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雪の刃—殺し屋の元王女さま  作者: 栗パン
第七章:潜みし龍、今は待つ時
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85 医は仁、策は謀

「浮游、お前はどう思う?彼女が助けてほしいと言った者は、まだ生きているのか?」

「凛音、本気か。あいつの話を本当に信じるつもりか?」

「うん、何となく。」


凛音が賤民営に入って、すでに七日が過ぎた。賤民の身分を背負い、朝は彼らと共に畑仕事をしながら、子供たちに薬草と毒草の見分け方を教える。昼は依然として的役を務めるが、ただ立っているだけではなく、新兵たちに弓の構え方や狙いの付け方を指導するようになっていた。

そして夜になると、軍医館へ赴き、その日に負傷した新兵や賤民たちの治療を行った。

そんな折、新兵営に現れた「腕の立つ女医」の噂が、ついにクラウスの耳に入った。


「馬鹿め、何が『賤民の女神医』だ? 少しは頭を使え!」

「王子殿下、申し訳ありませんが、どういうことでしょう?」

「彼女は白澜国の林将軍の娘だぞ!アミーリアに知られたら、お前の首は飛ぶぞ!」

「で、では、どうすれば……?」

「どこから来たか知らんが、そこへ戻せ! 俺は面倒ごとが大嫌いなんだよ!」


翌日、指揮官が凛音のもとへやって来た。

「今日で刑期は満了だ。出て行っていいぞ。」

「……刑期?」横にいた軍医が訝しげに問い返す。「賤民営に刑期なんてあるわけがないだろ?」


指揮官はイラついた様子で軍医の尻を蹴飛ばし、再び凛音に向き直る。

「とにかく、お前はもうここを出て行け!」

「私は罪を犯してここへ送られました。他に行く宛てもありません。なぜ急に追い出そうとするのですか?」

すると、周囲の負傷兵たちが口々に言い出した。

「そうだ! 女神医が来てから、俺たちの筋肉痛も減ったし、弓の腕も上がったんだぞ!」

「お前らに何が分かる!」

指揮官は無理やり場を収めるように、乱れた服の襟を直し、帯刀の柄を軽く撫でると、そのまま踵を返し立ち去った。


「浮游、どうも怪しいな。」

「うん、わしもそう思う。」


こうして凛音は、まるで居座るように賤民営に居ついた。指揮官も、彼女が公主殿下の知人であると聞かされていたため、無理に追い出すよりは、むしろ丁重に扱ったほうが身のためだと判断した。もし事が露見しても、自分の落ち度ではないと言い訳できる。いや、むしろ、彼女に恩を売っておけば、後に助けてもらえるかもしれない。そう考えれば、この策が最善だった。


そのため、凛音はより多くの自由を得ることになり、夜には軍医館で賤民たちの記録を探るようになった。

ここにいる賤民たちは、極悪非道の罪人というよりも、むしろ飢えに耐えかねて窃盗や略奪に走った子供が多かった。それは、かつて見た商業都市の華やかな印象とは、あまりにもかけ離れていた。


「浮游、助けるべき相手が誰か分からないのなら——全員助けるわ。」

「どうやって?」


翌日、酔っ払った副官が賤民たちの農作業を監督していた。鞭を手に持ち、威張りながら怒鳴り散らしている。実のところ、大した問題があったわけではない。

だが、凛音はわざと前へ出ていき、彼が鞭を振り下ろした瞬間、その先端を掴んで力強く引っ張り、見事に地面へと叩きつけた。


「賤民、賤民って、うるさいったらないわね。彼らは罪を犯したかもしれない。でも、その代償を払ってる。それなのに、何の意味もなく痛めつけるなんて、ただの憂さ晴らしじゃない。そんなに強いなら、戦場に出て敵を斬ってきたらどう?」


「貴様……死にたいのか!?」

副官は怒りに燃え、佩刀を抜いて斬りかかる。だが、凛音は素早く身を翻し、彼の背後へと回り込むと、草刈り用の鍬を彼の首元に押し当てた。

「残念だけど、あんたじゃ私を殺すことはできないわ。指揮官を呼びなさい。」


「お前、お前……何をするつもりだ!?」指揮官は怒鳴りつつも、内心では焦りを隠せなかった。凛音が厄介な存在であり、しかも簡単には振り払えない厄介であることを、彼は十分に理解していた。何度も心の中で頭を抱えた。

「突然態度を変えて、こうも私を大目に見るなんて……もう回りくどい話はやめましょう。さっさとあなたの長官に会わせて。」


「だから俺は面倒ごとが嫌いだって言っただろう!なのに、なんでこいつを連れてきた!!?」クラウスの怒号が響き渡る。

凛音はわざと囚人服の両端をつまみ、まるで貴族の令嬢のように優雅に礼をしてみせた。

「お目にかかれて光栄です、クラウス殿下。」

「……で、何の用だ?」


「なぜそんなに急いで私を外に出そうとするの?」

「理由なんて言わなくても分かるだろう。林府が燃えたあの夜、お前は姿を消した。そして今、お前が賤民営にいると知れたら——誰が来ようが、そいつの名前は『厄介事』って決まってる。」


凛音の脳裏に、アミーリアの顔がよぎり、さらに蓮の姿が浮かんだ。


「なら、取引をしましょう。私を出したいなら、盗みを働いた子供たちを解放しなさい。」

「解放したところで、どうやって管理する?」

「管理? それが管理? 一群の役立たずな新兵が、ろくに弓も当てられず、何人を殺したと思ってるの?」

クラウスはその言葉に、険しい表情で指揮官を睨みつけた。「お前……まさか、本当にそんなことをやったのか?」


「貧民の罪は、天子の罪——それは、お前の無策のせいだ。だからこそ、貧民は飢えに苦しみ、犯罪に手を染め、この牢に閉じ込められている。」

凛音は一歩前に出て、クラウスを鋭く睨み返す。「彼らを解放しなさい。その代わりに、教養院を設立することね。」


彼女がまさかこんなことを言うとは思わなかったのか、それとも、こんな風に睨まれること自体が初めてだったのか。

「……分かった。なら、お前はさっさと出て行け!」


凛音は踵を返し、立ち去ろうとした——その時、クラウスはぼそりと呟いた。「聞いたか? 南宮蓮が皇帝になったらしい。太后は失脚、林将軍の汚名も晴れた。……お前、もう白瀾国に帰れるぞ。」


「——何?」

凛音は思わず足を止めた。

蓮が皇帝?太后が失脚?

一瞬、頭の中が真っ白になった。情報量が多すぎる。

だが、凛音はすぐに冷静さを取り戻し、クラウスをじっと見つめた。


「クラウス、単刀直入に言うわ。私は林将軍の娘ではない。私は雪華国の王女だ。」

——情報量が多すぎる。今度はクラウスが沈黙する番だった。


「……なんだと?」

わずかに目を細め、彼女を探るように見つめる。


「十一年前、白澜国の太后は何者かと共謀し、私の国を滅ぼした。そして今、彼女は再び、蒼霖国の誰かと手を組んでいる。もしこれが、クラウス殿下の黙認ではないなら——貴国には間違いなく内通者がいる。」

言い切るように、静かに、しかし確信を持って。


クラウスは低く息を吐いた。

「それで、お前はどうするつもりだ?」


凛音は一歩踏み出し、まっすぐ彼を見据えた。

「今日から、私はクラウス殿下の策士となる——教養院の件、私に任せてください。」


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