4 『ドッグノーズ』里見詩乃 その3
菊子は、絵を描こうとするが手を止める。
「着物を着た、普通のお爺さんみたいな……。あと、丸くてつばのある帽子……。それから、丸い眼鏡をかけてステッキを持っていました……。絵に描くのは難しいです」
菊子は言葉通り、普通の老人のような絵を描いた。
左六女の記憶にもこのような怪物はいない。普通の老人だ。
「ふーん。ふつうのオッサンみたいなやつなんだ。で、虚無大師は、いつもどこにいるの?」
桃子が、菊子を見て聞いた。
「はい。怪物は、『財宝の間』付近にいるのですけど、虚無大師は、突然現れたり消えたりします。常にいる場所は、よくわからないんです」
「そっか……。で、左六女、何か作戦を思いついたかい?」
桃子が、タブレットに何かをポンポンと指先で入力している左六女を見る。
「うん。まず、お宝を前にして、敵と戦うのはリスクが多すぎだね。お宝と敵に、意識が分散されて、隙ができるだろう。その隙を衝かれて、怪物にやられそうだね。われわれは、常に一点に力を集中しないと」
「じゃあ、どうするのさ」
「段階に分けて常に全員で行動する。これを見て」
左六女が、作戦を箇条書きにしたタブレットを見せる。
『第一段階、敵に見つからないように、鬼ヶ島に上陸する。
第二段階、お宝を、敵に分からないように、違う場所に移す。
第三段階、怪物を一体ずつ退治する。
第四段階、虚無大師を退治する』
「第五段階は、お宝を元に戻すだろ」
ディスプレイを指さして、桃子が言った。
「あ、はい。そうです。お宝を戻します。決していただくわけではありません」
焦って、早口で言う左六女
「でもさあ、第一段階で、鬼ヶ島に潜入できたとして、第二段階のお宝を移すって、どうするのさ。岩扉の前には怪物がいて『財宝の間』に入るのも難しいだろ?」
桃子が、左六女の顔を見る。
「うん。でも『財宝の間』と言っても洞窟の中だ、どこか抜け穴があるんじゃないかな?」
左六女は、菊子を見る。
「あります。あります。普段は閉じていますが、人ひとり通って外にぬける迷路が。でもそれは、いざという時に逃げる抜け道で……。財宝を持ち出す広さはありません」
菊子の答えにうなずく左六女。
「大丈夫! まずそこから『財宝の間』に入る。次に、人と鬼が、お宝を持てるだけ持って、『財宝の間』から外に持ち出す。これは、敵に分からないようにしないと、ダメだからね。電撃の人海ならぬ鬼海作戦だよ。これで少なくともお宝は守れる。財宝を運ぶのを鬼に手伝ってもらえるかな?」
「はい、財宝を運ぶくらいなら、鬼たちもできます」
菊子もうなずいた。