初恋の相手、実家がとんでもない所だった件
俺、しがない高校一年生の松田もとび。
実はな、気になっている相手が居るんだ。
それは同級生の天海ねね。
容姿端麗って程じゃないんだけど、男勝りで活発なところが気に入っている。
……だが、気になる点も幾つかある。
放課後はすぐに帰っちまうし、なんなら何人かの男性に送り迎えしてもらっているのだ。
本当に気になる所なんだが、その男性陣はおっかねぇ感じで先生どころか天海本人にどういった関係か聞くのが怖い。
たまに話すことはあっても、『付き合ってください』とも言えず……2月14日の日になった。
▫▫▫
バレンタインデー当日、いつもの通りに学校へ行った。
下駄箱で上履きを取ろうとしたら、何やら紙が入っている。
『放課後にお渡ししたい物があります 天海ねね』
本人からお誘いがあったのだ!!!
(もしかしなくても、チョコだよな。まさかの展開になったが、向こうも気があったんだ…)
そう思いつつ、俺は教室に向かった。
教室に入ると、天海は俺の事をチラチラ見ながら頬を赤らめている。
これはほぼほぼ、間違いない。
(まあ、放課後まで待ちますかの)
そう思った俺は席に座った。
▪▪▪
その日の放課後。
「ま、松田くん!」
天海に話しかけられた。
「ああ、渡したいものがあったんだっけ」
「うん、これ……っ!」
綺麗に包装された箱を渡してきた。
「あ、あ、あたし、松田くんの事が、す、す、すき!好きなのっ!うけ、うけとって、くれるかな!」
「ぷっ……あはははっ!」
普段との様子と違って見えたから、思わず俺は笑ってしまった。
「わ、わら、笑わないで」
「あはは、分かったよ。俺で良ければ付き合っていいよ」
そのまま、俺らは学校近くの喫茶店に行こうという話になった。
のだが……
校門を出たところで、何度か見かける男性陣に囲まれた。
「……げっ」
天海がそう呟く。
「なあ天海、確か送り迎えしている人達だよな」
小声で天海に話すと、小さく頷く。
「お嬢、お迎えに来ました!!」
一人がそう言う。
天海は「はぁ」と、溜め息をつく。
「櫻田さん、今日の迎えはいいって行ったでしょう?」
「でも、それだと叔父貴が……!」
櫻田と呼ばれた人がそう返す。
「あのお方の事なら、私の方からきちんと言いますわよ」
男性陣の後ろから、女性の声が聞こえた。
そこには着物姿の女性が立っている。
「あ、姐御」
「お母様……!」
「お二人とも、ここは任せておいてくださいまし。さあ、さあ」
『叔父貴』やら、『姐御』……分からずじまいだが、今は聞いている暇は無い。
「とりあえず、行こ行こ」
天海に言われて、その場を離れた。
▪▪▪
俺らは、当初の目的である喫茶店に行った。
テーブル席に向い合わせで座り、コーヒーを頼んだ。
「ごめんね、さっきは」
天海が謝る。
「良いんだけどさ、天海の家系ってなんなんだ?もしかして、ヤクザとか……」
「あはは、当たりだよ」
頬を指でかきながら、そう天海は言った。
「……マジかよ」
「ごめんごめん、隠すつもりは無かったの」
驚いたが、天海が男勝りなのはそういう事なのかと……妙に納得した。
「実は、ウチって義島組傘下の天海組なのよ」
義島組は少し聞いたところがある。
県下最大級の組で、最近傘下の他組がガサ入れされたとニュースで見たな。
「ウチは義島組の中でも穏健の方で、警察とは暗黙の繋がりって言われているよ」
どうやら、警察が介入出来ない事は天海組の方で対処してくれと言われるらしい。
「まあそーはいっても、下手なことしたら暴対法で縛り上げられるけどね……あはは」
そう最後に付け加えた。
その後も色々と話していたが、天海のケータイが鳴った。
「……櫻田さんだ、どうしたんだろ」
「櫻田さんはさっきの人だろ、出てもいいぞ」
「ありがと」と天海が言うと、電話に出た。
「どうしたんですか……はあ……えっ?紹介してくれって!?」
「どうしたんだ」
俺がそう聞く。
「お父様が松田くんの事を紹介しろってうるさくてさ。お母様でも止められないらしいの」
ケータイのマイクを押さえながら、天海がそう言う。
大変な事になってしまった……のだろうか。
でも、これは行かないともっとヤバいことになりそうだ。
「天海、家に連れてってくれ。誤解されても仕方がないだろう」
そう言いつつも、内心は心臓が張り裂けそうだ。
「……分かったよ、松田くん。行こっか」
こうして喫茶店を後にして、天海の家へと向かった。
▫▫▫
天海の家へ着いた。
「帰りましたわよー!」
天海がそう言いながら、玄関を上がっていく。
その後ろから、俺は着いていく。
中はやけに騒がしい。
「叔父貴……!これ以上、子分の指を詰めるのは堪忍してくださいぃ!」
櫻田さんの声が聞こえる。
最近、ヤクザゲームの『鬼神が如く』のゲーム実況を観ていたから、その会話を聞いて俺はゾッとした。
天海は大広間とみられる部屋の扉を開けた。
そこは……想像していた通り、生々しい光景が広がっていた。
「お父様!これはどういうことなの!」
天海がそう声を荒らげて言う。
「お、お嬢……」
櫻田さんが言う。
「ねね、そいつが惚れた男かのォ」
天海の父がそう言う。
「ええ、そうじゃけど……これはどういう事かァ聞いとるんじゃ」
負けじと劣らず、天海が返す。
「余計な事、言ったからの……ケジメじゃ、ケジメ」
「はあ、私の事になるとカァっとなって、子分達の指を落とすの止めてくれんか」
会話が恐ろしく、俺は何も言えない。
「……で、あんたの名前はなんじゃ」
父が俺に聞く。
「ま……松田、もとびと、言います」
そう返すと、父がじっと俺の事を見る。
「あんた、ねねを守れんのか」
意外な言葉で、逆にびっくりした。
子分にあんなことさせといて、俺に『守れるのか』だなんて。
「な、守れんのかーと聞いとるんじゃ」
「は、はい!全身全霊で守らせて、い、いただきます!!」
俺は振り絞ってそう言った。
「……なら、エエわ。櫻田、お前の指は勘弁したろ」
そう言うと、その場を去っていった。
▪▪▪
「ごめんね、巻き込んじゃって」
家の門先で、天海が言った。
「いや、いいよ。お父さんの許可も得たしさ……ただ」
気になった事を聞いた。
さっきの会話で、『自分の事になると、子分の指を落とす』と言っていたのは何なのかと。
「ああね……あれは普通の家庭で言ったら、『親バカ』みたいなものなのよ。私の事を気遣っているらしいけど、お父様の思ったことに反発するとああなるのよ。お母様も止めなさいって散々言っているけどね」
それを聞いて、『穏健とは?』と思ったが……まあ事なきを得て良かったのだろうか。
「それじゃ、また明日ね」
「ああ」
―――こうして、波乱な一日に幕を閉じましたとさ。