第11話 「僕は君が好きだ」
夕食後、フィーネとオスヴァルトは彼の部屋でお茶を飲みながら、ゆっくりと夜の時間を楽しんでいた。
「生活には慣れた?」
「はい、皆さんのおかげで。ただ、まだ公爵夫人と呼ばれるのは慣れません……」
「あはは、それはゆっくりでいいよ」
お茶を一口飲んで、オスヴァルトはフィーネの髪先を触る。
「オズ?」
「僕は君が好きだ」
突然の告白を受けて、フィーネの心臓はドクンと飛び上がった。
やがてじわじわと彼女の頬が赤くなる。
「どうしたのですか、急に……」
照れて目を逸らす彼女に、オズは真剣なまなざしで言う。
「君を身請けはして僕の妻に形式上はなったけど、もし君がこの家を出たいと思ったなら、出てもいいと思っている」
この国では結婚しても三年経てば、離婚が可能である。
つまりオズは形式的な離婚──いわゆるこの結婚を「白い結婚」にして構わないと言っていった。
「仮初めの夫婦となる、ということですか?」
「うん、僕は君を助けたい気持ちがあったとはいえ、君の意思を確認せずに身請けした。君の気持ちを無視した。今なら、友人のままでいることができる。なんせ僕は吸血鬼でもあるからね」
それを聞いてフィーネは俯く。
(オズと友人……)
そう考えた時、心の中がもやもやした。
(離婚したらオズは他の人と結婚するの? それは……)
「嫌です」
フィーネは思わず出た自分の言葉に驚いた。
しかし、もう気持ちは止まらない。
「オズは私の中で兄のような存在でした。でも、この家に来てなんだかそわそわして、オズがかっこよく見えて、その……たまに目が合わせられなくて、緊張することもドキドキすることもあって……呼吸が苦しくて、なんならリンにも嫉妬してしまいそうになることもあって」
「フィーネ……?」
「つまりその、私は人を好きになったことがなかったのですが、もしかしたらこれが昔教会の友人が言ってた『恋』なのかもって思って。その、オズともっと話したい、ご飯を一緒に食べたい、ふ、触れ合いたいって思うのは変でしょうか?」
しばらくの沈黙が流れる。
(やっぱり変なこと言った……?)
そう思った瞬間、フィーネは急に手を引かれて抱きしめられる。
「オズ!?」
「これも嫌じゃない?」
フィーネは顔を赤くしたまま、黙って頷く。
オズはフィーネの手に自分の手を絡ませると、耳元で囁く。
「唇、奪っていい?」
フィーネの肩がビクリとする。
彼女は小さな声で返事をした。
「奪ってくださいますか?」
その瞬間、二人の影が重なった。
甘い吐息が重なって、フィーネの気持ちはどんどん満たされていく。
「フィーネ……」
吐息交じりに名前を呼ばれるだけでドキリとする。
(ああ、やっぱり私はオズのことが好きなんだ……)
想いが通じ合った二人は、何度も何度も愛を確かめ合った──。
朝が来てオスヴァルトは横に眠るフィーネのおでこにちゅっとすると、シャツを着た。
「フィーネ、少し待っててね。今、君を苦しめていた彼らに罰を与えて来るから」
まだ眠るフィーネを残し、オスヴァルトは教会へと向かった──。




