年の先輩で犬みたいな能力で、不良をやっつけた人がいるって聞いたことがある」
「ああ、それ! そう言えば、私も聞いたことがあるよ。確か凄い嗅覚を持ってて、犬のような瞬発力や身体能力の人でしょ? 不良を倒すぐらいだから、有名人だよ。2年生の先輩に聞いてみよう」
「あたしが2年生に聞いてきます!」
菊子は、立ちあがって理科室を出て行った。
「僕たちも行こう。一刻も早く鬼ヶ島に行かないと、手遅れになるからね」
「オッケイ! でも、本当に犬みたいな人っているのかなあ……」
桃子と左六女が菊子を追って、理科室を出る。
2年生の教室棟に行くとすでに、菊子が先輩の女子生徒を呼び止めていた。
「あ、あのすみません」
振り向く2年生。
「はい? あら、そのツインテール可愛い! で、私に何か用?」
「あたしは1年の小鬼菊子といいます。つかぬことをお伺いしますが、2年生で、不良をやっつけた人がいると、聞いたのですが、ご存じですか?」
「ああ! 詩乃ちゃんのことね。私のクラスの子よ」
「詩乃ちゃん? 女子生徒なんですか?」
「そうよ。里見詩乃。凄いのよ。何でも嗅ぎ分けることができるの。『ドッグノーズ』ってよばれてる」
「『ドッグノーズ』里見詩乃さん……。その人、今、学校にいるでしょうか?」
「うん。今日は、掃除当番だったから、まだ教室にいると思うよ。2年3組だよ」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げる菊子だった。
「菊ちゃんはホントに、礼儀正しいね。見てて気持ちがいいよ。鬼ってみんなそうなの」
桃子が、菊子の背後から感心しながら近づいてくる。
「はい、本来鬼は、みな礼儀正しいのです。筋を通します。世間で鬼は、傍若無人で粗暴なように言われますが、心外です。誰だろうデマを広めたのは」
憤慨する菊子だった。
「まあまあ、でも、菊ちゃんのおかげで、情報が手に入ったよ。すぐに会いに行ってみよう。その『ドッグノーズ』里見詩乃とやらに」
そう言って、左六女は、菊子の肩を優しくつかんだ。