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雪の刃—殺し屋の元王女さま  作者: 栗パン
第六章:花影の契、面を識りて心を知る
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72 真実は仮面の奥に

蓮は息を呑み、一瞬動きを止める。

しかし、すぐに我に返り、素早く仮面を手に取り、顔を覆った。

「——私です。洛白。」


「洛白?!どうしてここにいるの。」

「ええ、先ほどこの者たちを見かけたのですが、いかにも怪しげな様子だったので、試しに尾行してみました。まさかここが凛音様のご自宅だったとは……?」

凛音は地に伏せた黒装束の男たちを一瞥し、首を振った。

「いいえ、違います。」少し気遣わしげに洛白を見つめ、「洛白、一緒に来てください。」と促し、彼を屋敷の中へと招いた。


中へ足を踏み入れると、そこには子供たちの姿があった。庭のあちこちで幼い子供たちが遊んでいる。

その中には清樹の姿もあった。彼はまだよちよち歩きの幼い少女の手を取り、そっと支えながら歩く練習をしていた。


清樹は蓮の姿を見つけると、急いで幼い少女を抱き上げ、こちらへ駆け寄った。

蓮はさりげなく左手を小さく振る。その仕草を見た清樹はすぐに察し、表情を変えずに口を開いた。

「洛白様、お久しぶりです。」

「はい、清樹君。元気そうで何よりだ。それにしても、この子たちは?」

清樹は一瞬、言葉に詰まり、庭で遊ぶ子供たちへ視線を向けた。そして、少し躊躇いながら答える。

「……彼らは、前の戦で命を落とした戦士たちの家族です。凛音様は、家を失った子供たちをここに集め、世話をされているのです。」


蓮は瞬時に、先ほどの質屋での一件を悟った。


「洛白、先ほどの者たちが誰の手下か、分かりますか?おそらく、彼らの狙いは私でしょう。私の不手際です……まさか尾行されていたことに気づかないなんて。」

凛音は拳を握りしめ、真剣な眼差しで洛白を見つめ、低く続けた。

「ここにいるのは幼い子供たちばかり……もしまた襲撃されたら……」


「いいえ、分かりません。でも、こうしてはどうでしょう。彼らを縛って李禹さんに引き渡せば、報告もできず、しばらくはここも知られずに済むかもしれません。」


凛音は少し躊躇う。


「彼らは放火しようとしていた。李禹なら見逃すはずがない。それに、彼の主である蓮殿下も手を貸すかもしれません。」

「……蓮を巻き込みたくない。」

「なぜ?」


凛音は答えず、踵を返して門の外へと向かう。

「ともかく、まずは縛りましょう。」


夜が更ける頃、皆が炉を囲み、胡餅を焼いていた。蓮は王族の生まれゆえ、こうした素朴な食べ物には馴染みがない。そんな彼が手を付けないのを見て、凛音は胡餅の両面にはちみつを塗り、再び火にかざした。

じゅわっと甘い香りが立ち上る。こんがりと焼けた胡餅は、艶やかな橙色に色づき、焦げた胡麻の香ばしさが食欲をそそる。


「洛白、試してみて。こうすると、また違った美味しさがあるわ。」


蓮は手に取り、一口かじる。ふわりと広がる花の香り、そのあとにやってくる胡麻の芳ばしさ。まるで二本の弦が口の中で響き合うように、甘みと香ばしさが絶妙に調和していた。

「……美味い!」


「これは去年の春、百花が咲き誇る頃に私が採った蜜で作った百花蜜なの。実は、お酒に入れてもとても美味しいの。」


目の前にいるのは、見慣れた凛凛でありながら、自分の知らなかった凛凛でもある。

だが、決してあの数日前まで自分に冷たく接していた凛凛ではなかった。


一体何があったのか。


疑念を抱きつつ、試すような口調で凛音に問いかけた。

「凛音様、その殿下とは何があったのですか? 以前、辺境の村にいた時、あなたと李禹さんの話では、彼は良い人だと聞きました。その時はまた、親しげにも見えましたが……。」


「良い人ですよ。むしろ、良い人すぎて、困ります。」

「というと?」

「平民と兵士のために、たった一人で戦場へ向かった。本当に、誰の助けも借りず、ただ独りで敵陣へ飛び込んだのです。私と清樹を遠ざけ、追い詰められた兵たちを逃がし——そして、一人で戦地へ赴きました。」


「それが彼の傲慢さと無謀さゆえに、凛音様は距離を置かれたのですか?」

凛音は遠くを見つめ、静かに答えた。

「違います。私が駆けつけた時には、すでに彼は戦場で命を落としていました。」


「……何ですって? ですが、私は殿下が軍を率いて無事に帰還したと聞いています。浮游が助けたのですか?」


凛音は首を横に振る。

「いいえ。彼を救ったのは、白瀾国の守護神獣——朱雀です。」


清樹は、蓮が本当に知りたがっていることを察しながらも、口にすべきか迷っていた。だが、ほんの一瞬の逡巡の後、彼はあえて食べ物を手渡すふりをしながら、ごく自然に口を開いた。

「——凛音様は、朱雀と取引をしたのです。凛音様が蓮殿下へのすべての感情を手放すことを条件に、朱雀が殿下を蘇らせました。」


その言葉を口にした瞬間、清樹の瞳が揺れる。彼はじっと蓮を見つめていた。

そこには、惜別の情、そして哀れみが滲んでいた——まるで、蓮の叶わぬ恋を悼むかのように。


清樹の言葉があまりにも衝撃的だったのか、蓮の手から茶碗が滑り落ちた。

高く澄んだ音が響いた。

それは、まるで彼の心が砕け散る音のようだった。


「凛音様、大丈夫か? どこか具合が悪くないか?」

この瞬間の蓮は、もはや洛白でしかなかった。凛音を問い詰めることすらできない。ただ、震える声で尋ねた。今の彼にできるのは、ただ医者として、凛音の身体に異常がないかを確認することだけだった。


「私は平気よ。でも、不思議ね……蓮のことを、もう何も感じないの。」

凛音はまるで何でもないかのように、淡々と答えた。


「凛音様、不本意ですが、私もこの件について李禹様や蓮殿下と話し合うべきだと思います。」

……まあ、実のところ、蓮殿下はすでにご存知のようですがね。

彼はちらりと洛白へ視線を向けた。

「放火や殺人が絡んでいる以上、私たちだけで対処できる問題ならともかく、ここには多くの子供たちがいます。加えて、交流会の最中で林将軍も凛律様も手が回らない状況です。私たちだけでは、さすがに手に余るでしょう。」


「医者が必要になるのは、事が起こった後です。でも、未然に防げるなら、それに越したことはありません。」

凛音はしばらく沈黙し、ぽつりと答えた。

「……わかりました。」


その一言を聞いた瞬間、蓮の胸の奥に、わずかな安堵が広がる。

しかし——

朱雀……?

これは、一体……どういうことなんだ。


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