4 『ドッグノーズ』里見詩乃 その2
「そうですね。まず一番大きかったのが角の生えたやつ。それが大きな角で、頭は牛でした。」
菊子は、頭は大きな角を持った牛で、体は人間、手に斧を持っている怪物の絵を描いた。
それを見てうなずく左六女。
「わかった。これは、ミノタウロスだ。迷宮に閉じ込められたとされる、女性を襲う助平な怪物だ。許せんやつだよ」
「え、そうなの! 左六女ってよく知ってるね」
桃子は、菊子の絵を見て、左六女はよくわかったもんだと感心した。
「まあね。RPGのダンジョンにはよく出てくるやつだ」
「あ、そっち系の知識か」
菊子は次の怪物の絵にとりかかる。丸い顔を描いた後、髪の部分に蛇を描く。
「あ! これ、僕もしってるよ。ゴーゴンとかいうやつだろ」
「そう。正確には、ステンノー、エウリュアレー、メドゥーサの3姉妹の一人だよ。3人をまとめてゴーゴンっていうんだ。こいつは、顔を見ると石になってしまうから厄介だ」
「うわ、左六女、何でそんなに知ってんのさ」
「敵を知り己を知らば百戦危うからず。孫子より」
「敵って、左六女の場合ゲームの敵だろ」
「左六女さん凄い物知りです」
菊子が、尊敬のまなざしで左六女を見る。
「さあ、どんどん描いて。菊ちゃん絵が上手いからすぐわかるよ」
「えへ、そうですかあ」
照れながら、3匹目を描く菊子。髪の長い女性らしい顔に手は鳥の羽。そこまで書いたところで、左六女が手を上げて叫ぶ。
「はい、はい、はい、はい。わかりました。セイレーンです。上半身は人間の女性で、下半身は鳥の姿の怪物です。海の上で、歌を歌って船乗りを惑わすんだ」
「それって、鬼ヶ島に行く途中の海で現れたらヤバいよね」
「まあね。でも耳栓をしとけば大丈夫よ。菊ちゃんラストの怪物は?」
左六女に促されて、菊子は、犬の絵を描く。
「犬?」
考えあぐねる左六女だった。菊子は、さらに犬の頭を描き加える。三つの頭をもつ犬。
「これで分かったよ、ケルベロスだ。冥界の番犬と言われている。狂暴な奴だ」
「噛まれたらヤバそうだね。菊ちゃんの絵はかわいい犬だけどね」
「怪物はこの4匹なんだね? で、虚無大師は、どんなやつなの?」
ラスボスについて聞く左六女だった。