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雪の刃—殺し屋の元王女さま  作者: 栗パン
第四章:明徳の道、心に乱あり
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52 哀しき嘆き

「どうぞ、お入りください。」

陶太傅は穏やかな声で促しながら、凛音を自らの書斎へと案内した。


書斎は清潔で整然としており、壁際の書棚には多くの典籍がぎっしりと並べられている。机上には筆と硯、そして文書が几帳面に並べられ、その空間全体から主の知性と落ち着きが漂っていた。


ふと凛音の目が壁に掛けられた一幅の絵画に留まった。広大な雪原を背景に、真紅の衣を纏った女性が一輪の赤い花を手にして立っている。その構図は静けさと儚さを感じさせ、どこか物悲しい印象を与える。


「……私が最も後悔しているのは、あなたの母を雪華国に嫁がせたことだ。」

陶太傅の声は低く、わずかに滲むため息がその胸中を語っているようだった。


凛音は陶太傅に直接問いかけた。「母上には、一体何があったのですか?太傅、彼女がどうして亡くなったのか、ご存じなのですか?」


一瞬の沈黙が流れた。陶太傅は手元の茶杯をゆっくりと置き、凛音の目を真っ直ぐに見つめ返した。その瞳には、深い哀しみと懐かしさが宿っていた。

「彼女は――私が最も誇りに思う娘だった。そして、私の最大の後悔でもある。」


「どういう意味ですか?」

陶太傅は椅子の背にもたれ、視線を遠く過去へと向けるかのように天井を見上げた。


「彼女は私の宝物でした。幼い頃から聡明で、活発で、生きることを何より愛していました。赤い三角梅が大好きで、『熱く燃える命の象徴だ』と微笑みながら語っていた姿が、今でも鮮やかに思い出されます。未知の世界への探究心に溢れ、氷雪に覆われた雪華国への遠嫁という選択さえ、彼女にとっては新たな冒険冒険だったのでしょう。


文化交流の場で雪華国の王子、つまりあなたの父と出会い、お互いに一目惚れだったそうです。それはまさに運命の出会い。


結婚後、彼女は度々手紙を送ってくれました。『氷雪は冷たいけれど、彼が私の陽だまりです。』と綴られたその言葉は、どれほど彼女が幸福に満ちていたかが伝わってきました。きっとあの頃、彼女は本当に幸せだったのです。


雪華国には、奇跡のように咲く雪蓮があると聞いたことがあります。その清らかさと力強さを愛した彼女は、きっと自分もその雪蓮のように、美しく、厳しい環境の中でも、力強く咲き誇りたいと願っていたのでしょう。」


話しながら、陶太傅は雪華国の玉佩を取り出した。

「やはり、衛公子が持っていた玉佩はあなたが渡したものだったのですね。一体どれほど大きな策を巡らせているのですか?」


「私は常に朝政に追われ、清遥が雪華国に嫁いだ後も、彼女が幸せに暮らしていると信じていた。あのとき、もっと彼女を気にかけていれば、こんなことにはならなかっただろう。


送り出したとき、あれほど華やかで誇らしかったのに――迎え入れるときは、骨すらも戻らなかった。私はどれほどの時間を費やして、この現実を受け入れたか……。そうだ、私が彼女を送り出した先は、幸福ではなく地獄だったんだ。


彼女が最後にくれた手紙……。その中に何が書かれていたか知っているか?『もし機会があるなら、私と私の子供を家に連れて帰ってください』と書かれていた。体が次第に蝕まれ、神志も不安定になりながら、それでも父親に助けを求めるしかなかったんだ。


なんという父親だ……。自分の娘が何年も毒に侵され、精神まで操られているというのに、何一つ気づかなかった。私は彼女を救えたはずだった。だが、救わなかった……いや、救えなかったんだ。


彼女は最後にこうも書き残していた。『もし私のせいで雪華国が滅びたなら、父さん、どうか私を許してください』と。泣きながら、その言葉を書いた彼女の心境を、私は想像することすらできない。


泣き濡れた手紙に文字すら滲んでいた。その中に込められた絶望と恐怖が、私の目には鮮明に映っている。」


陶太傅の声が途切れた。凛音もその言葉に返すことなく、ただその場に立ち尽くしていた。二人とも、いつしか涙で目が曇っていた。誰も、何も言えなかった。


一方、蓮の宮殿。

「李禹、太傅のことを凛凛に言えなくて、私は間違いましたか。」

蓮は少しうつむきながら、隣に控える李禹にぽつりと問いかけた。


李禹は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに肩をすくめて苦笑した。

「はあ、殿下が何もかも自分だけで抱え込むのは今に始まったことじゃありません。それなのに、こんなふうに悩むなんて、珍しいですね。」

「……」

「それに、殿下は私には洛白のことさえ隠していたことを全然気にしていないのに、凛音お嬢様には太傅のことを隠すのが悪いと思うんですか?」


「それは……」 蓮は言葉を詰まらせ、少し視線をそらした。そして小さく息をついて続けた。「しかし、凛凛の疑いも一理ある。よく考えれば、普通の人が自分の大切な孫娘を殺しに行かせるなんてことがあるだろうか。衛澈エイセツに凛凛を誘わせたとき、私はもっと慎重に考えるべきだった。」


「今になって思うと、太傅が私のところに来た時期ももっと疑うべきだったな。彼は私にとって大切な師だが、突然朝廷に戻りたいと言い出したのは、凛凛が雪華国から帰還した直後だった。」


「それで、殿下はどうするおつもりですか。」

「もう少し様子を見るよ。凛凛にとっては、唯一残された血の繋がった親族だからね。」


だが、全てが明らかになる日は……そう遠くないだろう。


陶太傅の語る父としての後悔と愛情に、私自身も心を揺さぶられました。しかし、この物語における真実は、それだけで終わるほど単純ではありません。愛情と罪の狭間で揺れ動く人々の想いが、この先さらに明らかになるでしょう。


さて、ここからは少し個人的なお話をさせてくださいね。

今日の更新で、この物語を書き始めてちょうど1ヶ月になります。毎日少しずつ書いてきて、気づけば14万字に……!だけど、今のところレビューはまだ一つもなくて、ちょっと寂しいなって思っています(笑)。もしかして、私の書き方が未熟なのかな……?(ドキドキ)

でも、実は素敵な感想を一ついただきました!平井さまがこの小説を「武侠ロマンス」と表現してくださいました。なんて素敵な言葉なんでしょう……本当にありがとうございます!その一言が、私にとって大きな励みになりました。

もしどなたかがこの物語を読んでくださっているなら、ぜひコメントや感想を聞かせていただけたら嬉しいです。一緒にお話しできたら、もっと楽しくなりそうです!これからもどうぞよろしくお願いします。

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